閑話 ある姉妹との出会い3

 コウ君と会う為に、私達は早く公園に遊びに行くようになった。


 愛梨はゲームがしたいから、私はコウ君とお話をしたいから、勿論ゆーちゃん達と遊ぶのも楽しみだったし、学校での嫌な事は相変わらずだったけど、当時を思い出すと、精神の均衡というのはギリギリの所で保たれていたのだと思う。


 コウ君には、イジメの事も話をしていた。


「そっか…現実でもRPGみたいにレベルアップ出来たらいいのにね?そうしたらいじめっ子にも負けないよね。」


 コウ君にそんな事を言われて閃いた。

 そして私はゆーちゃん達に相談をする。

 私も強くなりたいと、妹を守りたいのだと。


「―――て言うのが基本だけどな?小学生くらいなら強さって、体格と性格に大きく左右される。何も学んでいない奴ら相手なら、足運びを学ぶだけでも差をつけられる筈だ。」


「結月と同じ意見なのはなんだか不本意だけれど、私もそう思うわ。付け焼き刃ではどうしようもない事があるから。重々承知して貰いたいのだけれど、―――、それが一番良い方法よ。その為に役に立つなら…」


 そう言われて色々と教えて貰い、皆と遊ぶ日以外の日も、家で愛梨と一緒に練習していた。


 愛梨も以前の事があったからか、真剣な表情で特訓した。


「アハハ、凄いね。二人ともレベルアップしたんだね?」


 強い人達に色々と教えて貰っているのだと言うと、コウ君は楽しそうに笑った。



 夏休みを間近に控えて、学校でのイジメが少しずつ変化していった。

 今までは陰湿な物が多かったのに、直接的なアタリが増えてきた。


 今までは陰口をしていたのが、私に直接文句を言ってきたり、突き飛ばされそうになったり、暴力的な事は、お陰様でかわせるようになってきたけど、それが余計に相手を苛立たせていたようだった。



 ゆーちゃん達は夏休みに入ってすぐ、キャンプに行くと言っていたので、一学期の終業式に集まろうと言う事になった。


 コウ君とは、何時も会う約束をしている訳ではなかったので、平日である終業式の日には会えないだろうなと思っていた。

 それでも、もしかしてという思いもあり、私達はやはり早目に公園に辿り着いた。


 そして、会いたくない人達と会う事になった。


「来た来た。菊池さ〜ん。」


 水野さんが嫌な笑みを浮かべ、私達の前に現れた。


 夏休みになると学校に行かなくなるから、多少は怪我をしてもバレないと、そんな事を言っていたと思う。


 記憶が…曖昧だ。



 そして、男子達はバットを持ち、ゆーちゃん達に仕返しをしてやると息巻いていた。


「妹の方も、めちゃめちゃにしてやるからね。フフッ…」


 水野さんがそう言った瞬間、頭にノイズが走った。


『妹は私が守らないと。』

『私はアイツらよりもレベルアップしているはず。』


 なんて言っていたんだっけ…


『…をね……違う……』


 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべた六人が見える景色が、グニャリと歪んでいくような感覚があり、頭に鈍痛が訪れた。


 不意に、以前愛梨が乱暴された景色が頭を過る。


 怒りや憎しみのような物が、目の前を赤く塗りつぶしていくかのように視界が霞んでいく。

 意識が途切れそうになった時、毎回言われていた言葉だけが鮮明に甦った。

 そんな中、随分と遠くから聞こえてくるような水野さんの声が、私の意識を現実に引き戻す。


「―――――知ってるんだからね。ちょっと、聞いてるの!?…あれ?菊池さん、怖くて泣きそうじゃない?アハハッ!」


「…と意味がない。」


「はぁ?なぁに?聞こえな〜い。」


「武器は持っているだけじゃ意味が無いんだって…」


「…え?」



 ◇◇◇◇◇


 あの時、俺は自分の無責任さに絶望した。


 幾ら酷いものだとは言え、小学生のイジメなんだから少し抵抗出来る様になれば、そんな面倒な相手を標的にし続ける事も減り、次第に無くなっていくと思った。


 だから、瑠璃には守る為の行動を教えたつもりだった。



 俺達が公園に辿り着いて、そこで見た、聞いた物は、今も頭にこびり付いて離れない。


「あ、ゆーちゃん、みーちゃん、みなちゃん。ありがとう。お陰で愛梨を守れたよ。」


 こちらに気が付いた瑠璃は、全身を返り血で染め、ニッコリと笑っていた。


 あの後、俺は心に決めた事がある。

 理不尽な事で助けを求めて来た奴は、救ってやろうと。


 理不尽を押し付けてくる相手には、二度と関わりたくないように、徹底的に潰してやろうと。


 そうする事で、結果的に不幸になる人間が減るならば、その方がいいに決まっている。



 ◇◇◇◇◇


 公園に辿り着いた時私が見たものは、カッターを持った瑠璃の周りにいる、切り裂かれて血塗れになり、ビクビクと痙攣している子達が倒れている光景だった。


 膝を抱えて震えながら座り込んでいる愛梨を見つけ、何故こんな事になってしまったのかと、目の前が真っ暗になった。


 私達は瑠璃達に何時も言っていたはずだ。

 逃げる為に役に立つから教えると。

 一番良い方法は、大人に助けを求める事だと。


 足りなかったのだ。

 私達の言葉と、瑠璃が私達に寄せる信頼が。


 あの後、私は心に決めた事がある。

 自分の知り合い、手の届く範囲なら、理不尽な事から守ってあげようと。


 理不尽を強いる相手や事柄は、根本から叩き潰そう。


 そうする事で、瑠璃のように不幸な人間を減らす事が出来るのなら。



 ◇◇◇◇◇


 あの後に起きた色々、その当時の事は、頭に霞がかかっているようで、余り思い出せない。


 私は今、神功学園じんぐうがくえんと言う施設で暮らしている。

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