第2話 二日酔いは異世界でも毒状態

「うぅ、ん?......ここは......?」


「やっと目覚めましたか? 異世界ですよ。異世界」


 禅が目を覚ますとすぐに二つ結びされた髪が垂れて揺れるユノの顔が見えてきた。そして、そのユノの後ろに見えるのは透き通たような青い空に、背中から感じる草花のニオイ。

 眩しさが目に染みるように太陽がサンサンと輝く。どうやら先ほどまでいた殺風景の場所とは全く違うようだ。


「なるほど、あれか。ドラ〇ンボールの世界に迷い込んでしまったわけだな。って、ことはどこかに海に亀ハウスがあったりするのか?」


「違いますよ。確かに空を飛んだり、光の砲撃を撃ったりとかできますけど、ここは剣と魔法のファンタジーの世界ですよ」


「F〇か、もしくはド〇クエ」


「まあ、その解釈が一番早いですかね。言っておきますけど、あなたの世界を知っている私だから通じるだけであって、異世界にはそのネタは通じませんからね?」


 ため息混じりに言うユノを横目に禅は上体を起こすと周囲を見渡す。

 すると、そこには半透明の球体や角を生やしたシマウマのような生物が見えた。どうやら本当に別の世界らしい。

 というか......


「気持ち悪い......あ~、まだ頭がズキズキする」


「え、それっておかしいですよ。ゼンさんが寝ている間に気付きましたけど、そういえば私もう拒絶されないように先に相手に加護とか渡してこっちの世界に縛りをつけたはずですから」


「もともと逃げ道なかったじゃねぇか。じゃあ、これってなんだ?」


「この世界は他の世界から呼ばれた魂でも順応しやすいようにその世界のわかりやすいものに置き換えてます。たとえば、ゼンさんの世界だとゲームのステータス画面のように。とりあえず、頭の中に“ステータスオープン”と開いて見てみてください。あ、あと私にも見えるように」


 禅はグラグラする頭を片手で押さえながら、言われた通りに念じてみる。すると、目の前に青い液晶ウィンドウが現れステータスが表示された。


――――――――――――――――――


【ネーム】佐藤 禅 【レベル】MAX 【状態】二日酔い(毒)


攻撃力:10000


防御:9528


魔力:100


魔法防御9462


【スキル】身体能力超強化、その他の魔法適正ゼロ(脳筋)


【特性】

 女神ユノの加護:断れ続け18人目、今度こそ逃さないようにとアホみたいに攻撃力と防御とレベルに力を注ぎ作り出した化け物。状態異常にある特定の一つを除いてかからない。


 ダメ人間の生き様:二日酔い(毒)になる。ダメージはないが、頭痛と気持ち悪さが通常の倍。酒を飲めば必ずなる。ならないはずがない。なって当然。逆にならなきゃおかしい。


――――――――――――


「(なんか勝手に毒状態なんですけどおおおおお!)」


 ユノは思わず表情を美人の顔が台無しになるように歪ませた。それほどまでに、隣の男の状態がおかしかったのだ。

 俺TUEEEEはわかる。だって、そうしたもの。魔法適正もわかる。それは本人の資質だもの。

 だけど、最強のくせに状態異常にかかりやすいとはどういうことか。というか、現状でもう既に毒状態とはどういうことか。ダメ人間の生き様とかなんだ。なんだコイツ。バカなのか?


