第10話 ダメ人間が良いことすることを一般的に「映画版ジャイアン現象」と呼ぶ#1

 ゴリラの下半身がバタンと倒れる。その姿を静かに見つめる三人。すると、ヤユイが勢いよく禅に近づいて興奮した様子で告げた。


「おじさん、すごい!」


「みたいだな。俺もまさか波動砲が撃てるようになっていたとは......男は必ず一つは波動砲持ってるけど、俺の場合二つだぜ。凄くね? うん、やっぱすごい」


「波動砲じゃないですから。どちらかというと、空気砲ですから。それとナチュラルに下ネタをワントラップするのやめてもらえます? 一瞬スルーしかけるほどのナチュラルさでビックリですよ」


 ゴリラの様子を見ていたユノはゆっくりと近づきながら禅に告げるとすぐにため息を吐いた。あれだ、気疲れだ。

 そんな様子を知ってか知らずかしばらく適当な会話をしていると禅が何かを見つけた。


「お、アレが集落か?」


 禅が指さす方向には木々の隙間から僅か屋根が見える。一見ただの山小屋にも見えなくないが、少し視線をズラすと他にも屋根が見えるのでそう判断した。

 そして、その集落に近づくと森を開けた土地に開拓して、大きな畑作が広がっている場所であった。

 それから、村の門の近くには冒険者のような恰好をした人物がいる。恐らく村付きの戦士と考えていいだろ。


「ん? こんなところで子連れの......何があった?」


「特に何もないよな」


「はい、そうですね」


「いやいや、ビキニアーマー......もなんでそんな防御の薄い装備にしたのかわからないけど、まだわかる。そっちのあんちゃんよりはわかる。でも、あんちゃんは完全にパンイチだよね? あれ、これ俺がおかしいの?」


「ああ、そうだ。これは最新型のトランクスアーマーというものだ。男が筋肉を見せびらかして上半身を剥き出しにするのと同様で、俺も俺のトランクスを見てもらいたいがためにこの格好なんだ」


「いや、完全に恥部さらしてるだけど。絶賛黒歴史を製造してる最中なんだけど。ともかく、待ってろ。俺のバックに大きめな風呂敷があったはずだ。せめてそれを巻いとけ」


 戦士の男は門の近くにあるバッグから大きめな風呂敷を取り出すとそれを禅に渡した。そして、禅はそれを腰ではなく、首につけた。


「悪いな。少しあったかくなった」


「いや、寒さをしのぐために首に巻けって意味じゃないから! 腰に巻けって意味! なに、そんなにその下着を見せたいのか!?」


 戦士の男は鋭くツッコむ。その様子にユノは思わず涙ぐむ。まるで自分の苦労をわかってくれる人に出会えたような気がして。

 その一方で、禅はヤユイに「やっぱり寒かったんだね。貸そうか?」と言われて心にダメージを負ったので、首に巻いた風呂敷を腰に巻いた。といっても、隠せたのは半分ほどだが。


「それでこの村では見かけねぇ顔だが何の用だ?」


「実はこの子の母親を探していまして。森ではぐれたようなんです。それでとりあえず町から一番近いここに目星をつけてきたのですが」


「なるほどな。といっても、ここには恐らくいないぜ。この村はそれほど大きくないから、俺は全員の顔を覚えている。それにこの村で子供なんて生まれればそれこそ忘れない。子供は貴重な存在だからな」


「そうですか。なら、ここ最近変わったことはなかったですか?」


「変わったこと? ああ、そういえばさっき凄い勢いで魔物が駆け抜けていったな。それも大勢の。その後ろからゴリラが追いかけていたが、まあともかく襲われなくて良かった。俺もそちらさんもな。しかし、不思議なこともあったな」


「不思議なこと? ああ、追いかけていたゴリラが手負いだったんだ。普通魔物ってのは同じ種族じゃなきゃあまり群れないし、強い奴にはよっぽどの事情がない限り挑まない。それこそ、さっきの魔物なんかはよっぽどいい例外さ」


「そうですか。ありがとうございました。それじゃあ、一度ギルドに戻りますか」


 ユノはその戦士の男から色々と事情を聞くと禅とヤユイを促して歩き始めた。そして、しばらく離れたところで禅は切り出す。


「それでなんか腹に抱えてるものあるんだろ?」


「まあ、不安というものですかね。さっきあの人が言ってた通りゼンさんが倒したゴリラは手負いだったんですよ。残った下半身に無数の切り傷がありました」


「じゃあ何、俺の波動砲は本当はただの段ボールで作った空気砲ってことか?」


「ゼンさんのはもとから空気砲ですよ。それにたとえ無傷でもあの威力じゃ一撃で倒せるでしょう。そうじゃなくて、もしかしたらこの魔物騒動は終わっていないんじゃないということです」


