第2話
俺が恋を好きだと自覚したのはいつだっただろうか。
多分、人によっては明確に『この時』と言える人もいるだろう。しかし、俺はそこまで明確には覚えていない。
小さい頃に彼女に出会って、話をして遊んで……。
俺を兄の様に思ってくれて頼りにしてくれた。それは、彼女の家族も同じだった。愛一郎さんには……嫌われていたみたいだったけど。
いつも笑顔の彼女を見ていると、心が暖かくなった。ただ、それが普通だと……当たり前だと思っていた。だから『好き』だとかそんな事は考えていなかったのだ。
でもそんなある日、恋が同級生と思われる男子と一緒に帰っている姿を目にしたことがあった。
いつもであれば一緒に登下校をしていたけど、その日はどうしても学校に残らないといけなかった。
『…………』
しかも、一緒に帰っているのはその男子だけで恋と二人だった。
恋は何も気がついていなかったかも知れないが、その男子の表情が……明らかに恋を意識している様に俺には見えた。
もし『恋が好きだと自覚したタイミングはいつ?』と、聞かれる様な事があれば、多分その時初めて意識したのだろう。
でも、好きになっていたのはもっと前だったと言い切れる。
しかし、告白について考えた事がないか……と聞かれれば、もちろん考えた事はある。
それでも、みんなが考える様に「告白して断られたら……」と思ってしまったのだ。もちろん「今までの関係が壊れるかも知れない」という事も……。
だから、好きだという自覚はあっても、たとえ上木や黒井にバレバレだったとしても『告白』出来ずにいたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、三年生の先輩に触発されて告白を決意したんスか?」
「別に触発ってほどでもない」
ただまぁ……勇気はもらったような気はするが。
「まぁ、正直な話。俺はどちらから言ってもいいと思うんスけどね? 男から言おうが女から言おうが。だって、好きだっていうところは一緒じゃないッスか」
「……」
確かに上木も誠一郎先輩も言っていたとおり「告白をするのに性別は関係ない」とは思う……のだが。
「はぁ、なんで先輩といい二本木といいこんなに分かりやすいにも関わらず……」
その後何やらボソボソと言っていたようだが、俺からは何も聞こえない。
「どうした?」
「なんでもないッスよ。それで、先輩は告白するんスね」
「そう……思うのだが」
「……その決心が揺らいじゃダメじゃないッスか」
「わっ、分かっている。頭では分かっているのだが……」
「やっぱり『失敗』が怖いッスか?」
元々、自分が傷つくのが怖くてどうしても……という時以外は、色々な事から逃げていた俺にとって『告白』は、どうしようもない無理難題に見えてしまうのだ。
「どうしても……な」
本当に、こういう時の自分の臆病さには驚かされるし、イヤにもなる。
「はぁ、もうちょっと楽観的に考えてもいいんじゃないッスか?」
「楽観的に……か」
それが出来れば……もっっと色々な事に挑戦する事が出来たのだろうか。
「そうッスよ。俺は根暗ッスけど、基本的に考え方は適当ッスから」
「それは……少し考えろ」
「先輩は頭が良いせいかも知れないッスけど、色々と考え過ぎなんスよ。確かに『もしも』を考えるのは良いと思うッス。でも、それにとらわれていたらダメッス。それはあくまで『もしも』ッスよ」
「あくまで『もしも』か……。確かにな」
そう言われると……俺は色々と考えすぎていたのかも知れない。しかも、そのどれもが『悪い方向』で……。
「どうなるかなんて、未来の事が分かる人なんていないッスよ」
「……そうだな」
そう言いきる上木に、俺は少なからず勇気づけられた。
たとえ、断られたからといって、それで全てが終わるわけではない。そう思える様になっただけ、俺は成長出来たのかも知れない……そう思えた。
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