新湘南基地にて


 その日、夕方。湘南戦女子・第三部隊の部隊長である戦艦【扶桑】は同じ部隊の隼から気になる報告を聞いた。




「艦載機、ですか?」




 書類仕事をしながら報告を聞いていたのだが、彼女が顔を上げると目元が隠れるくらいの黒く長い前髪はさらさらと揺れた。


前髪から見えた金色の瞳はどこか自信が無い様な雰囲気で、白い海軍服に身を包んだ彼女は不思議そうな表情をしながら、報告をしてきた戦闘機【隼】を見る。




「はい、今日の哨戒任務の帰りに、いっちゃん(一式陸上攻撃機)が、零戦? を見たって言っていたんですよ」




 そう言って、銀色の隼を象った髪飾りと琥珀色のセミロングヘアの巫女衣装を着た戦女子【隼】は、共に哨戒任務に出た一式陸上攻撃機が見たと言う艦載機に付いて報告した。


 今までは異常なしだったが、今日は本来なら存在しないはずの艦載機を目撃した。


 しかし、艦載機を目撃したのは一式陸上攻撃機だけだったので、隼は報告するか迷った。


 一式陸上攻撃機の話しでは、かなり遠くにしかも、直ぐに雲に入って見えなくなったという話だった。


 一式陸上攻撃機も鳥と見間違いの可能性があると言っていたが、やはり報告しておくべきだろうと、部隊長である扶桑に今日の哨戒任務の報告時に伝えておくことにした。




「零戦、艦載機ね。エイリアンの艦載機ではないのね?」


「のようです。エイリアンの艦載機ならもっとこう、肉々しいくて黒とかグレーとか赤だと思いますから」




 隼の言葉を聞いて、扶桑は机の引き出しから書類を数枚出し、確認のために目を通す。




「貴方達が今日飛行したルートに被る様な味方の艦隊はいないはず、よね? 報告も来ていないし。第一、第二とは進行方向は逆方向」


「どうします? 明日もう一度、調べてきますか?」


「…………小康状態とは言え、あまり貴方達を飛び回らせるのはね。特にいっちゃんは、攻撃機だからあまり基地から離れてほしくない、けど……」




 過去、日本政府はエイリアンを甘くみて、北海道・東北地方にいるエイリアンの大部隊が日本列島から大きく迂回きたことがあり、基地防衛戦力は相応に残しておかなければならない。


 特に沿岸部の基地は、この一件で大きな被害が出た。




 第三部隊は防衛部隊でもある。現在第一、第二部隊は東北地方で大規模作戦に参加している為、あまり基地防衛の戦力を動かしたくないというのが扶桑と基地司令官の考えだ。




「でも、何か気になるし……。そうね。明日の早朝から鬼怒さんと……涼波ちゃんの二人に調べてきてもらいましょう」


「鬼怒さんは良いとして、涼波ちゃんは大丈夫でしょうか?」


「臆病なところがあるけど、少しでも外の世界に慣れてもらわないと」




 駆逐艦と仲が良い隼の言葉に、扶桑はそう答えた。


 戦女子は多かれ少なかれ、過去の大戦の記憶を持っている。


 涼波は過去の大戦の記憶で基地の外に出ることへ恐怖心を持ち、実力を発揮できないでいる。扶桑などは少しずつ哨戒任務をやらせて、彼女の恐怖心を克服させようとしている。




「分かりました。鬼怒さんと涼波ちゃんにはわたしから伝えますね」


「ええ、お願い。私は準備をしておくから」




 こうして、湘南基地は艦載機が目撃された方面に調査艦隊を派遣することになった。




★☆






 翌朝、【扶桑】と【隼】。そして、和風看護婦のような姿をしたクマミミの【一式陸上攻撃機】は、軽巡洋艦【鬼怒】と駆逐艦【涼波】の見送り来た。


 既に白いブラウスと黒く長いタイトスカートを姿の清楚で優しげな黒髪のロングヘアの鬼怒と、これから外へ出るのでビクビクしているクリーム色のウェーブのかかったロングヘアの可愛らしい色白の美少女、涼風だ。


彼女は藍色のブレザーの制服を着て、身長と顔立ちで小学生に見える。二人は艤装を展開している状態で、海に立っていた。




 鬼怒と涼波が二人で並んでいる姿は優しげな小学生女教師と私立のお嬢様学校の生徒に見えるのだが、艤装を展開しているのでコスプレに見えてくる。




「では、よろしくお願いしますね。鬼怒さん」


「はい、任せて下さい。いざとなったら本気で戦いますから」


「うん、そのブラウスと胸の間から取り出した鬼の仮面は、今付けないで下さいね。怖いから」


「あら、御免なさいね。大丈夫よ。戦闘になったら付けるから」




 出来れば、付けないでほしい。付けても帰ってくる時には外していてほしい、と。


 扶桑、隼、一式陸上攻撃機、涼波は心から願った。




「涼波ちゃん、頑張ってね」


「う、うん」


「あたしが原因で涼波に負担かげて御免なさいね」


「だ、大丈夫」




 涼波は誰とでも仲良くなれる隼に憧れている。隼のお陰で、引きこもりがちだった彼女は自信家だが打たれ弱い一式陸上攻撃機とも友達になれた。


 今回の哨戒任務は彼女にとって恐怖はあるが負担は無かった。




「では、部隊長。鬼怒以下二名、出撃します」


「ええ、気を付けて。貴艦の航海の安全を祈ります」




 扶桑と鬼怒が見事な敬礼をした後、それにならい、隼と一式陸上攻撃機と涼波も答礼をする。


そして、鬼怒と涼風は海の上をスケートのように滑る様に進んでいく。




「では、私達も仕事に戻りましょう」


「「了解」」




 こうして、湘南基地は新しい仲間と出会うことになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る