第6話 囮

「せ…先輩。これはちょっと……」


 美由紀は玲香のいわれたとおり着替えてみせたが、ワゴンから降りたくなかった。

 紺のブルマーに、上は半袖の体操着といった格好で、まるでAVの撮影のようだ。


「ちょっとまだ露出が足りないわね」


 玲香は裁ち切りバサミを取りだすと、体操着の腹の辺りをジョキジョキと切り落としてゆく。


「これでよし」


 ヘソ丸出しのいかにもな格好となった。


「あからさま過ぎません? なんかエサ感まるだしじゃないですか?」


 美由紀はますますワゴンから降りたくなかった。そこはもう烏ヶ森公園の敷地のなかである。


「犯人を捕まえたいのよね」


「もちろんです」


「囮になって死んでも構わないっていったわよね」


「いや、そこまではいってません」


「フダがとれない以上、現行犯逮捕するしかないのよ。これ以上不幸な犠牲者を出したくなかったら……四の五の言わずやりなさいっ!!」


「はい。……わかりました」


 美由紀が不承不承うなずく。そこまでいわれたらやるしかない。

 スライドドアを開いて公園に降り立つ。

 辺りは濃い夕闇につつまれている。


「さあ、いって」


 ぱん。

 玲香に尻をたたかれて美由紀は走り出した。

 公園をフィールドにしている美ジョガーといった設定だ。


「こんな格好のジョガーっているのかしら?」


 と疑問に思いつつ遊具の周りを軽く一周、さらにそこから奥まった道のなだらかな坂を駆けあがり、林に囲まれた沼の辺りに差しかかると――


「っ!?」


 背後に気配を感じる。ぴたり後ろに付かれている。

 背筋にぞわぞわと悪寒が走る。

 肩越しににゅっと手が伸びてきた。

 薄汚れた軍手をはめた手だ。

 その手が美由紀の体に触れようとしていた。



    つづく

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