第3話 イベントってお金稼ぎみたいなことあるよね#1

「あのーほんとにカジノ行くんですか?」


 二つ結びされた銀髪をゆらゆらと左右に揺らしながら、隣に立つ禅に話しかける。

 その質問に黒髪の頭をボリボリとかきながら隠すこともなくあくびをして、禅は答えた。


「そりゃあな。何事にも資金がなきゃ進もうにも進めないだろ。俺の半そでにジャージのズボンじゃこの世界では合わないんだろ? それに装備だって必要だ」


「まあ、それは言われてみれば確かに」


「それに確かユノは言ってたよな勝負の女神って。なら、ギャンブルなんて勝ったも同然だろ。なんせ本物の女神がついてるんだからな」


「......確かに、私は自分の司る加護を忘れてましたね。ふへ、ふへへへ、ありゃ~これは楽勝ですな」


「楽勝楽勝!」


 バレッサまでの道中。二人はもう勝ったような様子で鼻歌交じりに街道を歩いていく。


****


「通行料一人100ギルとなります」


「「......」」


 バレッサの街に辿り着くと門番の人にそう言われた。

 現在二人の持ち合わせ総額は200ギル。どう考えても二人通ればそのまま所持金がパァになる。

 そのことに禅はユノの肩に回すと少し門番から離れてヒソヒソと話し始めた。


(おい、どうなってるんだ。賭けする前に賭けるもの無くなっちゃうんだけど? っていうか、そもそもこの世界の通貨ってどうなってるの?)


(この世界ではどの場所でも通貨単位がギルで消費されています。そして、基本的にあなた達が住んでいた通貨と同じです。普通に100円と思ってくれればいいです。ちなみに、50ギル以下がコインで、100ギル以上がお札です)


(そうか。なら、ユノはここで待ってろ。俺が所持金100ギルを10倍とは言わず、100倍、いや1万倍にして戻ってくるから!)


(あなた、女神の私にここで野宿しろって言っているようなものですよ! それに今のセリフ! 完全に負けフラグですぅ~! 最初は良い調子で勝ってたらどんどん大損していくタイプですぅ~! ここは勝負の女神に任せなさいよ!)


(バカ言ってんじゃないよ! どうせギャンブルやったことないだろ! 俺はあらゆるカジノに手を出したことあるからね! 空中鉄骨渡りとか、E(ND)カードとかも含めて!)


(どこのカ〇ジですか!? ダメ人間以前にドクズじゃないですか! かけてるのお金じゃなくて完全に命ですよね!? やっぱ信用なりません! 私に任せなさい! なんせギャンブルだったら天界にもありますから! 週5で通ってた日もありますから! ちょっとした小さな惑星の命運をかけたことありますから!!)


(人のこと言えねぇじゃねぇか! それ女神って言うより、完全に邪神だろ!)


(私は滅亡しない方に賭けてちゃんと勝ったからセーフだもん!)


(『だもん!』じゃねぇよ! そんな危なっかしいこと賭けてる奴に任せられない―――――あ、ひっふぁるな!)


(あ、痛たたたた! 女神の肌をつねるってどういうことですか! 完璧な美少女の一級品の柔肌ですよ! 傷が残ったらどうなるんですか! それとさっき渡した100ギル返しなふぁい!)


(嫌はね!)


 禅とユノはやがて互いの頬をつねり、引っ張り合う。そして、互いの片手に持つ100ギルを奪おうと哀れな攻防を始める。

 そんな様子を気の毒に思いつつも、門番は二人に近づいて尋ねてきた。


「あの~、どうします?」


「「これで!」」


*****


「頬が痛い......」


「そうだな。っていうか、結局二人とも100ギル渡しちゃってすっからかんだな」


「ですね」


「「はあ......」」


 出鼻をくじかれるというのはまさにこのことか。賭けをするためのお金が無ければカジノでお金を増やすことも出来ない。

 さて、これからどうしようか。


「とりあえず、何か売れるものないか? それを売って資金の足しにしよう。ちなみに、俺は何もない。言い出しっぺでわりぃが、あの時は酒飲んでぐ~すか寝てただけだから」


「私の場合は......とりあえず所持品だけで言えば、杖と休憩中に食べてたアメちゃん3つですね。ですが、アメちゃんは売ってもあまり大したお金にはならないかと。せめて100ギルを超えないと増やすのも難しいと思います」


