第3話 輝く世界

「右手に見えますのは大山椒魚タワー」

「すごいですね!自分初めて見ました!」

「ははは!ははは!」

「…」


 一体どういった状況なのか未だ頭が追いつかない。現在、カワ木のガイドの下にリムジンツアーの真っ最中だ。車内ではカワ島が観光を本気で楽しんでいるし、カワ谷は既に宴会を始めている。なおリムジムはその広さより快適な空間なはずだが、ドラムセットが半分陣取っていてそんなに居心地が良くない。それよりこいつら俺が持ってきた菓子勝手に開けて食うなよ。腹立つな。


  それでもリムジンに乗るのは獣生で初めてで、貴重な体験かも知れん。そんな事を思いつつ頬杖をついて、ぼうっと流れる景色を見ていた。


「カワ鍋さんどうしたんですか?ぼうっとして」

「え、あ~景色綺麗だなぁって思って」

「ですよね!自分都会きたの初めてですごい感動してます!」

「へぇー…地元どこなの?」

「自分、ポコポコ県です!」

「へぇ~すごいね〜」

「カワ鍋さんはどこの出身何ですか?」

「俺はペロペロ県」

「そうなんですね!」


 俺の地元ペロペロ県はここから鈍行1時間くらいで行ける。かたやポコポコ県てここまで新幹線で4時間かかる。しかも今日の為にドラムセットまで担いで来ている。


「ははは!ははは!飲んでる!?」


 カワ谷は乗車した瞬間から酒が止まらない。いや出会った時点で飲んでいたのかも知れない。正直この手は苦手なんだよなぁ…


「おい!おい!何飲む!?」

「じゃ、じゃあビールで」

「オッケーオッケー!所でお前仕事何してんの!?」

「書き込みしたように無職すよ」

「ああ!そうだったな!俺採石場で働いてたんだわ!」

「はぁ…」


 もう目の焦点が合ってないんだよな。すんごい怖いのよ…


 俺は渡された缶ビールのプルタブを開けてゴクゴクと飲み始めた。


「トイレ大丈夫か?」


 カワ木は最早ハイヤーに徹しているが、こいつ今楽しいんか?1番の謎だ。


 初めましての濃さが尋常じゃない。今まで会ってきた動物とは訳が違う。当初の目的としては”楽しく集団自殺しましょう”の体で集まった訳で、いの一番に”今日の自殺よろしくお願いします”ってのも何だから、最初のうちは自己紹介とか世間話とかはまあ良いよ。けど音楽の話が一切出ないのはどうなのさ?俺達の根底は音楽で繋がってたんじゃないん?カワ島はもうこのツアーを一番に楽しんじゃってるけど、一応4時間の旅路をドラムセット持って来てるから百歩譲って許すよ。問題は後の2匹よ。こいつら酒とドライブだけ楽しんでるだけじゃん。とりあえず全部引っくるめて、こいつら今日何しに来たのよ!?

 

 …もういいや飲むだけ飲むか。俺はヤケクソになって酒を流し込んで時間が過ぎていった。


「次は最後、メガ葉原」

「メガ葉原!?やった!自分、絶対行きたい場所だったんです!」

「お前田舎モンか!?ははは!」                     

「自分、生まれてから今までポコポコ県から出た事ないんです!アニメ好きなので一回は行きたかったんです!皆さん今期何見ています!?自分はシ○トン学園です!カワ鍋さんは!?」

「うぃ~うぃ~」


 飲み始めて何時間経ったか分からん。意識はあるが俺はすっかり出来上がってしまった。そんな中でいきなり指名で好きなアニメは何って…シ◯トン学園くっそ面白いよな、テンポいいしキャラも可愛い、それとOPとEDの曲が良いんだよなぁ、と共感したがシカトした。

 

 話変わるけど、これあとどのくらい続くの?今日○クソシストの続き見たいんだよなぁ。スマホで時間を確認してみると、もう22時を過ぎていた。

 

 考えるのも面倒臭くなってきたから、このほろ酔い気分に任せ眠りの園への導かれていった…


 …バチバチッ!バチバチッ!


