第6話

 翌日、午後八時四十五分。


 黒いスーツに身を包んだ燐と綾人は、エレベーターからエントランスへと姿を現した。


 綾人は至ってシンプルなものをだらしなく着崩しており、燐は短いタイトスカートに一般的なジャケットをきっちりと着込んでいる。


「綾人、ネクタイが曲がってるわ。それに緩みすぎよ。みっともない」


「おい、そんな締めたらだせぇだろうが!」


「変に悪ぶってる方がダサいわ」


「悪ぶってるもなにも、国に喧嘩売ってんだから十分ワルだろ。ぐえっ、苦しい」


 一度きれいに整えた綾人のネクタイを、「だまらっしゃい」とでも言うように燐はぎゅっときつく締める。


「てかお前な、スカート短すぎやしねえか? 脚技使ったら見えんぞ、中身」


「中に短い黒いのを履いてるから大丈夫よ」


「へえへえそうですか」


「ご期待に応えられなくて申し訳ないわね」


「はっ。笑わせてくれるな」


 燐はおもむろに黒いニーハイソックスの上に付けられたレッグホルスターに手をやり、何かを憂いているようにため息をつく。


「脚技を使わなきゃいけないような事態には、ならないほうがいいけれど。ね」


「ま、無理だろうなぁ。あちらさんも黙って俺らを逃すとは思えねえし」


「……そうね。せいぜい、交渉相手がお利口さんであることを祈りましょう」


 燐は微笑み、綾人を見上げるように首を動かす。ポニーテールにされた長い黒髪が、さらさらと空を滑った。


「ごめんね、待たせちゃった?」


 同じく黒いスーツを着た悠、真滅、零がエレベーターを降りて現れる。燐と綾人が軽く首を横に振るったのを見て、悠はにこりと笑った。


「それじゃあ行こうか。綾人、スキルの展開を」


「おうよ」


 立体がその場にいた全員を包み、自動ドアを抜けて夜空に舞い上がる。


「夜はいいねえ。僕たち無法者アウトローの時間だ」


「あら、珍しく格好いいこと言っちゃって」


 悠が何気なく口にした言葉に、揶揄うような声音で燐が返事をした。


「惚れ直した? 燐ちゃん」


 そう言いながら燐の方を見やった悠は、緊張感のない笑みを浮かべている。


「あなたに惚れたことなんて一度もないから、惚れ直せないわ」


 燐はふいと顔を背け、そう言い放つ。


「燐ちゃんってば辛辣……」


 悠の情けない声に、零からくすくすと笑い声が上がった。


「そろそろ着くかな。悠、そのだらしない顔をどうにかして引き締めて、威厳を出せ」


 真滅のその言葉に、悠は「あんまり得意じゃないんだけどなぁ。威厳出すとかは……」とぼやいた。

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