第25話 おじさんの声

 僕の専門学校時代の友人K君の体験談。


 ある夏休みの事、K君は地元のS県に帰省していました。そこで高校時代の友人に誘われある廃墟へ肝試しに行ったのです。


 そこは骨組みだけなった住宅跡地で惨殺事件があったという噂がありましたが、その噂はデマであるとK君は知っていました。


 夜中に男二人、女の子二人で車に乗り込み、廃墟近くに車を停め、一人がホームビデオカメラを片手にワイワイと騒ぎながら廃墟へ向かいました。


 辺りは深い闇に包まれしんとしていました。おお……雰囲気あるなぁなんて言いながら進んでいきます。


 ちょうど私有地に差し掛かった辺りを通った時です。ふと目の前におじさんが現れ「何してんのっ!」と声をかけられました。


 おじさんは普通の青地のTシャツに作業着っぽいズボンを着た、普通のおじさんでした。ただ表情だけは険しく、怒っているようでした。


 あっ! まずい地主の方かなと思いK君は「すいませんでした」と頭を下げました。他の三人もペコリと頭を下げて、顔を上げた時でした。


 いないんです。おじさんが、まるで煙の様に消え去っていたのです。


「えっ! 嘘だろ」四人全員が慌てます。それはそうでしょう皆おじさんの姿を見ていたのですから。


 悲鳴を上げ車まで逃げ帰ったそうです。その日の肝試しはそこで中断となりました。


 後にホームビデオを見てみると、おじさんの姿こそ写っていませんでしたが「何してんのっ!」という声ははっきりと録れていたそうです。

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