「起きてください、カワ鍋さん」

「うう…痛い…」

「着きましたよ、始めますよ」


 お花畑でcillhopを聴きながらリラックスしている夢から、カワ島の力加減を知らないビンタで起こされた。ちょっとは加減しなさいよ。


 ところで着いたってどこだ?外を見ると真っ暗で何も見えない。


「えーと、ここは何処?」

「何って、今日のメイン会場じゃないですか」


 ああそうか、旅のしおりの通り、本日のメインは山奥での”俺達フェス”の開催でした。そんでここは山奥なのか。目が慣れてくると、だだっ広い原っぱで近くに獣の気配はない。こんなとこでカワ島はせっせとドラムをセッティング行い、カワ谷は奇声を上げながら宴の準備をしている。カワ木は運転の疲れからリムジンの横で一服をしていた。

 こうして瞬く間に会場は形を成していった…


 …そして


「…準備はいいですか?」

「問題なし」

「いくぜ!3!2!1!ハイオンファイヤー!!」


 合図と共にリムジンがLEDライトで虹色に輝き、爆音でメタル流れ始めた。


「いやっふーー!!ヘルイエー!」

「……」


 3匹のカワウソ達が酒を酌み交わし頭を振りすその光景に呆気に取られたが徐々に興奮してきている自分がいるのに気が付く。そして流れてきた曲に俺の脊髄が反応した。


「あ、ア○ターザベリアル」

「いいですよね!バー○ーカー!カワ鍋さん他にどういうの聴くんでしったっけ?」

「雑食だけどよく聴くのはメタルコアとポストハードコアが主流かなあ、直近でハマってたのはワイル○ースリープス、ア○アース、ぺ○ルダスクとかだけど」

「おお、熱いですね!僕はミクチャー、ニューメタルが好きなんですよ!レ○ジ、リ○キンはもちろん、マ○ドだったりラ○ズオブザノーススター聴きます!」

「わははは!ブラッ○サバス!ソ○ド!テ○タメント!ア○ゲイル!を聞けよ!」

「ドリ○ムシアター、t○e、マ○トドン、プ○テストザヒーローは?」


 流れてくる多くの激しい楽曲は大変心地いい。先日の”P○NTERA"以外は久しぶりの感覚。これは俺が願っていた”俺達フェス”の姿だ!各々が好きなメタルを語り、己を解放し外界を断絶、本能のままに暴れようではないか!

 語り合っていくにつれ、それぞれ好みとするジャンルが違うようでそれが面白い。

 カワ谷はブラック、スラッシュ、ドゥームメタル、ハードロックを好み、カワ木はプログレやマスロックに造詣が深いようだな。

 互いに刺激を受けていく事で更にフェスはヒートアップして行き、歌い、叫び、ガテラルしギターもかき鳴らし、ドラムも叩く!エアギターに始まりサークルピットもクラウドサーフもウォールオブデスもモッシュもダイブもやれる事は全部やった。

 4匹のカワウソによる”俺達フェス”は深夜の山奥で爆音を轟かせていった…


 …楽しい時間はあっという間なんだ。ずっと続けば良いと思うものの悲しい事に体力は有限、遂にその時は来てしまったようだ。


 いつの間にか目の前には小さな火がパチパチと音を立て優しく揺れている。俺達は魂が抜けたように放心状態でその火を囲い地べたに座っていた。身体中が打撲、擦り傷だらけで鼻血もどんどん垂れてくる。周りには物が散乱していて俺が持ってきたアコギも破壊されていた。ちなみにト○ジャーファクトリーで買ったからそんなに残念だとは感じない。

 

 他の奴らを見てみると、カワ島のタンクトップはズタボロに切れ裂かれていて、カワ谷の顔は腫れに腫れ試合後の八○樫のようだった。…なんでカワ木だけ無傷なんだろう?