「となれば、その杖か。うん、いいんじゃないかそれ。年季の入った木の枝に青い透き通った球体の杖とか目利きのある人に売れば高値で買ってくれそう」


「ダメですよ! これは最高神様にもらった大切な杖なんです! それに看破という特別な付与がついた魔法でもあるんですよ! これだけは絶対に売れません!」


「ならこれからどうすっかな~......ん?」


 禅は周囲を見渡しながら街中を歩いているとふと路地裏に続く道で一人の猫耳フードを被った人に三人のガタイのいい男の人が詰め寄っているのを目にした。それもなにやら圧のある言い方で。

 フードの方は声からして少女の声のようだ。何かトラブルがあったとしか思えない構図だ。


 禅はちょいちょいとユノを呼んで通りからこっそりその様子を覗き込んだ。


「ユノさんユノさん」


「はいはいなんでしょう?」


「あれは......あの少女を助けたらお礼として少しお金貰えるかな?」


「う~ん、どうでしょう。あれはどっちかって言うと助けたらパーティメンバーに加わる的なイベントでしょう」


「イベントって言っちゃったよ。俺も遠回しでそうなのかな~とは思ってたけど、女神さまがそれを認めちゃったよ。まあ、ともかくああいうの見てると気分悪いからサッサと助け入るか」


「へ~、ダメ人間なのにそういう所は正義感あるんですね」


「見てみぬふりをするわけにもいかんだろ。それに俺は輪姦系やらレイプ系同人誌より、イチャラブ同人誌の方が燃え上がるタイプだから」


「何の話をしてるんですか。ともかく、そうと決まれば行きますよ!」


 禅とユノは路地裏に突入していく。そして、禅が不自然に肩で風を切るように歩いていく。


「ようよう兄ちゃんや、ここを誰のシマとおもーとるんや?」


「なんだてめぇは?」


「てめぇ? ふんっ、どうやら口の利き方もわかっとらんようやの。痛い目あう前にさっさと消えることをお勧めするが......どうだ?」


「ちょちょちょ!」


 ユノは急にしゃべり方が豹変している禅の耳を思わず引っ張り、自分の口元に手繰り寄せる。


(痛い痛い痛い! なにすんの!?)


(何ってそれはこっちのセリフですよ! なんですかあのしゃべり方は!)


(いや~、考えてみれば俺がもと居た世界でもこんなガタイ良い人に話しかけるとかなかったし、そもそも怖ぇじゃん? それに赤の他人に話しかける機会もなかったし、話しかけようと思ったら“あれ? 自分っていつもどんな風に話しかけてたっけ? どんな声色? どこ見てたっけ? あれ、そもそも口呼吸? それとも鼻呼吸?”ってなって)


(いやまあ、気持ちはわかりますよ。怖いのは確かにわかります。ですが、それは完全にケンカ売ってるようにしか聞こえませんよ! あとあなたは鼻呼吸です!)


(いや、なんで俺が鼻呼吸って知ってんの?)


「なんだコソコソ話しやがって......お、そっちの嬢ちゃんは偉く美人だな。これは高く売れそうだな」


「あ!」


「なんですか今の『あ!』って。まさか私を売ろうと一瞬考えましたね!」


「いやいやいや、まさか。ちょっと水商売に向いてるかもなと思っただけで」


「似たようなものじゃないですか! このダメ人間! クズ!」


「そこまで言うことないだろ! 考えるだけタダですぅー! 人のこと言えたもんじゃねぇだろ! 駄女神が!」


「まだあなたよりはマシですぅー!」


「勝手にで出来たと思えばごちゃごちゃうるせぇな! いくぞ、お前ら! 男ともども捕まえた売り飛ばすぞ!」


「「あいよ!」」


 勝手に邪魔してきて勝手に蚊帳の外にしてケンカし始める二人にガタイの良い三人組の男は手にナイフを持って襲い掛かる。

 それにはさすがの二人も気づくが、ユノは特に焦りなく禅に告げた。


「ゼンさん、これはいわばチュートリアルです。この非道の行いをしている者達に女神に変わって鉄槌を」


「りょーかい」


 禅は思ったよりも襲い掛かられても緊張していない自分に驚きつつ、正面のナイフを突き出してきた相手よりも素早くグーパンチ。

 それはカウンター気味に入り、バビューンと男を吹き飛ばした。そして、両隣りの男はその事実に戦慄しつつ、もう止められない速度で禅に突っ込むと――――――同じようにグーパン一発で吹き飛ばされた。

 二人はバウンドボールのように吹き飛んでグロッキー。とりあえず攻撃力がインフレしてるので加減して殴ったのは正解だったようで......というか、戦闘と思った瞬間相手がスローに見えた。


「やば、つよ」


「私の加護のおかげですけどね」


 そして、驚く禅にドヤるユノ。そんな二人をフードを被った少女はジッと見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る