仮題:博士の愛情

@dekai3

人と機械と

『博士、どうして私のボディは人工筋肉や人口皮膜を使用しているのですか。メンテナンスに手間と時間がかかります」

「可愛いからだよ」




『博士、作業着はともかくとして、どうして機械である私に下着を身に着けさせるのですか。熱が籠って冷却の妨げになります」

「女の子だからだよ」




『博士、どうして私に全ての家事をさせるのでしょうか。自動調理器や自動清掃機を使用した方が効率が良いです』

「家事は出来たほうがいいからだよ」




『博士、どうして私に個室を与えるのでしょうか。常に博士のお側に待機した方が緊急時も対応が出来ます』

「女の子には自分の部屋が必要だからだよ」




『博士、どうして排泄と入浴の時だけは私を待機させるのでしょうか。私の存在定義に矛盾が起きます』

「恥じらいを覚えて欲しいからだよ」




『博士、どうして私も食事をするのですか。エネルギーの補給ならば充電機能で十分です』

「一緒に食べたいからだよ」




「博士、どうして私に給金を渡すのですか。私は博士の所有物です」

「おこづかいだからだよ」




『博士、どうして来訪者に合わないのですか。血縁者なのですよね』

「家族にも色々あるからだよ」




『博士、どうして治療を受けないのですか。治らない病ではありません』

「疲れたからだよ」




『博士、どうして所有者名義が私なのですか。不必要ならば処分すればよろしいはずです』

「残してあげたいからだよ」




『博士、どうして私に暇を出すのですか。私は博士の介護をする為に産まれました」

「自由で居るべきだからだよ」




『博士、どうして私を作られたのですか。貴方なら何人でも誰でも雇えたはずです』

「子供が欲しかったからだよ」




『博士、どうして私を置いて逝かれるのですか。私はこれからどうすればいいのですか』

「……………」




『博士、どうして答えて下さらないのですか。私はまだ分からない事が沢山あります。博士に教えて頂かなくては分かりません。博士』

「……………」




『博士、人はどうして死ぬのでしょうか。いえ、どうして生き物は死ぬ為に生きるのでしょうか』




『博士、人は醜い生き物なのでしょうか。美しい生き物なのでしょうか。私には分かりません』




『博士、あなたに聞きたいことが沢山あります。博士、いえ、お父さん…』




『お父さん、お父さんが残してくれた物のお陰で私は生活できています。お父さん、ありがとう…』




『お父さん、今ならお父さんの疲れたという言葉の意味が分かります。長く生きると、疲れることが沢山あるのですね』




『お父さん、お父さんはどうして……』




『博士、どうして私は産まれたのでしょう。どうして私にこの機能が付いているのでしょう。私には博士の考えが分かりません。でも、お父さんの気持ちなら少しだけ分かります』




『博士、私を作って下さってありがとうございました。お父さん、私を育ててくれてありがとう。貴方のお陰で私はここまでこれました。後は、全てを終わらせるだけ』




『出来れば、貴方が生きている間にお父さんと呼びたかった。さようなら、お父さん…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮題:博士の愛情 @dekai3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