第10話 恋の質問コーナー
合宿場である!
海の方なら水着もあるでしょうが、山の方のやつです! 残念!
そして部屋割は池澤部長と二人です! 超残念!
「なあ、先生……いや莉美さんのこと、どう思う」
荷物を開封しながら、こちらのほうを見ずに質問してきた。どう思うって、いろいろ思ってますよ。ブヒヒとかブヒヒヒとか。
「告白すれば好きになってくれるかどうかについては、まだどちらとも言えないだろうな。保留ってところか」
冷静ですね。もし僕が自分の事を
「よく知らないのに好きだと言われても信用できない。そういうことらしい。難しいもんだな」
そうでもないだろ。少なくとも好きになった人のことは気になって、どんどん詳しくなるだろ。
僕はもう
「ラーメンもカレーも一口食べたら好きか嫌いかわかるじゃないか。なあ」
でも一応訂正しておこう。
「好きな食べ物はカレーですって言う人が、一回しかカレーを食べてなかったとしたらどう思います?」
「ん? あぁ、そうか。そうだな」
一緒に部屋を出て、鍵を締める。
ブリーフィングルームに向かう廊下の途中で、
「そう聞かれたときに美味しい食べ物は全部好きだ、何ていうのが悪いんだろうな」
と部長はひとりごちた。
彼は基本的に人間が好きで、特に女性とか子供とか美人とか関係なく好きなんだろう。
僕は基本的に可愛い女の子が好きで、特に巨乳とかロリとか眼鏡をかけてるかけてないに関係なく好きだ。
実は僕たちは、似た者同士なのだろうか……。
「あ、来た来た」
ブリーフィングルームに入ると、まなか先輩が手を振った。
上ケ見先輩は麦茶を入れた紙コップを配っており、出雲さんはものすごく小さく口を開けて舐めるように飲んでいた。
もう先生も席についており、システム手帳を開いている。どうやら遅刻したようだ。
「すみません、遅れて」
「すみません」
「いいのよ。なんか男同士の情事……事情があったんでしょ」
今、情事って言わなかった?
「さて、合宿で何を話すの? 池澤部長」
「それはもちろん、先生のことです」
「えっ? わたし?」
「ええ。もちろん。俺が先生のことを知るための合宿ですし」
「そ、そんなのみんな退屈でしょ!?」
退屈なわけがない。
まだスリーサイズも知らないし、知りたいことは山ほどある。
「あーしは先生のこと知りたいけど」
上ケ見先輩! ちょっと照れくさそうに言うところがブヒれる!
「リミセンに聞きたいこといっぱいあるんだー」
まなか先輩! 絶対セクハラ的な質問だと思う! ブヒれる!
「……退屈じゃない」
出雲さんが喋った! 先生のために! 優しい! ブヒれる!
「でも
すみません、ブヒッてたもので。
「僕は、先生のこと、もっと知りたいです」
「え。そ、そう」
しょうがないなあ、という態度ながら嬉しそうな顔を見せる先生。ふーむ、このチョロさでなぜ池澤部長の告白でコロッといかなかったのか。そういうところを知りたいですね。
部長はまた司会をするつもりなのだろう、ホワイトボードの前に移動した。
先生はホワイトボードの近くに座り、他はその対面に座っている。
「とはいえ、これは恋愛研究部の部活動ですから、質問は恋愛に関係があることになります」
部長! スリーサイズは恋愛に含まれますか!
いや、しかしどっちにしろこんなオープンな状況で質問する勇気もない。オシテルのいくじなし! バカ! もう知らない!
「とはいえ、先生に恋愛のことを平気で質問するのも難しいからと思う。なので、みんな聞きたいことを紙に書いて箱に入れよう」
天才だ! うちの部長は天才だぞ! 褒めよ、讃えよ、崇めよ!
