第27話

暗い影はネーベルを捕らえる。

ネーベルは何だか胸が苦しくなり、呼吸が乱れ出す。

「な、何…気持ち悪い…。熱も…ある?」

段々と体が熱を持つのもわかる。


(ネーベル、どうしたのだ。ネーベル!!魔力が乱れている…!いや、ネーベルの不の感情と混じりあって魔力が暴走し始めている…!落ち着くんだ、ネーベル!!)

契約している魔獣のシャッテンがネーベルに呼び掛ける。


「うぅ…ど、どうして…こんな事にっ…!」

胸を必死に押さえながら、ネーベルはそう呻くが、自分でもわかっていた。

(どうしてって…そんなの、決まってるじゃない。あの2人よ…レイディエ殿下と、シュトュル、あの2人!!)


ネーベルの耳に拍手が聞こえる。

どうやら一曲終わった様だ。チラリと見れば、人混みだらけでも一際輝いて目立つ2人がよく見えた。

レイディエ殿下とシュトュルだ。

2人とも、はにかんだ様な笑みを浮かべながら、幸せそうな笑顔を見せながら手を取り合う。



(あの2人の様になれない…レイディエ殿下の様に太陽の光の如く、目映く、暖かい人になんてなれない。シュトュルの様に、サナギから蝶が産まれる様に、変わる事もできない。私は…私は、影で、闇の中で燻る事しか…できない)


ネーベルがそう思った時、身体中の苦しみや熱が消えた。

もう、押さえる事などできない。


(クソッ…!ネーベル…!!こうなったら、我が身を全て賭けてネーベルの魔力を…!頼む、ネーベル…もう苦しまないでくれ)

シャッテンのその言葉を最後にネーベルは倒れた。



冷たい風がシュトュル達を含めた招待客達を吹きさらす。

ギシッバキッと割れた窓硝子を踏み潰す音。

淀んだ赤黒い瞳、薄暗い靄の様なモノを纏うライオン…シャッテンがユラユラと歩く。


突然の出来事で騒然とする会場。


「ウォオオオ!!」


シャッテンがそう雄叫びをあげると一直線に走る。


シュトュルとレイディエ殿下に向かって。


「シュトュルッ!!」

レイディエ殿下がシュトュルの腕を引き、会場の出入口へと走る。

しかし、招待客達が逃げ惑い、ごった返して進む事が出来ない状況だった。苦渋の顔をするレイディエ殿下は、シュトュルを自身の後ろに隠す。

警備をしている騎士達は招待客達を避難させ、シャッテンを止めようと動く。



騒然としている中、冷静な者がいた。


(あぁ…邪魔ね。せっかくこの2人、いい雰囲気だったのに…。あの魔獣を見るに、契約者の誰かさんが、魔力と感情を上手くコントロール出来ずに暴走させちゃったみたいね。馬鹿馬鹿しい)


冷めた目で闇を纏うシャッテンを見るのは、レヴィアタンだ。


シュトュルを介して現場を見れば、騎士達は役立たずであった。

理性を失ったシャッテンは行く手を遮る物全てを引き倒して蹴り飛ばす。

騎士達に剣で斬られて血を流そうが、魔法で逆立つ毛を焼かれようが、気にしないでシュトュル達に向かって走る。


レヴィアタンはシュトュルに纏わりつく。

ギシギシと、縄で縛り上げる様に。


「れ、レヴィアタン…?」

シュトュルが小声でレヴィアタンの名前を呼ぶ。

(さっさと幕引きさせてあげるわ…。だって貴方、邪魔でしかないもの)

レヴィアタンはシュトュルに返事らしい返事はせず、シャッテンを見てそう呟いた。

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