第11話 怪物

 アベガーッ!

 アベガーッ!


 沼底の汚泥につつまれ、全身を黒く染めた朽木弁太郎はいま、正真正銘の怪物と化していた。

 アベ政権を憎む歪んだ怒りが、そのエネルギーが不死身のパワーとなって水面をかき分け、こちらに向かってくる。


「退がって!」


 玲香は美由紀を後ろに退がらせると、革ジャンの内側に仕舞ったショルダーホルスターからグロック19を抜いた。


「せ…先輩、それ?!」


「暴力団から押収した武器のひとつを保管庫から失敬したのよ」


「い…いいんですか?」


「正義のための超法規的措置っていうやつよ」


 玲香は迫りくる弁太郎に向かって引き金を絞った。


 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダダン!


 9ミリパラベラム弾を全弾撃ち尽くす。


 アベ、アベ、アベガガーーッ!!


 なんと、弁太郎は死なない。沼の淵に手をかけ陸にあがってこようとする。

 玲香は足元に落ちていたサバイバルナイフを拾いあげ――


 グサッ!


 弁太郎の眉間に突き刺した。


 アベガガガガーーッ!!


 弁太郎が苦悶の叫び声をあげる。さすがの怪物も前頭葉を串刺しにされてはたまらない。白目を剥き、手は虚空をつかむように泳いで再び沼底に沈んでゆく……。


 ごぼごぼと水面がしばらく泡立ったのち、やがてそれは穏やかな波紋となってもとの静寂を取り戻した。


「終わったんですか、先輩?」


 美由紀が不安をにじませてきく。


「終わったわ。だけど……」


 眉根をよせて玲香がいいよどむ。


「だけど……?」


「これが最後の一匹とは限らない。反日四天王の影響を受けたクソ野郎は無数にいるのよ」


「わたしたちの戦いははじまったばかりなんですね」


 玲香はうなずくと踵を返した。


「ゆくわよ」


「あっ、待ってくださーい!」


 美由紀が慌てて玲香のあとを追いかける。

 シミの浮き出たブルマの尻をぷりぷりと振りながら……。



    つづく

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