 とはいえ、そう言えば心当たりがある。

 あの殺風景の空間に連れてきた時点で加護の付与は完了していたのだ。それでも、禅は体調を悪そうにしていた。

 ということは、そういうことなのかれない。


「なんて奴に最強の加護を渡してんだ私は~~~~~~~!」


 ユノは思わず両手で顔を抑えてガックシ崩れ落ちる。そんなユノに禅はそっと手を肩に置き――――――


「ねぇ、ちょっと穴とか掘ってくれない? 気持ち悪くて吐きそう」


「爽やかな声でしょうもないこと言ってんじゃないですよ!」


「がばらっ! あ、お腹が、両方の口から下り龍と上り龍が同時に......!」


 ユノは上体を捩じりながら禅の腹に見事なボディブロー。ボクサーも頷く良い拳を放った。

 そして、腹部を刺激されて色々と来てしまった禅は足を内また気味にしてユノから少し離れると盛大に吐いた。

 異世界に来て数秒で吐く主人公はこれまでいただろうか。まずいないだろう。というか、居て欲しくない。


「あ"~そういえば、この世界の人口が減ってる? 的なこと言ってたよな? 俺はこの世界で普通に暮らしていけばいいのか?」


 ちょっと吐いてスッキリした様子の禅は振り向きざまにユノに聞いた。

 すると、その言葉を聞いたユノが思わずこめかみをピクつかせる。


「ええ、ええ! 実はそのことに関して大事な大事なお話があります! お話があるんです!!」


「おい、なんだよ。しつこいくらいに二回言うじゃん」


「実はですね、女神である私は一度下界に落ちるとたとえどんな不幸な出来事であっても何か実績を作らない限り、また天上界には戻れない仕組みになってるんですよ」


「あらら、それはまた可哀そうに」


「誰のせいだと思ってるんですか!?」


「いやさ、まあ俺も足を掴んだことは悪いと思うよ? けどさ? なんの合図もなしに落とされるのはやっぱ怖いのよ。俺だって怖いのよ。だから、あの足を掴むのは不可抗力ということになるので、女神も有給休暇とか取ったことにすればいいと思うぜ!」


「そうならないから困ってるんでしょうが!」


「ぐはっ!」


 ユノは勢い任せに禅の顔面を蹴り飛ばすとそのまま倒れ込んだ禅に 馬乗りになって顔面を袋叩き。どうやら耐えきれい感情が爆発しているようだ。


「 ちょ、やめ、痛くないけど血は出るの! 絵面的にモザイクかかっちゃうかもしれないの! それに特にやばいのがお腹で揺れる振動が気持ち悪さを増長させてまた昇り龍が......うぷっ」


「あ! また吐くなんて考えられません!」


「......ゴクン、あ~押し込んだ。あっぶねぇ。って、そうじゃねぇ! 今の吐かせようとしたのお前! 完全にマウントとってその上で揺れたお前のせいだから!」


 怒りが冷めやらぬ様子のユノに禅は一先ず手をかざして制止させる。それが功を奏したのか肩で大きく呼吸して、睨みつけるような目で見ているがなんとか止まってくれたようだ。


「ともかく、あれだろ? それだけ言うぐらいなんだから、俺はお前の実績集めに貢献しろってことだな?」


「まあ、そうなりますね。初めからバッドステータスの最強ダメ人間なんてほっとけるはずもないし、それにあなたにはここに渡しを落とした責任があります」


「責任ねぇ......ってことは、手っ取り早く魔王とかを倒すのが早いんだろうけど」


「そうですね。魔王を倒せば戻れるかもしれませんね。ですが、そう簡単じゃありませんよ。私は本来この世界にはいてはいけない存在。だから、かなりのステータス制限を受けています。この世界の力の丁度平均値ぐらいでしょうか。程よく強いという解釈を。レベルは上がるようなっているので、そこら辺で多少は変わると思いますが......」


「詳しいことはわからないって感じだな。ちなみに、この世界はどういう設定?」


「設定、ですか。そうですね、端的に言えば多少の悪ははびこる世界ですが、魔族と人族の争いという一番デカいイベントは終わってる感じですね」


「何が『終わってる感じですね』だ! 完全にグランドフィナーレ迎えた後の世界に来てんじゃねぇか! 魔王倒せばとかそういう以前に、もう総イベント終わってんじゃねぇか! それで魔王倒せばとか言ってるお前の方が魔王だよ!」


「な、こんな可愛いくて愛らしい私になんてことを! とはいえ、やっぱそうなりますよね。となると、帰れるまで地道に善行じっせきを稼がなくてはいけませんね」


「はあ、仕方ねぇな」


 しょげた顔をするユノを見た禅はため息を吐きながら立ち上がる。

 なんだかんだ言いつつもユノをこの世界に巻き込んでしまった自責の念があるのかもしれない。


「とりあえず、ここにいても何も始まらないだろ。ここから近い町とかはどこにある?」


「ここはラハエル平原ですから、一番近いところでカジノが有名なバレッサという町があります」


「ほう、カジノか......ちなみに、今はいくら持ってる?」


「女神通貨はこっちでは使えませんし、たまたま回収してそのままにしてある200ギルなら手元に......」


 その言葉を聞いた瞬間、禅はニヤッとした顔をする。


「ならば、カジノで増やすしかないな」


「え、え!? カジノですか!?」


「ほら、俺の世界のゲームを知ってるならあの有名なド〇クエの内容も知ってるだろ? 世界救えとか言ってるのに大したお金もくれないみみっちい王様の存在とかさ。そこでもらったお金はカジノで増やすのが定石ってもんよ。ほら、行くぞ」


「あ、ちょっと待ってください!」


 ズカズカと歩き出した禅の後をユノは慌てて追いかけていく。

 芝生によって敷かれた緑のじゅうたんの上で横並ぶ二人の姿を周りの奇怪な魔物たちが怪訝な様子で見つめていた。


「やべ、歩くたびに気持ち悪くなってくる」


「それ二日酔いだからですよ!」

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