第34話 作戦名「めちゃカワラブゲッチュウ作戦」

「さて、思う存分(私が)楽しんだところでそろそろ本題に移りましょうかね」


「なあ、俺に対して言うことない? 確かに無傷であることはそうなんだけどさ、もう心が瀕死なのよ。突然呼び出されて、ユノに飛び蹴りされて、メルトに窒息させられて、この少女には地竜と戦った時のような衝撃が後頭部に加えられたし」


「ま、まあ、私の攻撃に関しては完全に自業自得なのですが、あの二人は私もびっくりです」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「何か体に喜びを感じるものがあった」


「それが新たな世界への扉だよ~」


「メルト、お前をそこから一歩も先に進ませんぞ」


 様々な結果をもたらしたユノ主催のお遊び会はゼンがとばっちりを受け、3種目中3種目とも違う人が優勝して、結局(考えるのが面倒だったから)皆優勝という形で終わった。


 しかし、本来の趣旨はルルのもはや神秘ともいえる体の謎を測るため。そして、そのドジ(破壊)を検証するためのものだった。


 ユノの企画から一応ルルの課題点が見えてきたと言える。それはルルの禅に対する反応だ。


「ルルさん、ゼンさんと絡んだ時にまあ大変な目にあったと思いますが、咄嗟に体が動いてジャーマンスープレックスをしたとなると色々問題があると思うんですが」


「ごめんなさい! その変な感触に動揺してしまって」


「まあ、わかりますよ。汚物ですからね、それ」


「人の息子を汚物呼ばわりすんじゃねぇ!」


「そうだよ。ちゃんとピ―――――って言わないと!」


「いや、そこ論点にしないでください。それでですね、一つ確かめたいことがあるんですが、普通にゼンさんに接触しただけでもああなるか知りたいんですよ」


「じ、ジャーマンスープレックスをするかですか?」


「別にその技に限った話じゃないですが......というより、咄嗟に出る技がジャーマンスープレックスってどういうことだよ......ともかく、どうなるのか知りたいんです」


「え、俺は嫌だけど」


「少し見させてくださいませんか?」


「......わかりました」


「あれ? 俺の声聞こえてない? なあ、俺嫌だよ? 痛いの嫌だから! おい、皆して耳にミュート機能つけてんじゃねぇ」


 禅の抗議も虚しく、流れに逆らえずに勝手に進行していく。

 もはや渋々禅も従ってルルと迎え合って立つとユノが指示をした。


「それじゃあ、握手をしてください」


 その言葉に二人はスッと右手を差し出した。そして、二人が握手しようとした瞬間――――――


「わあああああ!」


「ごはっ!」


 ドンッという鈍い音ともにルルの左ストレートが禅の腹に決まった。

 その衝撃で禅は後方に吹き飛んでいき、周囲の木々をなぎ倒しながら姿を消していった。

 ただの握手でこんな惨劇を見るとは思わなかった3人は思わずポカンとしている。

 そして、メルトが思わず告げた。


「これは握手じゃなくて悪手だね」


「それうまい!」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ゼンさん大丈夫ですかー?」


 ユノは吹き飛んでいった禅に声をかけてみる。すると、遠くの方から「何とか」と返答が返ってきた。

 禅は頑丈さが取り柄なのでもはやそうでなきゃ困るという感じだが、一先ず安心だ。

 それはそれとして......


「ルルさん、もしかしなくても......男性が苦手ですね?」


「に、苦手というわけじゃないんです! ただ単純に緊張してしまって。普通に話すだけなら大丈夫なのですが......ごめんなさい」


「いや、全然大丈夫ですよ。とはいえ、困りましたね......」


「そうだね、これはルルさんをモテさせるためのいわば前段階で、男の人を口説こうというのならボディタッチも有効なんだけど......」


「それをやればあの人間モドキじゃなければ死んでる」


「ですよね」


「だよね」


 ユノとマユラは困ったような顔をした。まあ、当然と言えば当然の反応だ。

 男の人に触れただけで英雄の肉体で繰り出される死の一撃が与えられるのだから。

 ユノに強化された禅でなければ死んでいる。

 しかし、改善点がないこともない。

 まあ、一番無難な方法しかないのだが。


「とりあえず、現状でわかってることはドジで周囲を破壊すること。男に触れるまたは触れれることで咄嗟的に凶悪な一撃を繰り出すこと。冒険者としてはもはや恵まれたような攻撃力をしているから、私的にはもはやそのようなことをする必要ないと思う」


「そ、そうですよね......」


「そんなことないよ! やっぱり、女で生まれたからには好きな人と幸せな生活がしたいっていう憧れがあると思うよ。それにそれはなによりルルちゃんの頼みなんだから」


「そうですね。依頼されたからにはしっかりとやるべきことはすべてやりましょう。少なくとも、ルルさんは全く良いところがないというわけではありません。それはとりあえず一通りの生活が送れるぐらいには手加減が無意識にできてるんですから。とはいえ、村には男友達もいなかったのかと言いたいですが」


「村の男の子は冒険者に憧れて早々に出てしまって......なので、基本女の子の友達しかいなかったので、男の人とどう接したらいいかわからないんです」


「まあ、ぶっちゃけそこら辺は慣れですかね。とはいえ、あんまりぐずぐずしていたらあの悪女たちに取られてしまいます。そうとなれば、全てのことを並行していかないといけません」


「と、言いますと?」


「男性に触れたり、触れられたりしても緊張しない手加減できる慣れ、デートすることを見越してのオシャレコーデにメイク術。そして、何よりその意中の人との接触――――――それらを総称して『めちゃカワラブゲッチュウ作戦』と呼称します」


「あれ、このパターンって......」


「さあ、善は急げと言いますし、早速行動開始ですよ!」


 ユノは張り切って拳を天に突きあげる。

 その姿を他の3人は「またなんかやらされる」と言い得ぬ不安を抱えた。

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