第25話 ラーメン○郎のウッキーさん


 


 …皆様は幽霊やお化けは見た事がありますでしょうか…もしくは不思議な体験をされた事がありますでしょうか…この世の中には未だ解明されていない事がごまんと存在する様です…そしてそう言ったものは"怪談"や都市伝説として語り継がれて行くのが理だそうで…

 …今宵お届けするのは、とあるカワウソ達に起こった不思議なお話…


………



"ジャジャジャジャジャジャジャジャ!!!"


"ズベベベベベベベベベベベベベベベ!!!"


ドコドコドコドコドコドコドコドコ!!!"


「生姜とすりおろしニンニクで召し上がる桜肉!桜肉!」*フリースタイル


 バトルメタルと再開したあの夜から数日が経過。我らキルエムオールは今日とてスタジオペンギンでより憎悪と嫌悪の強化を図り今は代表曲の"キルエムオール"を3回し終えた。決戦は18日後、こうして来たるべき日に備えるのだ。


「いいよ!実に良いよ!」

「フリースタイルも板について来たぜ!」

「マグロ爺ノ仇!」

「だから死んでないだろ」


 終了時間を迎えサクッと機材をしまいスタジオ7号室を後にし全員で「桜肉!桜肉!桜肉!」と連呼しながら受付前のレストスペースを目指す。受付に到着するとお馴染みのゴスリス姉ちゃんからいつものビールを4本を購入、レストスペースの空いているテーブルに着き、各々缶ビールのプルタブを持ち上げると"プシュ!"っと爽快な音が響いた。元気に乾杯をすると4匹は勢いよく喉に流し込む。そして瞬時にタバコを取り出すと火を付け一吸い、吐き出された煙はあっという間に辺りを包み込んだ。この一連の行動で今まで張り詰めていたものが"プツっ"と途切れヘナヘナと力が抜けていった。


「つ、疲れた…」

「今日の解体数凄まじかったしな…」

「ツーバスドコドコドコデ足ガツリソウデス…」

「今月のベースマガジン、マー○ス・ミラーか」


 それからダラダラとしていると時間は過ぎに過ぎ、気がつけば20時を回っていた。その姿を見兼ねたゴスリス姉ちゃんは迷惑そうに言う。


「カワウソの兄さん達、もう用無いなら帰ってよ」


 その言葉に無感情で反応してノロノロと機材を背負い、スタジオペンギンを後にした。

ぼうっとしながら繁華街を一列を成して歩く。それからも各自無言で遠い目をしながら足を進めていくと、何故かいつもの帰り道とは違う事に気がつく。辺りは外灯も一つ二つくらいしか無い暗い細い路地だ。その少しばかり異様な光景にぶるっと震えた。早く引き返し帰路を急ごうとした時、カワ島の腹の虫が"ぐ〜〜"っと鳴った。それに対して俺達3匹の腹の虫も呼応する。


「そう言えば、今日何も食べていなんだよな…」

「腹減ったわ」

「何カ食ベマショウ」

「そうだな」


 虚のまま言葉を発するが何を食べようかも

皆目答えを出せる頭でもない。とその時、覚えのあるパンチの効いた匂いが漂って来たのに気がつく。そしてその匂いに誘われるままに路地を更に奥の方へ進んでいくとポツンと一軒、明かりが灯る建物が現れた。目の前まで来ると見覚えのある黄色の看板が頭上に現れ俺達は見上げた。


 "ラーメン○郎 豚丘店"


「…こんな店舗あったか?」

「俺は知らねぇ」

「匂イガタマラナイデスネ」

「鬼が出るか蛇が出るか」


 幸いにも並びはない。そして扉を開けた。

中に入るとまぁ他の○郎でもあるような内装

、客は誰一人していない。厨房では店主であろう小柄のオスの豚がゆっくりと寸胴を眺めている。ありがちなその光景ではあるが何故か不思議な感覚。暫しの間、その場で止まっていたが店主の「食券どうぞ」という細い声で促されると左手に有る券売機をお金を入れ、俺達は全員950円の"大豚"を購入、卓上へ食券に出すと「ウチの大豚は他のお店とは比べ物になりませんよ、本当にいいんですか?」と問いかけて来た。俺達は空腹から感覚も麻痺していた事もあり「問題なし!」と元気に答えてしまった。すると店主は無言で調理に取り掛かった。

 

 待っている中、換気扇の音が目立つ。そして店主が「ニンニク入れますか?」に対し全員「全部で」とコールをするや否や恐ろしいまでのビジュアルのラーメンが目の前に置かれた。モヤシから丼の底まで50センチ以上はあるではないか。俺達はその光景に驚愕していると店主は無表情で言う。


「お残しは厳禁です」


 その無機質な言葉に俺達に寒気が襲いかかり恐怖した。そして意を決して戦いを挑んだ。


……


 …食っても食ってもモヤシが減らずご対麺すら出来ない。豚も丸太の様で半分以上まだある…

 

