第26話 命の洗濯

「…カワウソの兄さん達、その臭いどうにかしてくれない?」


 スタジオペンギンのゴスリス姉ちゃんは不快な表情と鼻を摘みながら言った。


「え?」

「めちゃくちゃニンニク臭いんすよ。ここ一週間。ここ来る人から苦情も入ってるし」

「わ、分かってるんだよ。けどここ最近はニンニク食ってないし…全然分からんけどニンニクの臭いが取れないのよ!?」


 …一週間前の朝、俺達は目覚めると全員、酷い胃のもたれと腹がパンパンに膨れ上がっていた。吐こうにも何故だか吐く事が出来ずに正に生き地獄だった。そして何より強烈なニンニク臭が俺達を苦しめた。風呂にも何回も入るも水を大量に飲もうともその臭いが消える事は無く"ニンニクの呪い"とでもいう物に掛かっているのだろうか…そして何故こんな事になってしまったのか全く記憶がない。


「とりあえず、その臭いが取れるまで出禁ちゅう事でおなしゃす」


 その言葉の下、強制退場を余儀なくされた。楽器を持ちながら路頭に迷う我らキルエムオール。途中にあったラーメン○郎の前を通るとそのパンチの効いた醤油とニンニクの匂いに吐きそうになった。フラフラとしていると、とある公園に行き着く。4席のブランコが空いていたので腰掛けると「はぁ…」とため息が出た。


「どうなっちゃうのよ、俺達」

「魚介にニンニクってマジかよ」

「マシマシデス」

「もう既に喋ってる時点で臭い」


 昼間の公園、色々な動物が寛いでいるが俺達の周辺の臭いに気がつくと顔をしかめ離れていく。その光景に再びため息をつくがその息が臭くて頭がおかしくなりそうになる…

 絶望の淵の中、突如として突風が吹いた。目の前を通ったネコのOLのスカートがさらわれパンティーが露わになるを見たが全く感情が動かなかった。死んだ目でいるとどこからともなく風に運ばれた一枚のチラシが顔面に引っ掛かり目の前が白一色にする。


「…がああ!ウゼェ!!」


 そのチラシを掴み丸めて放ろうとしたが、内容が目に留まった。


「こ、これだーー!!!」


 俺の荒げた声に3匹は驚く。


「びっくりすんだろうが」

「突然、ヤメテクダサイヨ」

「くせぇーんだよ」


 お構いなしで先程のチラシを突き出す。


"貴方のお悩み、病気、呪い、なんでも解決!「命の湯」"


 目の前に出されたそのチラシを白けた目で見る3匹。


「うさんクセー」

「今時、小学生デモ騙サレンデスヨ」

「ツボ売られそう」


 反応がとても薄い。そんな3匹に対し俺は喝を入れる。


「じゃあ今の状況がずっと続く事を望むのか!?嫌だろ!だったら可能性は虱潰ししていくとちゃうんかー!!」


 俺の気迫に押され黙り込む3匹。そして決意した目をこちらに向ける。


「そうだな」

「コノママ臭イノハ嫌デス」

「それでどこにあるんだ、その"命の湯"とやらは」


 再びチラシに目を掛ける。


「…パチパチ県」


 パチパチ県、それはここより3県隣の県である。


………


 翌日


『ご乗車ありがとうございました〜』


 2時間の電車旅から降り立ったそこは田んぼが広がり遠くに山脈が見えるど田舎。都会にあるビルも喧騒もなく、快晴である事で清々しい風景だった。


「なんとも気持ちがいい」

「うむ」*3匹


 駅を後にしチラシの住所を頼りに田舎道を歩き始める。季節は夏。日差しは強く、木々に留まるセミが「ミンミン」と鳴く中、汗を拭いながら1時間以上が経過した。

 そうして辿り着いたのは山の麓、目前には鳥居があり山の頂上へ続く長い階段がある。


「…マジかよ…」


 そう言いつつ、一段目に足をかける。ダラダラと汗をかく事20分以上、ようやく登頂を果たすとそこには神社があり境内は中々の広さだ。やっとの思いで着いた事からその場に倒れ込む。すると聞き慣れない声がした。


