自動車を信じない国 その1

 森の中に舗装された道があった。

そこを執事と車椅子の少女がゆっくりと進んでいく。


 「こちらの国は、道が舗装されている場所が多いのに車やバイクなどは走っていないのですね」


 「ええ、この国は自動車を信じない国ですから・・・自動で動くものはほとんどありません。しかし道路だけはなぜか別のようで、毎年新しい舗装技術が発表されては道がどんどん舗装されていきます」


「とても興味深いですね。いつか道路の管理者に話を聞いてみたいものです」


話していると大きな屋敷のたどり着いた。


「執事さん、こちらが私の住んでいるお屋敷です。そのままスロープを進んで行ってください」


「かしこまりました」


二人が玄関口に着くと、メイドが急いで出てきた。


 エマをぎゅっと抱きしめると、メイドは涙を流した。

「お嬢様!!!どちらに行かれてたんですか!!心配したんですよ~!!」

「そんなに泣かないでください。私はこうして元気に帰ってきました」


 エマをぎゅっと抱きしめていたメイドがフッと上に視線を向ける。

「貴方がお嬢様が以前に仰っていた、何でも叶えてくれる執事の方なのですか?」


 「そんな話が世間では流れているようですが、私は何でも叶える力はありません。しかし、お仕えする方に毎日精いっぱいのお手伝いをしていたら、いつしか周りの皆様が褒めてくださるようになりました」


「そう・・・なのですね・・・まあ、お嬢様が信じているなら私も信じましょう。もしお嬢様を傷つけるようなら容赦いたしません」


「かしこまりました」

執事がそう言うと、お嬢様のエマが振り向き言いました。


「執事さん、さっそくで申し訳ありませんが私の願いを叶えては下さいませんか?」

何故か神妙な表情のエマ。


「もちろん、よろしいですよ。何をいたしましょうか?」

執事はエマの前に移動して、跪いて話を聞く。


「私の護衛として、(イバルギア)という亜人の国についてきて頂きたいのです」

執事の目をじっと見つめて、エマは話す。


「お嬢様っ!!それはなりません!イバルギアなんぞ悪徳な国に行ってはなりません!!」

国の名前を聞いた瞬間、メイドは大きな声で制する。


「あの国にさえ行ければ、私の病気も治るかもしれないのです。この国では私の病気を治せる医者はいません。だからこちらの何でも叶えてくださる執事さんにお願いしたのです。どうか分かってください、スティア」


スティアという名前のメイドは、何か言おうとして・・言う事を止めた。




そして、コツコツと靴音が近づいてくる。

「こんにちは。執事様」


執事が声が聞こえた方向へ視線を向けると、そこには立派な髭をたくわえた金髪の中年男性がいた。

「はじめまして、執事さん。私はこの国を治める大統領で、この子の親でございます。どうかお見知りおきを」

大統領兼親は、一礼をした。


「おお、この国の大統領の方ですね。初めまして、私は旅をしている執事です。短い間ですがよろしくお願いします」

執事は深々とお辞儀をした。


「まあ、こちらの玄関先で話もなんなので執事さん、一緒にランチでもいかがでしょうか?」

大統領兼親は、執事を大広間へ案内をしようとする。


「ええ、是非。こちらのお嬢様の願いを叶えるうえで、大統領にいくつかお聞きしたいことがございますので」

ニコッと笑顔を向ける執事。


「なんでも聞いてくだされ!私には隠し事などありませんからね」

笑顔を笑顔で返す大統領。


「では大統領。私メイドはランチのご準備に取り掛かりますので、こちらで失礼いたします。執事さん、お嬢様をよろしくお願いします」

メイドは早歩きでキッチンへ消えていった。


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最強で渋い執事はいかがでしょうか? きりんじ @kirinjisann888

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