 それから時間をかけ頑張ったが敗北の時が来た。重い頭を上げ「もう食べられません」とこぼすと、店主はゆっくりとこちらを見て言った。


「ああ…言いましたよねぇ…お残し厳禁だって…」

「すいません」

「…こうなってしまった以上、ウッキーさんが来ますよ…覚悟はして下さい」

「え…どういう事」


 それを最後に店主は何も言わなくなってしまった。気味が悪くなりそそくさと店を後にした。最後の店主の言葉が気掛かりであるが道中何もなく無事に家に到着する事が出来た。

 部屋に入ると疲れからか俺達はすぐ様深い眠りに誘われて行った…



 ……


 "……ルルル、プルルル"


 

 俺は眠りからその音で目覚めた。周りを見ると真っ暗で未だ深夜3時。あれから数時間寝ていたようだ。そして目覚めたきっかけのその音を探ると俺のスマホが着信している。

どうせ直ぐに鳴り止むだろうと思い放置していた。だが鳴り止まない。イライラとし通話ボタンを押すと発信相手に怒号を飛ばした。


「何時だと思ってんだ!!ゴラァ!!」


 相手はから何の反応もない…イタズラだと思い、通話を切ろうとした時だった。


『私、ウッキーさん、今カッパ橋で鍋を買ったの。ガチャ!ツーツーツー』


 図太い男の声がスマホの奥からした。いきなりの事に驚き同時にあの豚店主の言葉を思い出す。


    

 "ウッキーさんが来ますよ"


 

 急に怖くなって布団に潜り込みブルブルと震える。そして数分後再びスマホが鳴り響く。


 "プルルル!!プルルル!!"


 その着信音に3匹も目を覚ました。


「…んだよ、うるせーなー」

「迷惑デスヨ」

「眠い」

「や、やばいんだよ!ウッキーさんが…

ウッキーさんが来たんだよ!!」

「…?何言ってんだよお前」

「だから!ウッキーさんが!」


 すると全くスマホに手を触れていないのに通話が開始される。


『私、ウッキーさん、今ラーメン○郎の豚丘店で鍋○郎を購入したの。ガチャ!ツーツーツー…』


 その状況に3匹も凍りつく。


「お、おい、これどういう事なのよ…」

「お、俺達がお残ししたからウッキーさんが来たんだよ!絶対!」


 "プルルル!プルルル!"

 

 混乱の中、再びスマホが鳴り響き勝手に通話が開始された。


『私、ウッキーさん、今、あなたの最寄りの駅にいるの。ガチャ!ツーツーツー…』


「ヤバい!ヤバい!どうしよう!?」

「こ、これ逃げた方が良いのか!?」

「怖イ!怖イ!」

「いや、殺っちゃう?殺られる前に殺っちゃう?」


 "プルルル!プルルル!"


またもやスマホが鳴り響き通話が開始された。


『私、ウッキーさん、今、あなたの家の前にいるの。ガチャ!ツーツーツー…』


 通話が切れた瞬間!


 "ガン!ガン!ガン!ガン!"


 玄関のドアが激しく叩かれた!!



「う、ウソだろ?!!!!!??!!!」



 10秒程、その音が鳴り響き身を震わせ呆然とする。"もうダメだ!"と思った瞬間、音が鳴り止んだ… 恐る恐るドアに近寄りレンズを覗く。しかしそこには誰も居ない…勇気を振り絞り、ドアを"バン!"と勢いよく開ける!


…やはり誰も居なかった…


「何だよ…驚かせやがって…」

「きっとあの豚店主かなんかだろ…」

「イイ迷惑デス」

「殺さずに済んだ」


 そっとドアを閉め、安堵しようとした瞬間!



 " プルルル!プルルル!"


 

 スマホが鳴った。そして通話が開始される。


『私…ウッキーさん…今…あなたの…後ろにいるの…』


 そしてゆっくり後ろを振り向いたその時…俺達は凍りついた…


 …目の前の部屋の中央で両手で鍋を持つ大きな影がある…


 あまりの事に俺達は声も出ず動く事も出来ない。最初その影は何なのか全く分からなかったが目が慣れて来るとその正体を見た。


 ぐりっと大きく血走った目玉に、歯を食いしばり口からはよだれを垂れ流し、鼻が前に大きく突き出ている巨体の豚だ。鍋を持ったまま息をせずにその大きな目玉でこちらを見ている。


 …そして、その巨体の豚はとても低い声でこう言った…



『ニンニク入れますか?』



「!?@¥&//-::☆*+%$!!!!!」*4匹


 

 …俺達はそこで意識を失った…



…………



 とあるカワウソ達に起きた不思議なお話、如何だったでしょうか…


 …ウッキーさんはお残しを決して許さなかったようです。しかしながらウッキーさん、そしてあの豚店主は何者だったのでしょうか…


 もしかしたら貴方も何処かにあるラーメン○郎豚丘店に出逢うかも…しれません…

 …その際、くれぐれも食べられる量のご注文をお勧めします…


 信じるか信じないかは貴方次第です…

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