「それじゃあ、あのゴリラも実はあの多くの魔物と一緒に逃げていただけってことか?」


「その可能性はあります。実はもっと強い魔物と先に交戦していて、それで手負いになったんじゃないかと」


「.......。ま、いずれわかることさ。ともかく早いとこ母親を探さないとな」


 そして、成り行きに始まった母親探しはあっという間に3日が過ぎた。

 

 その3日間の成果は特になし。そのせいか三人は深刻な顔をしていた。

 ヤユイは悲しそうな顔で俯き、ユノはテーブルの上で両手を組んで深刻な顔をしていて、禅は机に突っ伏している。

 そんな様子を見かねたギルド嬢が金髪の髪を耳に賭けながら、話しかけに行く。ちなみに、禅はやっと村人の服を手に入れて着ている。


「あ、あの大丈夫ですか......?」


「もう毒消し草しか食べてない......」


「くそぉ、あの時に止めてれば負けなかったなのに。どうしてあのまま欲をかいて大金をはたいたんですか私は.....!」


「やばい、頭が、頭がガンガンして胃もぐちゃぐちゃにかき回されたようになって気持ち悪い......毒消し草。俺に毒消し草をくれ......」


「ヤユイちゃん。今すぐそのダメな大人から離れなさい。病原菌『ダメ人間菌』略して『ダメ菌』がうつってしまうわ」


 三人は各々違うことについて悲しんでいた。いや、ある意味ヤユイの反応が一番正しいのかもしれない。

 というのも、ユノは稼いだ金を増やそうとカジノで直行して途中まで勝ってても結局欲に負けて、負け越しで帰ってくるし、禅はユノほどカジノにはいかないが毎晩二日酔いになってる。いや、通算で言えば六日酔いだ。

 そして、その二人に合わせてると(主に禅)食事も自然と苦みがある毒消し草になってくる。朝昼晩毒消し草。毒が無くても毒消し草。

 薬草であるエギリア草は貴重であるため食えないし、お金を稼いでもダメ人間がすぐに減らしてくるのでほとんど火の車。


 そう、ダメ人間と駄女神のせいである。


 そんな二人を見てため息を吐くキアラはそっと休憩に食べようとしていたケーキをヤユイに差し出した。


「ん? この世界はケーキがあるのか。いいなくれ。甘味ならいけそう」


「この世界の食べ物や武器なんかは昔の勇者が広めてくれたんですよ。あ、私もケーキください。疲れた脳には糖分が良いって聞きますけど、同じ疲れだったら心にも行けますよね?」


「二人にあげるものはありませんよ。これで最後ですから。それよりも、実は三人にお伝えしたいことがあってきました」


「え、何? 今の俺、胃も耳も甘味しか受け付けないよ。耳元で甘く囁いてくれないと入って来ないよ」


「あ、無視して構わないのでどうぞ続けてください」


「それでですね、お伝えしたいことはヤユイちゃ―――――――」


「大変だ!」


 キアラの話を遮ってギルドの扉をバンッと開けて入ってきたのは軽装備をしたせいねんであった。そして、その青年は息絶え絶えといった感じで焦った表情をしている。

 そして、告げた。


「この町に地竜アケアドスが迫っている! 今は旅の冒険者が応戦してくれているがいつまで持つかわからない! だから、今すぐ応援要請を!」


 その言葉にギルドにいた冒険者やギルド嬢が一斉に騒ぎ始める。そして、キアラも含めたギルド嬢は慌ただしく動き始めた。

 その様子にキョトンとするのはヤユイとユノで、禅は騒ぎ立った声に耳を塞いでいる。その状態でユノに聞いた。


「なんだその地竜って?」


「いわゆる人間には手に負えない竜種の一匹ですよ。まあ、数で倒すことは出来ますけど、この人数なら難しいでしょう」


「なら、なんでそんなに落ち着いてるの? ユノお姉ちゃん」


「だってほら、ゼンさんダメ人間がいるし」


「あ、そうだった」


「人任せかよ。最近、毒消し草食い過ぎたせいか効き目が悪くなってるんだぞ? 今も気持ち悪いんだぞ?」


 そうは言いつつも頭を抑えつつ席を立ちあがると二人に告げた。


「仕方ねぇな、こういう時ってたんまり稼げるんだろ? なら、人肌脱いでやるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る