第18話 寄り道したがゆえに強気な生徒会長候補に注意された。

「しゅ、駿くん・・・!テスト期間の間、い、一緒に、帰ろ!」


今日はテスト発表。

ゆえに今日から一週間、中間テスト期間。

図書室は自習室として開放されるため、本の貸し出し、返却が行えない。

よってテスト期間中は図書委員会はお休みとなる。

陽花里曰く、勉強の息抜きとして、俺と本の話がしたいらしい。

俺も陽花里も本が好きで図書室ではよく本の話をしている。

確かに趣味の話はいい息抜きにもなるだろうから、俺は快く承諾した。

まあ、正直、承諾した理由の8割を占めてるのはこんな美少女に誘われて断れるわけがなかったことだ。

男ならみんなそうだ。絶対そうだ。

これから一週間、美少女と好きな本の話をして、癒されながら帰る。

そんな幸せな時間が過ごせ―――

なかった!!


帰り道。

今、目の前には陽花里だけじゃなく、ふみ、玖瑠未の姿まである。

ふみが隣にいるの当たり前すぎてふみと帰ること忘れていた。

ふみと陽花里は仲が悪いので、毎日喧嘩してばかりなのである。

今日はそこに玖瑠未まで加わってやがる。

黄山は塾がこっち方面で綾音と帰ろうとしてたところ、俺たち3人と校門で鉢合わせ。

「あれ、お兄ちゃん、今帰り?・・・じゃあ、一緒に帰ろ!くるみんもそれでいい?」

「おっけー!べりーおっけーすぎるよ!」

という感じで計5人となり下校。

てかなんだべりーおっけーすぎるって。

しかし、校門を出て1分も経たないうちにいつもの戦が始まったのだ。

でもここまで来れば俺の方も慣れてくる。

ここは兄妹水入らずで話すのもありだろう。

「お前と帰るのも久々だなあ、綾・・・、って、あれ、どこいった?」

下校開始2分。綾音失踪。

デレレン。

綾音からメッセージだ。


綾<参考書欲しくて買って帰るから、先帰ってて~


「陽花里なんてこんな脂肪の塊をふたつつけちゃってさ~、重そうで可哀そう。」

「ホントそれなですよ!赤海先輩、いいこと言いますね!」

「毎日マッサージしてるくせに何言ってんの?羨ましいならはっきりそういえば?」

「「ぐっ・・・」」

「べ、べべべ別に羨ましくないですよ!」

「そ、そう!羨ましくなんてないもん!そもそもね・・・」

がみがみがみがみ。

よし、俺も参考書買いに行こう!


商店街。

俺は仲良さそうに話してた3人を邪魔しちゃ悪いと思って本屋に参考書を買いに来た。

ついでにマンガの新刊今日発売だから買っておこう。

俺が店の前に置かれていた、マンガの新刊を取ろうとしたとき。

「ちょっとあんた、何してるのよ。」

「え?」

いきなり声をかけられる、というかなかなか強い口調で話しかけられた。

「なにって、マンガを買おうと。あと参考書。」

うちの制服。ツインテールで背が低く、うちの制服を着てなきゃ中学生

いや下手すれば小学生と間違えてしまうだろう。ロリってやつだな。そしてかなり可愛い。

「あんた、私と同じ学校でしょ?うちの校則には下校中の寄り道は特別な場合を除いて厳禁って書いてあるの知らないの?」

「そうなのか?ごめん、知らなかった。」

「そ、分かればいいのよ。」

「おう、次から気を付けるな。」

よしこの漫画だけとっとと買ってしまおう。

「あ!こら!買いに行くな!」

思いっきり袖を引っ張られる。

「おっとっと。危ないだろ急に引っ張たら。」

「あんたが私の注意無視して買いに行こうとするからでしょ!」

「これだけいいじゃんか。言っただろ次から気を付けるって。」

「だめ。私の前で校則違反は許さないんだから。いい?私は生徒会長目指してるの。だから校則違反は見逃さない。」

「生徒会長か・・・。お前、一年生だろ?一年生で生徒会長ってかっこいいな。」

「ほ、褒めてもなんも出ないわよ?てか何で一年ってわかったの?ちっちゃいから?ちっちゃいからか!」

(この子、低身長なの気にしてるんだな・・・)

