第16話 破壊

「マイク、シーウォーター!」


ハルカが叫びながらこちらにやって来た。sea waterシーウォーター?海の水ってことか?


海水が何だと言うんだ?そうだよ、俺たちは海水に閉じ込められている。


「ほら、マイク。海水を使って上がるんだよ。こ〜ンな感じで」


「ジャージャー」

海水が部屋に入ってくるジェスチャー。


「フーフー」

手の平を上にして上下に振り、部屋の水位が上がって行くことを表現する。


「アップ!アップ!」

自分を指差した後、人差し指を天に伸ばす。指の先は天井。



「I understand! (そうか、わかった!)」

この部屋に外の海水を入れる。部屋が海水で十分満たされれば、我々人間は水に浮いているだけで上まで行けると言うこと。



「お、わかったっぽい?」

ハルカは得意げな顔で微笑んだ。もう一仕事終えた気でいる。


一方マイクは次の段階に行っていた。どこをどうやって穴を開けるか……

床にレイアウトされたアイテムを観察する。


尖っているものはハサミだけだ。

化粧品も多少あるが、これで壁を溶かす劇薬は……作れない。もし作れるなら、顔に塗るだけで大変なことになる。そんなもの販売中止だ。

堅い鈍器になりそうなのは……水筒。

他は役に立たなそうな紙……


「マイク先やっとくよ」

ハルカはハサミを取り出し、壁に打ち付けはじめた。

しかし、最初の一打が中々上手く入らない。壁はかすり傷でハルカを挑発する。


「もーマイク手伝ってよーワタシより力あるでしょ」

文句は言いながら、手を動かし続ける。



ーハルカのやっているのは最悪のパターンだ。もっと最適解があるはず。


部屋を見渡す。一面コンクリートの様な白い壁と床、天井。唯一違う点は奥のガラス張りの水槽……


「If we break something, glassー(壊すとするなら、ガラス)」



壁の厚みは分からないし、意地悪にも途中で鉄板があったら……

そう考えると、割れば確実に海水が部屋に入ってくるガラスだ。


あとはどうやって割るか……

もう一度アイテムたちを観察する。



ーこれか!



「Hey, Haruka」

マイクは作業中のハルカに話し掛ける。


「何?手伝ってくれんの?」

振り向くハルカにそっと、電子辞書の表示盤を見せる。


【私はこれからガラスを割ります】

「え?ガラスってあの部屋の?」

でも水族館のガラスと一緒でしょ?あれめちゃくちゃ頑丈らしいし……


【なので、あなたの靴下を私に貸してください】

「はぁ?変態ぃぃぃ」

気弱なおっさん相手ならまだしも、相手は体格が桁違いの黒人。本能で逃げようとしたが、後ろは壁。逃げ道が無い。


「Wait! Wait!(待て、落ち着け)」

ハルカの誤解を解くべく、駆け足で電子辞書に話の続きを打ち込む。


【あなたの靴下と水筒でハンマーを作ります】

「なんだ、そう言うことかよー」


安心して腰の力が抜ける。


「うん、分かったよ。諭吉3枚ね」

どこで覚えたのか意味深な台詞を発しながら靴を脱ぎ、靴下も脱ぐ。とは言ってもその冗談はマイクには通じない。だから普段人前で出来ないおふざけをやってみた。


裸足になったハルカは立ち上がり、水筒を拾ってハンマーを作る。

靴下の中に水筒を入れ、口ゴム同士を結ぶ。2つの靴下を連結させた手回しハンマーが完成した。


ハルカはブンブン振り回す。これでいいかとマイクの目を見る。マイクは「OK」とサムズアップ。



【それでは、今から作戦を説明します】

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