第25話 隔たりの街と予告状

「で、お前らは何者だ? つっても、どうせ弱い人襲って食いつないでるゴロツキだろうけど」

「へぇ、その通りです」


 捕らえられた男達は、翌朝になりカミナ達に尋問を受けている。


「昨日の夜、俺たちが行った時にはお前ら倒れてたが、一体何があったんだ?」

「いや~、さっぱり。なんかビリっとしたと思ったら、もうこの状況で」

「…………駄目ですね。全く覚えてないようだ」

「だな。さて、ジョージさん。コイツらどうする?」

「私たちとしては正直なところ始末してしまいたいです。今はアナタ方が居るので安心ですが、私たちにとっては脅威ですから」

「ふ~ん、まぁそうだろうな。でも、自分たちで殺せるの? コイツら」

「あ、いえ。それは」

「今までは知らんが、少なくともこの町では何にもしてないからな。それで通り掛かりの俺が手を下すのも気が乗らん」

「ウチも弱い者イジメはしたくない」

「とは言え、このまま放っておく訳にもいかないのでは?」


 しばらく考え込む一行。


「そうです。私に妙案があります」


 町から少し離れた場所にカミナとケルノス、そしてジョージが移動する。吸血植物が多く存在するその場所で、ケルノスは男達を近くの木に括り付けた。


「あの~。これは一体」

「私たちが直接手を下すのは良くない。かと言って無罪放免というのも無理。そこで、君たちの命運を天に任せようと思いましてね」

「…………それは、どういう」

「私たちはこのまま帰ります。夜になるまでになんらかの形で逃げることが出来れば、君たちは生き延びることができます」

「出来なければ?」

「まぁ、そこら辺の吸血植物のエサになって終わりでしょう」

「えぇ~、そんな」

「時間はありますから、頑張ってください」


 わめいている男達を置いて、三人は町へと引き返す。


「あれで本当に大丈夫なんですか?」

「問題ないでしょう。あの程度の奴らに私の糸が切れるはずもありませんから」

「しかし、お前のやり方もなかなかだな」

「奴らの口振りから察するに、今まで多くの人を苦しめてきたことは明らか。後悔しながら死んでいくのも悪くないでしょう」

「まぁ、否定はしねーよ。ただ、お前の方が俺より怖いんじゃねーかとは思うが」

「はっはっは、冗談は止めてくださいよ。同じですよ、私とカミナは。少し系統が違うだけ」


 町へと帰った三人。


「あ、おかえり。朝ごはん作ったから食べて」


 クレアの料理にカミナ達はもちろん、町の人も驚きを隠せない。


「!! ク、クレア。アンタ、こんなに料理上手だったの」

「うん、美味い。また料理の腕上げたんじゃねーのか」

「本当に美味しいですね」

「えへへ、よかった。みんなに喜んでもらえて」


 朝食を終え、町を出る一行。


「なんだか、お世話するつもりがお世話されっぱなしになってしまいましたね」

「いえいえ、こちらこそお世話になりました。それでは」


 手を振る町の人に、各々答えながら去って行くカミナ達。


「で、次は?」

「普通に行けば今日中に山を抜けて、その先にある『カスト』という街に着けるはずです」

「え!? カスト?」

「どうしました鳳仙」

「いや、そのカストって、オヤジに聞いてた所なら行きたくないというか、嫌いというか」

「あぁ、分からないではないですね。私も好きではありませんから」

「何だ? 何か問題があるのか?」

「少々クセが強いというか」

「身分制度がもの凄い露骨で厳格なんだよ」

「ん? でもそれはどこでも似たようなもんだろ?」

「本当に露骨なんですよ。まぁ、行ってみれば分かります」


 長かった山道を抜け、まだ日が有る内に件の街、カストに到着した一行。


「うわ~! ドーゴの門もビックリしたけど、ここのもスゴイ大きさだね」

「神都を除けば、恐らく一番大きな街ですから。では、行きましょう。夜になる前に今日の宿を決めておかないと」


 特にお金を払うでもなく門を抜ける。


「…………なんか、フンイキ悪いね」

「えぇ、ここは普通の人がその大半を占める下流層ですから」

「どういうことだ?」

「この街は身分によって三階層に分かれているんです。一番外が下流層、次が中流、一番内側が上流層になっています」


 しばらく歩いくと、目の前にまた大きな門が現れた。今度は最初の門とは違い、体格の良い鋭い目つきの門番が立っている。


「これは?」

「ここが中流層への門。見て分かるように、ここから先に行くには条件を満たす必要があります」

「条件?」

「はい。中流層へ入るためには上級使徒、もしくは神人であること。それか20万ジール以上の献金をすることのいずれかを満たす必要があります」

「えぇ! 20万ジールなんて大金、払える人なんてそんなにいないよ」

「そうですね。だから中流層とは言っても、かなり限られた者しか入ることは出来ません」

