第26話 体育祭間近がゆえに出場種目決めをする。

中間テストが終わり、約3週間後に行われるイベント――体育祭。

その体育祭の前に必ず行わなければならないことがある。

それはそう、個人出場種目決めだ。

今日はその個人出場種目を決める。

俺たちの学校では学級委員兼体育祭実行委員となっているため、体育祭でクラスの中心となるのも俺たち学級委員なのだ。

この前に出て司会をする感じ、係決め以来か、久しぶりだ。


種目にはクラス対抗リレーや、綱引きなどがある。

ちなみに俺が狙うのは、借り物競争。これしか勝たない。

俺は足が遅くはない。50mは7秒を切るくらいだ。

しかし一つ問題があるのだ。

それは、俺は走るのが嫌いということだ。

走るのが嫌いというよりは、息切れするのが嫌いなのだ。

それはれっきとした理由がある。

俺は息切れすると酸素を欲するあまり、鼻の穴の大きさが約2倍となってしまう。

それがなんともまあブサイクで。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


あれは中学生の時。

部活の引退試合。俺はバスケ部だった。

引退試合は両親、妹の綾音も応援に駆けつけてくれた。

俺達の学校は強豪というわけでもなかったため、引退試合は地区大会のベスト8で幕を閉じた。

その晩、家では引退試合の鑑賞会。

俺も何本かシュートを決めていたため、どれほどかっこよく映っているのか楽しみにしていた。

「あ、もうすぐお兄ちゃんシュート決めるとこだね。私がちゃんと撮っておいたよー!それはもうアップにして!」

「さすがは我が妹だ。よくやった。」

そして俺のシュートシーン。

それはもう綺麗に、そしてアップに撮れていた。

「って、なんじゃこりゃあああああ!!」

撮られていたのは俺のシュートシーン―――ではなく、俺の顔のドアップだった。

「あっ、お兄ちゃんごめん。私肉眼で見たくて、カメラあんま意識してなかったんだった。」

そしてさらに俺は気づいてしまった。

鼻の穴が大きくなってやがるのだ。

運動中の自分の顔を見たことがなかったので、この時、初めて気づいた。

これに家族は大爆笑。

「あはははは!お兄ちゃん!鼻の穴が!!」

「み、見ちゃいやーーーー!!!!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


よって俺は、本気で走る系の種目は避けたいのである。

借り物競争とは走りこそするが息切れするほどじゃない。さらに志願者も少ないのでなりやすい。

これしかない。これ一択だ。

「じゃあ、まずクラス代表リレーからだな。やりたいやついるか?」

「はーい!俺やります!」

裕二だ。こいつは学校一足が速い。まあ、来る予感しかなかったが。

てかおい、裕二が手を挙げた瞬間に女子どもひそひそ話すな。

「じゃあ、裕二は決定と・・・。他は?」

シーン。

これもこうなる予感しかしなかったが。

このクラス代表リレーは個人種目では一番配点が高いし、注目度も高い。一番大事な個人種目なのだ。

自ら挙手できるのは、相当自信のあるやつくらいだろう。

「いないみたいだな・・・。じゃあつ―――」

「誰もいないなら、駿がやればいいんじゃねえの?駿足早い方だろ?」

「「「なっ!」」」

裕二な奴余計なこと言いやがって。

「いや俺は―――」

「とりあえず次行きましょ!誰もいないみたいだし?」

ふみがカバーしてくれる。ありがとうふみ。

「ね、いいよね。裕二くん?」

「ひぇ!は、はい!次行きましょう!」

(ナイスふみ。危ない危ない・・・。)

(危うく、同じ競技でれないとこだった。)


それからは着々と競技は決まり、いよいよ借り物競争。

「じゃあ、借り物競争やりたい人。」

「「「はい!!!」」」

やっぱり俺だけ、ではないようだ。

ふみ、陽花里。ライバル出現だ。

「お前らもか・・・。じゃあ、じゃんけんで決めるか?」

「え!じゃんけん!?駿はじゃんけんがしたいの!?」

「したいとかじゃなくて、それが一番公平だろ。」

「ま、まあ公平だけど・・・。陽花里はどうやって決めたい?」

「そ、そうだね・・・。あみだくじとかでどうかな?」

「それいいね!それで決まり!」

「あみだくじ・・・?まあいいけど。」

頑なにじゃんけんをしたくないようだったので、あみだくじで決めることになった。

何故かはさすがの敏感なこの俺でもわからない。

「そういうことなら俺がくじを作ろう。3人は黒板見るなよー」

虹岡先生があみだくじを作ってくれるみたいだ。

「ありがとうございます先生!」

((良かった・・・。じゃんけんだったら絶対駿{くん}負けるもんね・・・))

