第12話- お風呂場といえば -



「や~っと姿を現したわね」


 笑み絶えない少女の顔は可愛いのか恐いのか判断できない。

 これはヤバイ。――半殺しにされる。

 目の前には魔法を使える少女、通称魔法少女が君臨されている。

 男女の体格差がどうとか言ったけど、あれは嘘だ。

 魔法というパラメータが存在するなら話が違う。

 だが、おれにはまだ秘儀がある、こうなったら――


「あー! あそこにユーフォーが飛んでる!」


「えっ!? どこよ?」


 少女は俺が指差した方向へ顔を向け、キョロキョロと探し始めた。


「ってユーフォーって何よ!」


 右手に持っている小さな細長い杖を奪えば、魔法が使えなくなるに違いない。

 俺は速攻で少女に近づき、杖を奪おうとするが

 ツルっと。


「うわっ――!」


 床が凄く滑りやすくなっていることを完全に忘れていた。

 俺は態勢を崩して、そのまま少女に突っ込む形となり、


「キャっ!?」


 と、可愛らしい声を少女は上げ、俺たちは一緒に転倒した。


 ……。

 ………数秒の時が過ぎた。


「痛っっ……くないぞ?」


 目を開けると、至近距離でサファイアの瞳を持つ少女を俺は眺めていた。

 状況を確認する限り、どうやら俺は少女を押し倒しているらしい。

 そして、その少女が先ほど纏っていたバスタオルは何故か俺の背中に掛かっている。


「おい。お前頭とか大丈夫か? 打ってない?」


 俺が滑って少女に体当たりして転倒したのだから、怪我の心配はしないといけないよな。 我ながらの紳士っぷりに脱帽脱帽。


「頭打ってるのはあんたの方でしょう、が!」


「グッブォ!!」


 防御のまもなく、俺の顔面目掛けて思いっ切り直突きをしてきた。


「やめろ! ストップストップ! 俺はお前の怪我を心配してるんだぞ! つか前が見えんっ」


 先の直突きで視界を奪われた俺は、何とか攻撃を回避したため、相手との距離を保とうと手を伸ばすが、


「ん、きゃっ」


 弱々しい少女の声が耳に入ってきた。


「視界がぼやけるな……。今、一体どうなっている?」


「ひゃ!」


 むむ? 暗くなってから色っぽい声がしてくる。

 一体何が起きているのか。

 そもそも俺は五体満足の状態なのか?

 取り敢えず、俺は手指を動かして手足の無事を確認した。


「ひゃあっ!」


 この柔らかい感触は何だろう。 肌か? まさかな。


「あ、やっと見えるようになってきたわ」


 俺は右腕で両目を擦り、とんでもない状況だったことを思い知らされた。

 目の前の少女は赤面しており、サファイア瞳は潤々としていた。

 そして、素っ裸の女の子の……。

 女の子の肌は柔らかいと言われているが、思った以上の数倍柔らかい。 

 つか、思った以上の数倍柔らかいどころじゃなく……。

 否、これは――!


一重陣魔法シングル・マジック――」


「これは誤解だ! 俺は望んでしたわけじゃない! おいっそれはやめて――」


「――氷壁アイスウォール! もう一度あの世に行きなさい!」


 すぐ近くの壁面から、氷の壁がゴゴゴっと重い音と共に俺に向かって思いっ切り出現するのを尻目にした。

 大き目の凍でできた壁に俺はブチ当たり吹っ飛ばされ、直後に頭に衝撃が加わり、俺の意識は遠くへ――

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