第13話- 超絶変態ド変態セクハラ変態タッチ魔ロリコン -

「う、うぅ……痛っ」


 痛む頭を軽くさすり、目を少し開けた。

 ぼやける視野で目の前の光景を確認すると、白い天井がある。

 どうやら、またベッドで横たわっていたようだ。

 まあ、なんというか、生きているって素晴らしい。

 未知の攻撃に対して生身で直撃しても生存しているとは……

 当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれないし、腕の一本、肋骨の一本くらい持っていかれる場合もあるわけだ。

 そのどちらも無いってことは、奇跡だろ?

 それにしても、ひんやりしているベッドは相変わらず心地よい。


「……ん?」


 最初目覚めた時とはどうやら状況が違うらしい。

 目の前には、先ほど見た女の子のヘアがロングになっていて、歳が少し増した感じの人が俺を覗いていた。

 気を失う前とは違い、全体的に少しおっとりしているようだ。


「あの……俺は何年、気絶してました? っイってェ……」


「あらあら、ようやく目を覚ましましたね。年ではなくて二時間ですよ、フィーネ~。目を覚ましたわよ~」


 魔法によって精製された氷壁に直接殴打した部分とその衝撃で吹っ飛び打たれた前進の痛みがまだ癒えてないのだろうか。全身バッドで殴られた気分だ。


「大丈夫かしら? ごめんなさいね。フィーネが乱暴な事して。異世界の使者と聞いたら学園から飛んで帰ってきたのよ。ふふふっ」


 女性の笑顔はまだ若さを忘れていないスッとした柔らかい笑顔だ。

 俺が同世代だったら、惚れていたに違いない。多分。

 ところで、フィーネとは先ほどの凶暴な少女のことだろうか。


「でも、あまり過激なプレイはやめてくださいよ? 訴えられたら精霊法でかなり残酷な刑罰の類ですからね」


 精霊法? ああ政令法か。 強制猥褻罪とかそこら辺だろう。

 そりゃあって当然だ。


「でも、あなたが婿に入ってくれるなら、遠慮無くしちゃっていいのよ」


「ちょっと話が飛躍しすぎですね……」


 部屋の遠くからドタタタッともの凄い騒音が聞こえた数秒後、先ほどシャワー室&リビングで対面した魔法をぶっぱしてきた少女がドンとドアを開けて部屋に流れこんできた。

 部屋の遠くからドタタタッともの凄い騒音が聞こえた数秒後、先ほどシャワー室&リビングで対面した魔法をぶっぱしてきた少女がドンとドアを開けて部屋に流れこんできた。

 フィーネと呼ばれた少女は先ほどのシャワーから上がり髪型を黒の紐リボンでツーテールにセットしてある。

 先ほどの裸とは違って今は制服を着用しているようだ。

 セーラー服だろうか、衿袖と胸当ては水色で白のラインが三本。

 折り目が縦に付いているスカートも水色。

 半袖の袖口から見える腕は白くて女の子らしくほっそりとしている。

 どうやら白と水の半袖セーラー服っぽい。

 そして、空色のツーテールがメラメラと浮かんでいた。


「やっと目を覚ましたわね……超絶変態ド変態セクハラ変態タッチ魔ロリコン!」


「だから、お前のその……触ったのは悪かった! わざとじゃないんだ!!」


 どうすれば、この少女を収めることが出来るんだ。

 必死の言い訳を考えずに、それを俺は口にしてしまった。


「てか、胸が小さくてそうだとは気づかなかったんだよ!」


 少女はつり目になり、蒼玉の瞳サファイアは今だけ真っ赤な紅玉ルビーと化してるように見える。


「ママ! やっぱりそいつは燃えないゴミよ! 粗大ごみ! 今すぐ処分して! 幻獣種の餌にするのも名案だわ!」


「俺は有機物だから粗大ごみじゃねえ! 強いて言うなら生ごみだ! どこかと同じく脳も萎縮してるのか?」


「へ、へぇ~。さっきは手加減して命を助けて上げたのに、感謝って気持ちがないのね。そうよね。あんたはそういう人間だものね。痴漢やろうなのよね」


「いや、殺す気だったろお前。あの世へ行けとか言ってたし。あと痴漢じゃない」


「あたしが殺す気だったら氷刃であんたなんか一発で仕留められるわ痴漢野郎」


