第28話 幼馴染がゆえに隠せない。

今日は体育祭。

朝から教室は大賑わい。

教室では髪のセットをし合いが行われている。

俺はあまり髪型に固執しているわけではないため、セットはしない。

この秘めたありのままの俺のポテンシャルで勝負したい・・・とかではなく、単純にめんどくさい。

特に女子は気合が入っている。

髪は巻き巻き。お団子率の高さ。何あの子羽根ついてんぞ。

「おい駿!今日は頑張ろうな!」

裕二だ。朝から元気が良い。

「ああ、頑張ろう。」

「期待してるぞ!クラス代表リレー。」

「あっそうだったな・・・。そんなの、あったな。」

「ん?どうした?腹でも痛いのか?元気ないぞ。」

「えっ?ああ、いや、そんなことねえよ。ほらこの通り、元気もりもりだ!」

「まあ、それならいいんだけど。なにかあったら言えよ。俺たちは親友だ。遠慮すんなよ。」

「ああ、ありがとう。でもほんとになんもない。」

嘘だ。

あまり悩まない俺だが、今は一つだけ悩みがある。

それもとても大きくて、何度考えても答えが導き出せない悩み。

黄山玖瑠未のことだ。

なぜいきなり練習をやめたんだ?なぜあの時泣いていたんだ?

あの時の情景が頭から離れない。

かれこれ2週間ほど考えている。玖瑠未にもあれから会ってもなければ、連絡すら取っていない。

俺は何か彼女を傷つけるようなことをしてしまったのであろうか。


「――くん・・、駿くん!」

「っ!ひ、陽花里か・・・。どうした?」

考え込みすぎて、周りの音がシャットアウトされていた。

「もう、何回も呼んでるのに・・・。何か悩み事?」

「それはすまん。別にそんなんじゃないんだ。あれだ、ただの寝不足だ。」

「楽しみすぎて寝れなかったんだね。その気持ち凄くわかる・・・」

「わかってくれて嬉しいよ・・・。それで、なんか用か?」

「あっ、あの、私の今日の髪型、どうかな・・・?」

今日の陽花里の髪型。

綺麗に編み込まれていて、後ろでまとめられている。

「すごい似合ってるぞ・・・!下ろしてるときもいいけど、それもなかなかいいな。」

「あ、ありがと・・・!ふみにやってもらったの。両サイド編み込みとお団子のハーフアップ?っていうらしい・・・」

ホントによく似合っている。元が良いから何でも似合ってしまう。

「あっ、あの、そんなにじーっとみられると・・・は、恥ずかしい・・・」

随分顔が赤くなって、照れてしまっている。

少し見入ってしまった。

「す、すまん・・!」

こっちまで恥ずかしくなってくる。


「ちょっと駿!私の髪型も見てよ!」

ふみだ。相変わらず元気な奴だ・・・って、これは・・・

「おお・・・」

「ど、どう?似合ってる、かな・・・?」

編み込みやらウェーブやらがいろいろ駆使されていて、どんな構造になっているのか俺にはよくわからないが、いつもよりかなり可愛い。これははっきり言える。

「に、似合ってんじゃねえか・・・?なかなかかわ――良いと思うぞ・・・」

「良い・・・?そ、そう?ならよかった・・・!」

(さっき可愛いって言いかけたよね?よね?!)