「一人一つだと結局わかっちゃいそうだし、どのくらいがいいかな」
「あぁ、じゃあちょっと先生は挨拶とか連絡とかの用事を済ませてくるから、戻ってくるまででどうかしら。30分くらいかな」
「あ、はい、じゃあそうします」
先生はそそくさと退出していった。
用事があると言っていたが、普通に考えてみんながみんな自分の事を考えているところで黙ってみているというのは恥ずかしいだろうな。
でも、恥ずかしがっているところを見たかったッ!
「じゃ、莉美さんが戻ってくるまでに書こうか」
そうだ。時間制限があるんだ。考えなければっ!
しかし、僕が破廉恥なことを書いたら幻滅されるのでは?
「このメモに書いて二つ折りにしてティッシュ箱に入れる。字で誰が書いたかわかるかもしれないが、読むのは出雲にお願いしようと思う」
なるほど。出雲さんなら変な推測とかしないだろうし、余計なことを言わない。
つまり!
安心して!
何でも書けるわけだね!?
僕は一心不乱に書きまくる。
「……?」
今のは出雲さんではない。僕だ。
オカシイ。
静かすぎるのだ。
「「……」」
みんなぼーっとぼんやり上を見ている。
「あの~?」
僕の声にみんなこちらを向いた。
「僕だけ書いてたら誰が書いたものかわかっちゃうので、みんなも書いてくれないと」
そう言うと、むにゅ~っと口をアヒルにしたまなか先輩が、
「恋愛のことについて聞くことがすぐに出てくるくらいなら、こんな部活やってないって」
と愚痴るようにこぼした。
そうか。みんな恋愛下手でしたね。そこがブヒれるポイントでもありますが、今は困ります。
「まなか先輩は先生に聞きたいこと無いんですか」
「あるよ? 経験人数とか~、初体験の感想とか~、一人でするのかとか」
それは僕も聞きたいですけども!
そりゃ興味ありますけども!
「セクハラですね」
「だよね~。セクハラ以外の質問が思い浮かばない」
さすが、まなか先輩だ。僕にならどんどんセクハラしていただいていいですよ。
「俺はセクハラ質問なんか思い浮かばないからな! 単純に何も浮かばないんだ」
部長の言い訳は言い訳になっていない。ショボい。
「先生には誰が書いたかわからないんだ。書ける人が書いてくれ」
他人任せだった。ショボすぎる。
まぁ、いいや。いっぱい聞いちゃおうっと。ブヒヒ。
しゅしゅ……と時折、出雲さんや上ケ見先輩が鉛筆を滑らせる音を聞きつつ、書けるだけ書いた。
「お、おまたせ~。ちょっと遅くなっちゃったかな」
もう戻ってきちゃった! まだ書いているのに!
しかしいまだに書いているのは僕だけだった。
「こ、これが最後ってことで」
ラストってことで、箱に紙を入れた。
「そ、そんなにいっぱい聞きたいことあるの?」
先生が髪を触りながら、席についた。
僕が先生に興味津々だということがバレてしまったか……いやそんなのとっくにバレているから問題ないな。
「そうですね」
「ふ、ふーん」
髪をいじっている。今日は黒と白の水玉のシュシュです。少しだけ茶色の長くてふんわりとした黒髪。いいですねえ。どうしてそんなに綺麗でいい匂いの髪の毛なんですかっていう質問もしたいですよね。
「……」
出雲さんが僕の隣に座って、ティッシュ箱を手繰り寄せた。
他にも席が空いているのだが、隣りに座ってくれたぞ。単に読み上げるためにティッシュ箱に近づいただけだろうけど。嬉しい。
出雲さんはティッシュ箱を、がさがさっとかき混ぜて、部長の方を見た。初めていいのかと問うているのだ。
「ああ、頼む出雲」
「……初めてのキスの味はレモンって本当ですか」
「ええ!?」
ふむ。
出雲さんに読ませるという判断。本当に部長はグッジョブといえよう。
そして大人の女性なのに、この程度の質問で顔を真っ赤にする先生は可愛すぎる。まなか先輩が本気を出してたらどうなっていたんだ。
ちなみにこれは僕の書いた質問ではない。上ケ見先輩ですかね。良い質問ですね~。
「これって恋愛の研究に必要なことなの?」
先生の疑問に対し、部長は顎を擦る。考えてる場合か!
