第4話 全身ギブス

 綺麗な…それはそれは綺麗な川の中を俺は自由自在に泳いでいる。泳ぎは得意さ、そりゃカワウソだからな。水面から勢いよく顔を出すと、激しく水しぶきが立ち、今の自分にはスローモーションのように見えて美しい。頭上で燦々とお天道様が輝き、その眩しさから俺は目を覆う。そしてどこからか俺を呼ぶ声がある。岸の方を見ると、グラマラスでブリブリなウサギやらキツネやらネコやらのギャル達がビーチマットに横たわっているパラダイスが広がっているではないか。彼女達の前足招きが誘う。

 

 俺は本能のままその花園へ飛び込んだ。


 ギャルの谷間まで後数十cmだったその時、また別の声が頭の中で響いた。


 ”…まだ死んではならん…ト○ジャーファクトリーに来るのだ…”


 「…は!?…ギャ、ギャルのおっぱいは!?!?」


 謎の声を最後にさっきまでいたギャル達も自然豊かな川もなくなっていた。俺はここがどこなのかさっぱり分からず、ただただ混乱した。ベッドの上にいるのは何とか理解出来ていて体を少し動かしたその時、身体中に激痛が走った!


「い!?痛いいいいいい?!?!??!?!???!!!」


 思わず出てしまったその声の後、横にある扉が開いてネズミのナースが入って来た。


「カワ鍋さん!意識が戻ったんですね!」

「お、俺は…一体?!」

「あれです!」


 看護婦は俺の後ろ足の方向にあるテレビを指差した。全身ギブスと激痛から全く体が動かせないので、目だけやるとニュースがやっており中年の犬アナウンサーが実況していた。


『昨晩未明、スッポン山の山頂にて謎の大爆発があり犠牲者が出た模様。その時の状況を近隣住民のこの亀に聞いてみましょう。昨日に状況を聞かせて下さい』

「いきなりじゃ、いきなり。スッポン山が爆発したんじゃ。ずっと見ていたら、横の川からカワウソが4匹流れて来たんじゃ』

『ありがとうございます。なお原因は不明、山頂は吹っ飛び証拠になる物も全て粉々に消滅しているとの事で迷宮入りだそうです』


 徐々に記憶が蘇って来てこの大爆発の犯人、犠牲者は紛れもなく昨日の俺達のことだと理解し、落ち着きを取り戻した俺はただただぼうっと天井を見つめる他なかった。


……


「…こいつが有名な、見知らぬ天井かぁ…」


 あれだけの爆発にも関わらず生きているのは奇跡だなぁ。とりあえず全身骨折しているみたいだけど三ヶ月くらいで完治するみたいだ。

 あいつらには悪いが俺だけが生き残ってしまったようだな。俺にだけ起こったこの奇跡は何か、それは明白だ。”生きたい”という強い意志を持っていたからだ。かたやあの3匹は自殺なんて、ただのおふざけの感覚ぐらいでしかなかったのだろう。そして神は生を軽んじた事を許さず3匹のみお灸を据えたのだ。

 しかし、出会いからの時間はとてつもなく短くはあるが、手厚く弔い俺はこれからあの3匹の分まで強く生きていこう。骨も前より強くなるしな!

 

 その時、横開きの扉が勢いよく開いた。


「おい!カワ鍋!目覚ましたらしいな!」

「全然起キナイノデ心配シマシタヨ!」

「メロン持って来たぞ」


 生きてた。 

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