第3話 父のマスクは届かない

 ガジェコがタブレットを握りしめたままコタツで廃人化していると、玄関でドラネコ急便から荷物を受け取ってきたアリスが和室に戻ってきた。


「どうした貴公? 見るからに元気がないぞ」

「ステイホームで暇だったから、Vガンダムを全話見たら心の病気になってしまったくま」


 ありゃー、という顔をするアリス。キングゲイナーにしておけば良かったものを、と呟く。


「まあ元気を出すのだ。ところでお国から配布用マスクが届いたぞ、感染症予防にありがたいことだな」


 定位置に座ると、アリスは愛剣で段ボール箱のガムテープを切り裂く。箱の中からマスクを取り出す。出てきたのは、もじゃもじゃの髪が生えて縫製が斜めに傾いたマスクだ。

 とりあえず空元気でじっと見るガジェコ。


「それなんかやけに緑色だけど」

「ふむ、待つのだ。説明書を読んでみる。なるほど、説明書によるとこの子の仮面マスクはスタミナ回復が早まる効果があるらしいぞ」

「つまりその緑色はバフのエフェクトというわけくまね」

「うむ、そうだな。便利な一枚だな。けっして地下遺跡の各所、腐った血肉に生えるカビの類ではないぞ。それでもう一枚のほうだが」


 箱からもう一枚を取り出す。こっちは頭頂部が尖った、目つきの悪い見ているだけでムカムカしてくるデザインだ。森に入ってみるとポップ位置を真鍮色の鎧やら岩のような鎧に腰巻を着た連中が取り囲んでいそうな見た目をしている。


「母の仮面マスクというらしいぞ。装着すると最大HPが上昇するそうだ」

「アプデで下方修正くらいそうな効果だくまね」

「しかたなかろう、フロ〇のバランス調整はなんかアレなのだ。最初からそんなもんだと納得して思っていればいいではないか。女騎士は、そう考える」

「フ〇ム?」

「なんでもないぞ」


 アリスは二枚のマスクをしまうと、もうひとつの箱をコタツ天板に乗せる。


「貴公にはこちらのほうが良いだろう。古流院ゲーム協会からだ」


 ガジェコは目を輝かせる。ステイホーム用に申し込んでいたレトロゲーム機が届いたのだ。


「スーファミだな。私も遊ぶのはずいぶんと久しぶりである」

「アリスもいっしょに遊ぶくま遊ぶくま。カセットもオマケでついてきてるはず。あたしがドンキーを使うから、アリスにはディディーを任せた。協力してクリアしようぜ」


 そう言ってガジェコは箱を受け取り開ける。わくわくが止まらない。ぺりぺりと梱包を剥がす。


 ジーコサッカーが出てきた。


 しかも中身のロムは実在する伝説的なスーファミ用エロゲー、非公認データが上書きされたSM調教師・瞳だった。

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熊と女騎士、八畳間暮らし うぉーけん @war-ken

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