 ……前言撤回だ。

 この少女は女神でもなんでもない。

 ただの美少女に化けた悪魔だ。


「今、絶対失礼なこと考えてたでしょ」


 丸い目を細めて、逃がさないかのように俺を睨んでくる。


「い、いや? そんなこと考えてない」


「どうかしらね……」


「もう一度言っておくが、俺はわざとしたわけじゃないからな。興味なぞない」


「さ、触った上に、あたしの全身を視姦してたくせに……よくもそんなこと言えるわね」


 うるうるしてる瞳は自分に自身がないのか、何なのか知らないけど、とりあえず褒めておくのも手だな。


「そりゃ……何てったって美少女の生まれた姿だからな。正直見惚れてたぜ」


「び、びしょ――」


 少女はまた頬を、顔全体を真っ赤なトマトのような仕上がりになった。


「ちょっと待て! 今は怒らせたこと言ってないよな。よな?」


「そ、それくらいわかってるわよ!!」


 どうやら俺に悪気が無いことは理解してくれたらしい。

 最初の印象からもう一度暴れ始めるのも想定していたが、思ったより聞き分けが良い。


「ところで、このイチャイチャを見せつけられているママはどうすればいいのかしら」


 突然、年上の女性がとんでもないことを口にした。

 というか、母だったのか。 その容姿から、年上のお姉さんと勘違いしていた。


「こ、これは違うのよママ。あきらとは何の関係もないのよ」


「……ちょっとタンマ。何でお前が俺の名前知っているんだ?

 お前にも自己紹介したっけ?」


「えっ!? そ、それは――」


 そう言って、少女はあたふたした後、俺にぴょっと人差し指を向けた。

 正確には俺と言っても、俺の下半身に、だが。


「……どこ指してるんだよ。恥ずかしいじゃねえか」


「ちょっと勘違いしないでよ! あんたの……じゃなくて! あんたのだけど、そっちじゃなくてそこに書いてあるじゃないの! それ、名前じゃないわけ?」


 下を向き、俺のズボンを確認する。

 たしかにそこにはひらがなで「あ・き・ら」と書かれてあった。


「それ、あんたの名前でしょ?」


 ……あきら。

 それは俺の名前。フルネームは如月煌きさらぎあきらだ。

 でも、よく考えると、それ以上に関する俺のことを思い出すことができない。

 健二を探して森に行って……、謎の少女に操られて落ちたくらいしか覚えてない。

 しかも、それは何年も前の出来事に感じる。


「あ、ああ。俺の名前……だ」


「一応自己紹介しておくわ。あたしはフィーネ・フリーレン。そこにいるのはママ」


 はあい、と挨拶しているのかのようにフィーネママが手を広げ左右に振る。

 やはり、少女の名前はフィーネらしい。苗字はフリーレンか。


「でもフィーネ、この子はどこから来たのかしら。ワールド、ミール? それとも他の世界から異世界の使者としてベルディにやって来たのかしら?」


「ワールドだと思うわ。えぇ、きっとそう」


 フィーネは何の躊躇いもなく、俺がワールドからやって来たと断言している。

 ワールド。

 外国語で、「世界」という意味だ。 俺は「世界」出身なのか……?

 

――dsfまfgjはsdjがd、m;ぁhjがdか;じょmglfkadjfo;pasih――

 

 ――くそっ!

 ダメだ。 思い出せない。

 思い出そうとしても、脳に霧が懸かったかのように遮断される。


「きさらぎあきらって名前はワールド特有の姓なのかしら?」


 俺の苗字はワールド特有の姓なのだろうか。

 今の俺には判断出来ない。


「ちょっと待ってくれ。こっちに来た前後の事以外、思い出すことが出来ないんだ」


 捻りに捻って思考を巡らせるが、ヒントの一つも辿り着くことが出来なかった。


「えっ!? あきらくんはもしかして、記憶喪失?」


 少し垂れていた目が一瞬だけ丸くなった。

 俺が記憶喪失であることに、フィーネママは動揺を隠せないようだ。

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