「ちょ、ちょっと駿くん!さっき可愛いって言いかけたでしょ!私には可愛いって言ってくれてないのに!」

しまった。バレてたか。

「なら私の勝ちってことだねー!」

「う、うるさい!別に負けてないもん!」

髪型は変わっても、いつもと変わらい二人。

何故かとても安心してしまう。


「おーいじゃあ、席に就けー!」

虹岡先生が来た。HRの時間だ。

「今日は待ちに待った体育祭だ!この2,3週間お前たちはたくさん練習してきた!それもすべて今日のため!今日にすべてをぶつけるぞ!勝ちたいか野郎どもぉぉぉぉ!!!」

「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」

相変わらず熱い先生だ。こういうノリの良さが人気の一つの理由だ。

「よし、じゃあ野郎どもいざ行くぞ!戦場へ!!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

テンションぶち上げ。

クラスのみんなはグラウンドへ向かいだす。

俺もグラウンドへ向かおうとしたとき。

「黒川、ちょっと残れ。」

「俺、ですか?はい、わかりました。」

怒られるようなことはしていないと思うし、体育祭実行委員としての事務連絡であろうか。


やがてみんなはグラウンドへ向かい、教室には俺と虹岡先生の二人だけとなった。

「なあ、黒川。何か悩みがあるんだろ?言ってみろ。」

いきなりそう切り出され、驚いてしまった。

「え、あ、いや、別に悩みなんて・・・」

「嘘をつくな。何年教師やってると思ってるんだ。わかるんだよそういうの。」

「俺にどんな悩みがあるとお思いで・・・?」

「学校関係、いや、交友関係といったところか。」

どうやらすべてお見通しらしい。

「流石ですね・・・。強いて言うならばあります、悩み。」

「なんだ?話してみろ。悩みってのは人に話すことで見えてくるものがあるってもんだ。」

「じゃあ・・・。これは俺の友達の話なんですが・・・」

俺はすべて話した。

この人なら何か俺の導き出せない答えを知っている気がして。何かヒントをくれる気がして。


「ほう、なるほどな・・・」

「それで・・・何かお――その子は何をしちゃったのかなぁって。」

「そうだな。まあ、結論から言わせてもらおう。これは別に、お前がその子に何かしてしまったとかじゃない。」

「じゃあ、なんで・・・?あいつは一度やると決めたらやり通します。なのにいきなり辞めるとか言って・・・。泣いてまでいて・・・」

「それは全部、黄山の優しさだ。思いやりだ。」

「優しさ・・・?どういう意味ですか?」

「それくらいはもうお前自身で考えてみろ。これまでの黄山の行動、お前と接してた時の態度。敏感なんだろ?お前なら考えたらわかる。」

「玖瑠未の行動、態度・・・」

「きっと黄山も今頃お前と同じように苦しんでいるはずだ。いや、お前以上かもな。そんな黄山を救ってあげられるのは、手を指し伸ばしてあげられるのは、黒川、お前しかいない。黄山はお前を待っている。」


玖瑠未がこんな行動をとったのは玖瑠未の優しさ。

今までの玖瑠未の態度に接し方。

玖瑠未を救えるのは俺だけ。

玖瑠未は俺を待っている。


多分、この人は答えを知っている。

俺の導き出せていない答えを持っているんだ。

でもこれは俺と玖瑠未との問題で、だからこそ第3者である虹岡先生の答えをそのまま俺の答えにするのは間違っているのだろう。

だからヒントをたくさん教えてもらった。ここから導き出す。俺流の答えを。


「ありがとうございました。あとは自分で解決しようと思います。」

「黒川ならそう言うと思ったよ。そうやって行動することが大切だ。行動しなきゃ何も変わらない。」

「はい、ありがとうございます。」

「礼はもういいから、早く行け。開会式が始まるぞ。」

「あっ、じゃあ、失礼します。」

「ああ、最後にもう一点だけ。黒川、赤海に礼言っとけ。」

「ふみに?なんで?」

「黒川の様子がおかしいってのは俺自身も薄々感じてたが、あくまで可能性だった。しかしな、それを確信変えてくれたのは赤海なんだ。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「虹岡先生。」

「赤海か。どうした?」

「少しお話いいですか?」

「ああ、大丈夫だ。」

「駿、黒川駿のことなんですけど、なんか最近様子が変で。悩みがあるみたいで。でも、それを私たちには隠してるように見えるんです。たぶん私が聞いても答えてくれないと思うので、良ければ虹岡先生、何かあったか聞いておいてくれませんか?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あいつが・・・」

「ふっ、いい幼馴染を持ったな。」

「はい、ホントにいい幼馴染を持ちました。」

なんだ。全然隠せてなかったのかよ。

じゃああの朝のいつもと変わらないやり取りは、俺を元気づけるためだったのかな。

いつも通りの自分でいることで、俺もいつも通りに戻ってくれる。そう考えたのだろう。

実にどこか不器用なふみらしい。

「てか、俺最初友達の話って切り出したと思うんですが・・・」

いつの間にか俺の話ってバレてる。俺も違和感なく話しちまった。

「グダグダ言ってないで早く行け。お悩み相談はおしまいだよ。」

また何かあったら、この人に相談、してみるか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「只今より、第46回 体育祭を始めます!」

教頭先生のあいさつで、俺たちの体育祭が幕を開ける。

「なあ、ふみ。」

「ん?」

「ありがとな。」

「えっ?なにが?」

「お前が幼馴染でよかったよ。」

「えっ!?何なのいきなり!まあ、私も駿が幼馴染でよかったけど・・・」

「これからもよろしくな。」

「う、うん・・・!よろしくね!」


このあと、もっと深刻な悩みを抱えることになるとは、思いもしなかった。

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