第17話 風呂

【問題】

 外は洪水、中は大火事。これなーんだ?


 正解はこの後すぐ!チャンネル(ページ)はそのまま……




【Are you ready?】(覚悟はいいか?)

「Yes……っていうかそこは電子辞書使わなくていいでしょ」


 ハルカの着ていたセーター、教科書類は水槽の部屋に集められた。その下にマイクのタンクトップとズボンが敷いてある。


 つまりマイクはパンツ一丁、ハルカはシャツとスカートのみ。海水を受け入れる体制になる。

 手には化粧品入れにあったチャック式のビニールの中にスマホを入れている。「もし無人島に1つ道具を持って行くなら何?」と聞かれたら直ぐに「スマホ」と答えるくらい、命の次に譲れないアイテムだった。

 他の持ち物は泳ぐとき邪魔になるので諦める。


「Haruka may have understood English a lot ? (ハルカも大分英語が分かってきたんじゃ無いか?)」

「やっぱり英語はダメだわワタシ」


 会話が通じた様にも見えるが、もちろんハルカはマイクの台詞が分からなかった。しかし、これからは電子辞書無しで行かなくてはいけない。お互いが最低限のコミュニケーションを取る工夫が必要だ。


「OK、いいよ。やっちゃって」

 言葉は通じていないが、お互い目を見合わせると心は通じ合えてた。目の合図と共にマイクが作業を開始する。


「Please……Go well(頼む……上手くいってくれよ)」

 マイクは電子辞書の蓋を開け、電池を取り出す。

 ポケットから取り出したのは、ガムの包み紙。ハサミで端を切り取り、細い紙を作る。

 更に一度折り曲げ、折り曲げた所の両端を切り取り、もう一度開くと細いリボン型になった。


 このガムの包み紙と乾電池で完成だ。


 包み紙の銀紙側の端をそれぞれ、乾電池のプラスマイナスに触れる様、親指と人差し指で固定。煙が出てきた。

(頼む……このまま付いてくれ)


 紙と服を積んだ塊。そこに近付ける。


「Yes, we can!」

「それ知ってるwww」

 火が付いた。2人は思わずガッツポーズしそうになるが、まだ堪えた。問題はここから。


 あとはこれがこのまま大炎上すれば……行けるかもしれない。


「OK, lets go it (よし、やるか)」


 ついにここで靴下ハンマーの登場。振るのは力のあるマイク。目標は炎が燃え盛る水槽。


 作戦はこうだ。


 ①燃えるものをガラスの近くに集める

 ②電池を使って火を起こし①を燃やす

 ③熱が上がったらハンマーで水槽を叩き割る


 ーガラスは熱に弱い


 実はこのことについて、ハルカは知っていた。ガラスのコップにできたての熱いお茶を入れようとしたら「熱い飲み物は割れるから、湯飲みにしなさい」と母に注意されて、「えーなんでー?」と聞いたからよく覚えている。

 ただしこの作戦に、確証は無かった。そもそも本当に紙や衣服を燃やした熱で厚さも分からないガラスが割れるかは賭けだ。もし失敗すれば服を失う。



「あ、あれヒビじゃね?」

「OK, here(よし、ここだ)」


 マイクはガラスのヒビめがけて渾身の力で叩き込む。



 パリーン


 ゴボゴボゴボゴボ……


「「きYっeたeあeあeあeあeあsあsあsあsあsあs‼︎‼︎」」

 女の歓喜ソプラノ男の歓喜テノールの不協和な混ざり声デュオが部屋に響き渡る。


 これまで我慢していたガッツポーズをついに解禁。勝利の拳が天に突き刺さる。


 ガラスが割れ、外の海水が侵入してきた。

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