ここは触れないのが正解だ。ここはうまくごまかそう。

「ち、違うぞ?俺たちの学年で見ない顔だと思ってさ。」

「俺たちの学年?・・・ってことは上級生!?」

「そ、そうだが・・・。俺は二年だぞ。」

一年だと思ってたのか。フッ、まだまだ俺も若いってことだな。

「え!ご、ごめん・・・じゃなくて、すみません・・・。なんかボーっとしてたから、つい、同級生かと・・・」

「それは俺が頼りなさそうで、大人びて見えなかったということですね。」

無言。その通りらしい。

若さゆえじゃななく頼りなさそうがゆえだった。

「まあ、いいよ。てか、敬語使わなくていいぞ。なんかムズムズする。」

「そう、ですか・・・?じゃあ、遠慮なく・・・。上級生だからって校則違反は見逃せないわ。早く帰宅しなさい。」

「やっぱ、敬語で頼むわ。」

タメ口になった途端、怖いんですけど。

「は?あんたがタメ口でいいって言ったんでしょ?男に二言は無しよ。」

「は、はい・・・」

後輩に押されてしまう。

「でも、流石にあんた呼びはダメよね・・・。そうだ、名前教えなさいよ。」

「あ、ああ、俺は黒川駿だ・・・」

「じゃあ黒川先輩ね。私は青山いちご。いちごでいいわよ。」

「おう。じゃあ、いちご。よろしくな。」

「うん、よろしく。じゃなくて早く帰宅しなさいって言ってるの!何普通に挨拶させてくるのよ!」

敏感な俺にはわかる。これはツンデレだ。

しかしこのいちごの場合、ツンデレではなくツンだ。ただのツン。

好きな男子に対してはデレるやつだな。ありがちだ。


でもまあいちごの前でマンガも買えないし、ここは大人しく帰宅するか。

「じゃあ、素直に帰宅するわ。」

「ええ、そうしなさい。」

(帰ってからまた来るか。)

俺が帰ろうとしたその時。

「ちょっと待ちなさい!」

「ん?」

いちごに呼び止められる。

「あんたさっき、参考書も買いに来たとか言ってたでしょ・・・?」

「ああ、言ったけど。」

「なら、ちょっと付き合いなさい!あ、こ、これは交際の意味じゃないから!」

「わかってるよ。付き合うって何にだ?」

「その、参考書選びに・・・」

「おい、お前さっき下校中の寄り道はダメって言っただろ。」

「違う!特別な場合を除いてだから!勉学に関係のある、参考書を買って帰るとかなら構わないのよ!」

「え、そうなの?」

まあ、うちの学校は勉強に関してなら特例とみなすことが多いから、たぶん参考書選びもその特例の一つなんだろう。

「そうよ!だからちょっと付き合って。あんた先輩なんだから。」

「はいはい、わかりましたよ。」

「ど、どうも。」

「じゃあ行くぞ。」

「うん・・・。てかあんた、よく試験前にマンガ買おうとしたわね!信じらんない!」

「いや、それは・・・、何も言い返せません。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


買い物が終わって俺たちは店を後にする。

「今日はありがとね。感謝するわ。」

「いや、マジでお礼を言われることじゃ・・・」

実際、いちごはもう買う参考書は決まっていて、一番上の棚にあった本を取ってあげただけだ。

「ねえ、今日のことは誰にも言っちゃだめよ・・・?ご、誤解されちゃうから!」

「大丈夫だ。俺の口は堅い。」

「そ、ならいいけど。じゃあ私こっちだから。」

「ああ、またな。」

「ま、また・・・。あ、帰ったらちゃんと勉強しなさいよ!」

「わかったよ。じゃあな。」

「うん・・・」

また一人、変な奴と出会ってしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(今日は新しい参考書買ったし、頑張って勉強するか。)

いちごと別れ、俺はしっかり一直線に家へ帰った。

「ただいまー。綾音、先帰ってたのか?俺も参考書買いに行ったんだけど見かけなかった、ぞ・・・。え?」

玄関を開けるとそこには本来ならば家にいない人がいた。

「おかえりー駿。遅かったねー」

「参考書買ってたんだ。私と一緒に帰る約束破って。」

「言ってくれたらついて行ったのにぃ。くるみたちを置いてくなんて、なんかくるみたちにバレちゃまずいこととかあったんですか?」

「な、なんで、ここにいるんだ・・・?」

ここ俺の家だよな?間違ってないよな?

「それより、私と本の話をする約束破ったことに関してひとこ、と・・・。くんくん。ねえ、ふみ、駿くんの匂い変な気がする。いつもと違う。」

「くるみもそんな気がします!」

「よーし、ふみチェック!!くんくん・・・。こ、これは駿の匂いじゃない!なんか、女の子の匂いがする!」

「え!お兄ちゃん、私たちおいて、他の女の子とデートしてたの!?」

綾音がリビングからひょっこり顔を出す。

「置いてったのはおめえだろうが!」

「駿くん、話聞かせてくれるよね・・・?」

や、やばい、逃げろ。逃げるが勝ちだ。

逃げようとした途端、玖瑠未に肩をつかまれ、耳元で俺にしか聞こえない声量で囁く。

「駿先輩。逃げたりしたら、ベッドの下にあるエッチな本、明日先輩の学校の机の上に置いちゃいますよ?」

「え・・・、なんでそれを・・・?」

「あー!やっぱりあるんだ!許しませんからね!もう早く上がってください!」

「よーしじゃあ、今からみんなで駿の部屋行こっか!」

おいなにふみが仕切ってんだ。

「「「さんせーい!!」」」

「だ、誰か、助けてくれええええええええ!!!!」

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