第4話

「燐ちゃんお帰りなさーい! やっぱりドレスとっても似合ってるね!」


 大きなビルの中に入った二人を出迎えたのは、柔らかな栗色の髪の毛と緑が混ざったような明るい茶色の瞳が印象的な青年。歳の頃は、燐や綾人とそう違いがないように見える。


 彼の名は悠。月影の首魁でありながら、日々燐のストーキングに精を出す変人である。


「ええ、ただいま。他のみんなは会議室かしら。報告と明日の確認を……」


「もちろん、もう集まってるよ」


 広げられた悠の腕を無視し、燐は奥のエレベーターに向かって歩く。悠は何事もなかったかのようにそれに続いた。


「おい悠、俺を無視したその心は」


 その後ろをゆったりと付いてくる綾人は、悠にそんなことを問うた。悠は立ち止まり、振り返ったかと思うとこう捲し立てる。


「こんな可愛い燐ちゃんと婚約者の設定でパーティ楽しんできた奴を出迎えられるほど僕の器は大きくないって知ってるでしょ!?」


「ああ。お前の器なんてそもそも見えないレベルの極小サイズだもんな。でもよ、あの偽招待状手配したのお前だろ? そんなに嫌ならなんでわざわざあの設定に……」


 はう、と悠は息を飲む。それから両手で顔を覆ってわざとらしく項垂れた。


「ごめん、傷ついたから少し待って……」


「めんどくせえ奴」


「ゔっ」


「ちょっと!」


 エレベーターに乗り込んだ燐が不満げな顔で言う。


「置いてくわよ! いいの?」


「良くねえよ。乗る」


「あっちょ、僕も!」


 綾人は悠より少し早く駆け出してエレベーターに乗り込んだ。彼はそれと同時に早口で叫ぶ。


「閉まれ閉まれ閉まれ! そんでもって十七階に向かえ!」


 その綾人の声に反応して、扉は音もなく一瞬で閉じられた。


「あら……」


 すこし驚いたような燐の声を残し、エレベーターは上昇を始める。


 悠は自身の鼻先で閉まった扉を茫然と見つめ、ややあって、「僕、一番偉いんだよね……?」と呟いた。

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