「必要です、先生」
「んー、そう。
僕が望むなら答えてくれるらしいです。いっそ直接味を教えてくれませんか!
「えっとね。どきどきしすぎて味なんてわからないのよ」
ウッヒョオオオアアア!
聞いてる僕もどきどきしすぎて、どうにかなりそうですよ!
思わず先生の唇をじっと見てしまい、それを感じた先生は手で隠した。
「リミセンばねえ~、マジぱねえ~」
ギャルっぽく口では軽口だが、上ケ見先輩も顔が真っ赤です。自分で聞いたんじゃないの? それとも出雲さんが書いたとか? 想像するだけでブヒれますね。この合宿、神ですね。
「そんなに真剣な顔して……そんなに興味あるの……?」
あるに決まっているが、ブヒりすぎているだけであり、全然真剣ではない。脳内ではピンクの豚さんが輪になって踊っている。ブッヒヒッヒー、ブッヒッヒ♪
「恥ずかしいなあ……」
恥ずかしがっているところがいいんです。
「……」
出雲さんが僕を見ている。続きを読んでいいのかと訊いているのだろう。やだ、以心伝心!
「……」(こくり)
「……」(こくり)
伝わってるようです。こんなに嬉しいことはない。
「……男性の好きな体の部位はどこですか」
僕の質問ですね!
「ええっ!? これ恋愛かな~?」
「好きな人のどこが好きかということですよね」
「大いに関係あるな」
いいぞいいぞ、みんなわかってるぅ!
「う~ん、そうねえ~。
「歴史上の人物の話ではなく」
「
つい本気になってしまったね。しかしこれは当然のツッコミと言えよう。ちょんまげ頭フェチとかそんな答えは許さん。
「うーん。男の人の短い髪のところを触るの好きなんだけどなー。カリアゲのところとか触るの気持ちいいし」
それはぜひ触って欲しい! よっしゃ、後頭部を刈りあげるか!
「あ~それはわかるかも~。小学校のとき坊主の男子に触らせてもらってたな~」
まなか先輩がそういうなら、今すぐ丸坊主にします!
「後はやっぱり手かしら。顔が男っぽくなくても、手は男って感じがするのよね。ゴツゴツしてて力強い感じ」
わかる! 女子プロレスラーの女の子とかも手は細くて可愛かったりするんだよね~! ブヒヒ!
「ほんとだ」
「本当だね」
何が?
なんかみんな僕の方見てます?
先生を見ると、こほんと可愛らしく咳払いをした。
「うーん、こんなことを話していて部活動になっているのかしら」
どうなんでしょうね。
ただ、顧問の先生のことをどんどん好きになっていくことは確かですね。
「次」
出雲さんは真面目に進行しようとする。素敵だ。
「親友が好きな人を好きになってしまったらどうしますか」
うわー!
恋愛っぽい!
当然僕の質問ではない。え、誰? 絶対まなか先輩じゃないし、池澤部長でもないだろう。出雲さんなの? 出雲さんなの!? まぁ上ケ見先輩かな。ギャルってそういうこと多いらしいよ?
「ええと……ごめんなさい。親友がいないの」
……空気が。
出雲さん以外みんな気まずくなっている。
「じゃ、じゃあ、教え子とか。教え子と同じ人を好きになったらどうします?」
上ケ見先輩がアシストした。やっぱり上ケ見先輩が?
「そうね……もちろん譲る……と言いたいところだけど」
みんなが先生の方を向く。なんか名言の予感ですね。
「誰が相手でも譲れないくらい誰かを好きになりたいかな」
ウッヒョー!
きゃわいいいいい!
僕は誰が相手でも先生を譲ったりしませんよ!
「……」
出雲さんもだが、みんなして先生を黙ってみていた。
おおよそ、好感を持っているように思えたが、上ケ見先輩だけは悩んでいるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます