第6章 生徒会でグロース

第1話


『恋に告白をする』


 卒業式の日。生徒会でお世話になった元副会長の先輩が告白をした。


 その前に先輩には会っていたのだが、俺は久しぶりに会った先輩と話をし、そんな先輩からあの日、そう心に誓った。


 ――誓った……のだが。


「…………」


 正直、出来る気が全く起きない。


 そもそも、クラス内で何人かは恋人がいるらしい……と聞いた事がある。だが、残念ながらそんな恋人がいる彼らとの接点がない。


 つまり「どうやって告白をしたのか」とか「どちらから告白をした」とかそういった話をする機会がないのである。


 せめて俺の周りでいてくれれば……とも思ったが、残念ながら全員そういった経験がない人たちばかりだ。


 そうなると、後はもう――。


「せっ、先輩?」


 突然、俺の背後から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「……」


 振り返ると、そこには俺の持っている本に驚いている上木の姿があった。


 そう、俺がいたのはクリスマスパーティーでプレゼントを買った建物の中にある本屋だったのだ。


「なっ、何やっているんスか? こんなところで……。それに、その雑誌は一体?」


 そこまで俺が雑誌を持っているという事が意外だったのか、上木は何度も俺とその雑誌を交互に見ている。


 確かに、いつもは大体、小説くらいしか読まず、マンガもほとんど読まない。せいぜい違いがあるとすれば、ジャンルくらいだ。


 だが、俺だって年相応のティーン向けの雑誌だって読みはしないが、気になる事くらいある。


 それに、今気になっている事を聞く相手がいない俺にとっては、こういった雑誌などで情報を得るくらいしか方法がないのだ。


「ん? ああ、コレか?」

「いや、先輩もそういったモノを読むんだな……と」


 その言葉に、俺は一瞬無言になった。


「……俺だって雑誌を読む事もある」

「まぁ、そうッスよね」


「そんなに意外か?」

「えぇ……と」


 上木は俺の問いかけに戸惑いながらも、最後には「はい」と認めた。


「いや、だって先輩が放課後にこんなところにいる事自体珍しいと言うか……ッスね」

「別に、文芸部で使う本を買うこともある。図書室にある本は大体読んだからな」


「……まじッスか」

「さすがに全部を覚えてはいない。それに、小説以外は読んでいないからそんなに驚くほどの量でもないだろ」


「いやいやいやいや、すんごい量になるッスから」

「……そうなのか。俺はそうは思わないが」


「……で、そんな先輩がこんなモノを読んでいたらそりゃ驚きますって」

「まぁ、たまには……いいかと思っただけだ」


 あえて言葉をにごした。


「……そうッスか」

「ああ」


「てっきり俺は、先輩がやっと告白をする勇気が出たのかと思ったんスけどねぇ」

「なんでそう思った」


 上木としては「なんとなくそう思った」だけだろう。しかし、俺はすぐその言葉に反応した。


「いっ、いや。だって先輩が持っているその雑誌に書いてあるじゃないッスか。理想の告白大特集って」

「……あ」


 完っ全に忘れていた。


 小説くらいしか読まないからなのか、そもそも雑誌の表紙には買おうとする人の目を引くために色々な見出しの様なモノが書かれている。


 俺も、それを見たからこの雑誌を読んでいたはずだ。それなのに、それすら忘れてしまうとは……。


「……別に驚きはしないッスよ? 先輩がこ……」

「待て、その話はここですべきじゃないだろう。場所を変えるぞ」


「……そうッスね。念のために……と、どうしたんスか? そっちは出口じゃないッスよ?」

「……買ってくる。ちょっと待っていろ」


「あっ、買うんスね」

「…………」


 そう小さくつぶやかれた上木の言葉を聞き流し、俺はいそいそと会計へと急いだのだった。

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