実話怪談 死相他

第26話 橋北中学校水難事件

　橋北中学校水難事件または津海岸集団水難事件という水難事故をご存知だろうか？　三十六人もの死者を出した日本最大の水難事故である。事故は1955年7月28日に起こった。

　事故当時は波も穏やかな快晴で絶好の海水浴日和であったにも関わらず、岸からそう遠くない場所で百名もの生徒が溺れ内三十六名が帰らぬ人となった。

　事故からしばらく経った後、ある噂が流れ始めた。出所は事故で九死に一生を得た体験者からだった。

　曰くモンペ姿に防災頭巾の女の集団が、海から現れ溺れた女生徒たちを海に引っ張り込んでいた……という噂である。

　体験者の中の何人かはその女達を見たと証言しており、青白い無数の手に掴まれ海へ引きずり込まれたという。

　この噂は瞬く間に広がり、心霊番組や週刊誌を賑わせた。

　因縁を感じさせる話として事故からちょうど10年前の7月28日に空襲があり三重県津市は壊滅、火葬しきれない遺体を浜へ埋めたという、その無縁仏の数がちょうど三十六名とする説もある。

　このような数字の一致は因縁説を補強し、この怪談を有名にした。

　事故は科学的検証が何度もなされ、当時の学校関係者の責任問題も含め議論されたが、原因は異常流ではないのかという仮説だけを残して、今も原因不明である。

　事故の舞台となった中河原海岸は現在も遊泳禁止であり、地元のものは決してその海岸では泳がないそうである。

　近くの岸に女神像を象った慰霊碑があり、その女神像が時に血の涙を流すなどと言う噂もあり、中河原海岸は有名な心霊スポットになった。

　空襲そして事故で亡くなった方の冥福を祈ります。もうこんな事故は起きてほしくないですよね……。