※番外編4参照


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「「「「はあ~」」」」

「あれ、駿先輩たち、どうしちゃったんですか・・・?」

放課後。

俺はふみ、陽花里、玖瑠未、いちご、綾音といた。

中間テスト以降、時々こうして集まることが増えた。

「まあ、あくまで私の考察だけどね、くるみん。お兄ちゃん、ふみちゃん、白谷先輩は種目決めのくじで思うような結果にならなかったんだね。いちごはクラス代表リレーになって落ち込んでるんだよ。」

「さすが我が妹だ・・・。怖いくらいにあたってる。てか、何でくじに当たったお前らが落ち込んでるんだ・・・?まさか、俺と一緒の競技出たかったのか・・・?」

「「「「えっ!?」」」」

「そ、そんなわけないじゃん!駿ったら何言ってるの!?」

「そ、そうだよ・・・!私たちが落ち込んでるのは・・・、そう、変なお題だったらどうしよって考えてただけで、落ち込んでなんかないから・・・」

「そう!陽花里の言う通り!」

「まあそんなとこだろうと思ったよ。今のはからかっただけだ。」

((((この男、やっぱりズレてる・・・!))))

それよりも少し気になることがあった。

「いちご・・・?お前、クラス代表リレー走るのか?」

「そうよ!走るわよ!じゃんけんで負けたの!なんか文句ある!?」

「文句なんかねえよ・・・。てかお前、足速いのか?」

「全然速くないから困ってるの!速いどころか遅いわ!いちいち聞くな!駿兄ってホント馬鹿!」

「駿・・・」←赤

「兄・・・!?」←白

「いちごおおおおお!?」←黄

「あれ、みんなどうしたの?」←青

そういえば、駿兄呼びされるの、皆の前では初めてか・・・。

まだ慣れない。いきなり呼び方を変えるなよ。恥ずかしい。


「あっ、あれ言葉も出ないのかなー?妹ちゃん?私に妹ポジションが取られそうで。」

「べ、別にそういうわけじゃないけど?」

「ま、安心して。私が狙ってるのはじゃなくて、だからさ。」

「おやおや?随分と積極的になっちゃて。二人っきりにしたあの晩、何かあったのかなぁ?」

「えへへ、秘密だよ!」

二人がひそひそ何か話す。ホント仲良しだなこの二人。


「ねえ、駿。聞きたいことあるんだけど・・・」

「駿くん、私からもある・・・」

「駿先輩・・・、私も聞きたいです・・・」

「な、なんだ・・・?」

「「「駿兄ってどういうこと!?」」」

「な、何って言われても・・・、あいつが勝手に・・・」

俺が特別頼んだわけでもない。

あの日の朝から、いきなりそう呼ばれ始めたんだ。

「あれ、皆さんどうされたんですかー?もしかして、嫉妬、ですか?」

「そ、そんなわけないじゃない!どうして私が駿なんかに嫉妬しなきゃいけないわけ!?駿があまりにも鼻の下伸ばしてたからむかついたの!」

「そ、そう!私も、むかついたの・・・!」

「そうそう!駿先輩がいちごのこと変な目で見てそうだったから守っただけだよ!」

「理不尽に僕は傷ついてます!!」


「へえ、そう。嫉妬じゃないんだ。じゃあ、私が何しても構わないよね?駿兄!今から本屋さん行きたいんだけど、ついてきなさい!拒否権はないから!」

「拒否権ないって強制かよ・・・。てか校則違反じゃんかったのか?」

「さ、参考書見に行くだけだし!グダグダ言ってないで早く行くわよ!こののろま!」

そう言っていちごは俺の腕を引っ張る。

「誰がのろまだ。俺は行くなんて言って―――ちょ、引っ張んな!」

「うるさい!黙って来る!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「な、何あの子・・・、強敵すぎない・・・?」

「あんなガツガツ攻めれるなんて・・・。私には無理・・・」

「こ、これじゃ後輩補正かかんなくなるよぉ・・・」

「ありゃりゃ、とんでもない子、本気にさせちゃったなぁ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る