「おや?こんな所に珍しい」


 息を荒げながらその声の方向を見ると竹箒を持った老人の犬の神主がいた。


「はあはあ…ここに”命の湯”ってあるんですか?」

「む、このチラシは…何かお困りの様ですな」


 それから本殿に招かれ事情を話すと鼻を摘みながら話を聞いて貰った。


「なるほど…そうしてここに行き着いたのですか…」

「そうなんです!何とかしてくれ〜!」

「まずはあなた達に憑いている物を見てみましょう、どれどれ…これは!?」


 犬の神主は眼鏡を取り出し、俺達を見ると驚愕した。


「これはいけない!…早く除霊しないと臭すぎて死んでしまうぞ!」

「そ、そんなーーーーー!」*4匹

「…少し待っていなさい」


 そうして犬神主は奥の部屋に姿を消した。数分後再び現れた犬神主の衣装はなんか凄めになっていた。


「さあ、行きますぞ」

「…行くってどこへ?」

「命の湯じゃ!」


 外に出て本殿の裏手に案内されると林の中へ続く道が現れる。その道を辿り林の中を進むと徐々に水の音が近づいて来た。


「着きましたぞ」


 目の前には天辺が見えないくらい高い大きな滝が現れる。


「…温泉じゃないの?」

「温泉はありますぞ」


 そうして犬神主は滝の横を方向を指差す。そこには大量の湯気が湧き出ていてボコボコと泡が出ている。近寄って指を”ちょん”と入れてみると飛び上がった。


「あ!あっちーーー!これ高温源泉じゃねえか!」

「そうです。そしてこれこそ”命の湯”です」

「こ、これに入れってっか!?ふざけんな!死んじまうだろうが!!」

「甘えるなーーー!!死んでしまうぞーーーーー!」


 犬神主の気迫もありもう後に引けなくなってしまった俺達は服を脱ぎ全裸になった。そして源泉の前に並ぶ。


「これから私の言う通りにして下さい。それでは入って」

「押すなよ!絶対に押すなよ!」


 全員全く湯に入る勇気が出ない。躊躇していると犬神主が痺れを切らして俺達を蹴り入れた!


「はよ、入れー!ボケー!」


 強制的に”ぼちゃーん!”と音を立て高音源泉の中に俺達は突っ込んだ。その温度はまさに地獄!


「うわー!!!あちーーーー!無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!」*ジョ○ョみたい

「甘えるなーーー!」


 もがき足掻き暴れ這い上がろうとする俺達を犬神主は竹でぶっ叩き上がる事を許さず1分ほど経過した。


「よおし!上がりなさい!」


 必死で湯から上がると地面に転がり回ってみるが間髪入れずに犬神主は言い放った。


「次は滝だーーー!」


 最初に見た滝を連れて行かれ滝に打たれるように指示される。こちらにも足を”ちょん”と入れると凍るような冷たさ。


「ひいいいいいいいいいいいい!」*4匹

「はよいけーーーー!」


 またしても蹴り入れらるとコキュートスのような寒さに震えながら滝に打たれた。


「般若心経を唱えなさい!」

「…ま、まかはんにゃ〜…し、しんぎょう〜」


 こちらも1分ほど経過すると上がる事を許可され、地面に転がり回った。


「こここここここここ、これででででででで、除霊出来たんですかかかかかかかかかかかかか」

「これを20セット!!!」


 ……………


 ”カーカーカー”


 既にカラスが鳴き夕日が沈む時間に。お湯業と滝行を20セットを終えて地面で虫の息になっている俺達を見る犬神主は言った。


「整った」


 すると瀕死状態の俺達の体がキラキラと光出し、その光が宙に向かい何やら形を成していく。その光景を見守っていると見覚えの有る物が浮かび上がって来た。


「ひ!ひいいい!でっけーーーニンニクだ!」


 巨大なニンニクはしばらくそこにいたが何かが分かると空へ光と共に消えていった。それを茫然と見つめる我らキルエムオール。


「最後、あのニンニク様は”もう食べられない量は注文しないように”と仰っていた。それ、自身を匂ってみなさい」

「え、クンクンクン…!に、臭いが消えてる!!!」

「ホッホ、これにて一毛落着ですなぁ」

「ありがとうございます!!なんてお礼を言えばいいか!!」

「いやいや、これも私の役目ですからな〜。え〜〜〜〜それでは本日はこちらの金額になります」

 

 犬神主は懐から出した電卓に素早く打ち込むと俺達の目の前に突き出して来た。俺達はその電卓に表示された数字を見ると目を丸くした。


 ”¥160,000”


 ……


 帰りの電車、俺達は無気力のまま、4人用のボックス席に座っている。流れる田舎の夜景は美しいが気持ちは切ない。


「…まぁ、良かったよ」

「あのままニンニクと一生付き合うようりはマシだわ」

「ソウデスネ」

「うむ」

「そうだな気を取り直して行くか!!」

「うし!」

「マタ明日カラ頑張リマショウ!」

「あげあげ」

「よっしゃ!景気付けに一発入れるか!!」

「おっしゃーー!」*3匹


 ……

 

 数時間後、ホームに戻るとある建物に入る。そして頭にタオルを巻くサルに問いかけられた。


「ニンニク入れますか!!」

「マシマシで!」*4匹


 近くのラーメン○郎に行って食った。 

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