「…………デイルとかドーゴの裏街とは違って、ここの奴らはかなり殺気立ってる。…………何かに期待している雰囲気もあるが」

「皆、何とかして下流層から抜け出したいんですよ。そのためなら文字通り何でもする覚悟があります」

「…………私、ちょっとコワイかも」

「ここで宿を取るのは気が乗らねーな。クレアのことを考えると」

「もちろん、そのつもりはありません。宿は中流層で取りますよ」

「どうやって? 何か手があるのか?」

「お忘れですか? 私は一応上級使徒ですよ」


 そう言うとケルノスは首に掛けているカードの様な物を取り出した。


「これが上級使徒の証。これを見せれば入ることが出来ます」

「俺たちも大丈夫なのか?」

「えぇ。何とも都合の良い話ですが、これを持っている人とその従者、併せて一度に五人まで入れます」

「わぁ~。スゴイね、ケルノスさん!」


 カードを門番に見せると、問題なく門は開いた。


「さぁ、行きましょうか」


 一人先んじて颯爽と進むケルノスとその後を付いていくカミナ達。


「スゴイね。門を一つ越えただけなのに、こんなに違うんだ」

「本当。まったくの別世界って感じだね」

「…………ここら辺の奴からは全然殺気とか焦燥感は感じねーな」

「そうだね。でも、なんか騒がしいというか、ソワソワしてる感じしない?」

「確かに。不安と好奇心が入り混じっている感じだな」

「何でしょうね。まぁ、とりあえず宿を取って休みましょう」


 宿に入り、一息つく一行。


「う~ん。やっぱり気になるな」

「なんだ? どうした鳳仙」

「いや、街の人たちが何にソワソワしてたのかなって。…………ちょっと行ってくるわ」


 そう言い残して鳳仙は宿を出て行き、十分程度で戻って来た。その表情は嬉々としている。


「どうした? 何か良いことでもあったのか」

「良いことかは分からないけど、何で街の人がソワソワしてたのかは分かったよ」

「ほう、何でだ?」

「昨日の夜、雷光の紳士が上流層の中でも上流な奴の家に盗みの予告状を出したんだってさ」

「ジョージさんたちが話していた義賊ですね」

「うん。それで自分たちは直接関係ないから、中流層は野次馬根性でソワソワ。下流層はお金がバラ撒かれるんじゃないかって期待してソワソワって感じみたいだよ」

「なるほどな。で、お前も興味津々って感じか」

「バレた? いや~、なんか爽快じゃんか。特にこの街みたいな所でそれが成功すればさ」

「まぁ、興味はあるな」

「だろだろ。予告状が本当なら、今晩が決行日。見に行こうよ」

「そうですね。この宿は高さがそれなりにありますから、ここの屋根の上で見物しましょう」

「私も見たい」

「よし、それじゃ皆で雷光の紳士って奴を見物しようじゃないか」


 完全なる興味本位。まだ犯行時間まで時間があるというのに、カミナ達と同じ様に準備を始める者が多く居る。


「考えることは一緒だね」

「…………上流層の方は戦々恐々といった感じですね。当然ですが」

「まぁ、ゆっくりと見物させてもらおうぜ。雷光の紳士って奴の手際をさ」

「ん~、なんか楽しみになってきたよ」


 完全に日が落ち、街に夜が訪れる。


「そろそろ時間でしょうか。…………それにしても」


 ケルノスが目を向けた先で、カミナと鳳仙がクレアの料理に舌鼓を打ちながら酒を楽しんでいる。


「アナタたちは緊張感が全然持ちませんね。まぁ、良いですけ」


 次の瞬間、上流層の方で大きな警報が鳴り響く。それを聞いたカミナ達はあっと言う間にベストポジションに戻って来た。


「…………はぁ。本当に、何と言うか」

「…………お! 見えたぜ。あれだ」

「ん~。あ、ウチも見えた」


 サーチライトに追われる人影。軽やかな身のこなしで屋根から屋根へと飛び移っている様だ。


「お~、確かに軽やかな身のこなしだ」

「そうだね。あれならそう簡単には捕まらないだろうね」

「このままだと上流層はそろそろ抜けますね。下流層に行ってバラ撒きをするんでしょうか?」

「どうだろうな。それはまた別の日に隠れてやるんじゃねーのか?」

「でも、それじゃ派手さがないよ」

「まぁ、どっちにしても、アイツの勝ち」


 このまま逃げ切ると誰もが疑わなかった。しかし、その思惑は裏切られる。上流層の区域から飛び出ようとした時、突然雷光の紳士が急激な速度で地面に叩きつけられた。


「なんだ、どうした?」

「何とも変な動きでしたね。まるで地面に引っ張られるような」

「何にしても、これで雷光の紳士の失敗、捕縛が確定だよ。どうなるんだろう」

「すぐに死刑ってことにはならないでしょう。これだけ世間を騒がせた訳ですから、とりあえずは拘留されると思います」

「明日の朝刊が楽しみだな」


 盛り上がるカミナ達と街の人々。そんな中、少し悲しそうな顔をしている人が一人。


「…………私、ぜんぜん見えなかった」

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