 まあいいんだ、今は圧倒的なチルタイム。ぼうっと火を眺めていたらカワ島が口を開いた。


「終わりましたね…僕らのフェスが…」

「そうだなあ…」

「お前ら音楽詳しいんだなあ…俺前が見えないんだけど?」

「……」

「…僕、ポコポコ県のすごい田舎のブロッコリー農家で育ったんです。…体作りのために数年間の間ブロッコリーを隠れて食べているのがバレて…家を追い出されたんです」

「へぇ…」*3匹

「俺は…先輩のオオカワウソに追われている…ただ追われているんだ」

「そうなんだ…」*3匹

「特になし」

「……」*3匹


 誰が聞いたでもなく、各々が今日を迎えた理由を吐露する。獣それぞれ悩みがあり己だけがなんて事はない。少なくても今自分の目の前には大かろうが、小さかろうが、何かしらの壁が立ち塞がっている獣が3匹もいる。何かに、誰かに、縋りたい思いから今日という日を選んだのであろう。互いの傷を見せつけ舐め合う事で、自分の程度を知って”自分よりヤバいな”って感じる事で生きる活力を見出していける。傷の舐め合いは決して悪くない。そしてこのセラピーにも似た”俺達フェス”は確実に明日からの俺達を強くしてくれるはず。そう俺は確信していた。


「カワ鍋、ちなみにお前はなんで今日来た?」

「俺は…何も変化しない毎日に嫌気がさして…辛くもなく刺激もないぬるま湯のような生活に今後何の希望を持って生きていけば良いのか。このままではいかんと思い”えいや!”で仕事を辞めてこれから生まれ変わろうと気持ちを切り替えようとしたけど奮い立つ事が出来なかった」

「うんうん」*3匹

「おまけにキルエムオールウイルスの蔓延からの世界滅亡感。全てがどうでもよくなってしまいました」

「分かる分かる」*3匹

「けど、お前らに会って歌って、叫んで、暴れて、悩んでいるのは俺だけじゃない事を知れてモヤモヤが吹き飛んだ。本当は今日は面倒くさいから来る予定なかったんだよ。けど来た甲斐があった…そして俺は変わる!明日から強く生ける!俺達、頑張って生きて行こうぜ!」

「は?」*3匹

「ん?」

「何を言ってるんですか?今日の目的を忘れてませんか?」

「え、え、何?どゆこと?」

「ばかやろ!決まってんだろ!」


 パニくっている俺の目の前に、カワ谷が持ってきたいた高校生の運動部が持っているような、中高生が使ってる様なでっけぇエナメルバッグの中身を見せて来た。


「…これって何ですか?」

「発破だよ!発破!職場からブン取って来たのよ!こいつで俺達は全てを終わらせるのよ!」

「これだけの量なら痛みも苦しみも感じないだろう」

「…え?ええ!?!?嘘でしょ!?今日集まったのって冗談じゃないの!?マジなの!?ましてやこの感じは"明日も頑張って生きようぜ!”の流れじゃないの!?」

「何を今更、ささ、ちゃっちゃとやっちゃいましょう!」

「暴れるなよ」


 瞬く間に、俺はカワ島とカワ木に羽交い締めにされた!その間にカワ谷は慣れた手付きで発破の準備をしていく!暴れて逃げようとするがカワ島の剛力で身動きのとりようがない!

 

 身の危険を感じる一方で俺はこうも思ったのだ!”はは〜ん、あの発破、実は偽物で爆発なんてしやしないだろうな!初対面にしては大そうなドッキリしやがって!まあ仕方ないからこの場の空気に飲まれてやるか!”と!


 そして準備は完了しカウントダウンが始る!


「いくぞーーーー!!! 5!4!3!2!1! ハイオンファイヤーーーー!!!!!」


 次の瞬間、世界は白く輝いた。

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