第2話
「それに、今回は期末テストが終わった直後だから、テストを返す関係もあって、必然的に六限目に全校集会になるわけなんだけど……」
「ああ、それなら恋がすでに書類を完成させている」
最初の頃、俺は恋の事を『二本木』と呼んでいた。しかし、俺が恋と幼なじみだと知られて以降は昔同様『恋』と呼んでいる。
ただ、コレはあくまで『生徒会メンバーの前』だからこそである。コレがうっかり違う生徒もいるところで出ないように俺は常に気を付けている。
「あら、速いわね。それだけはりきっているという事かしら?」
「さぁな、だから後は印刷するだけだ。上木の方はどうだ」
「はぁ、
俺はその言葉に「そうか」と返した。
「ところで……上木。テストは大丈夫そうか?」
「……」
「あら、この無言は……大変そう?」
「……黙秘します。でも、四十点以下はないと思う……ッス」
本人が「大丈夫」と言っているのだから、これ以上追求するのはかわいそうだろうし、いつも「やばい」と言いつつも四十点以下である『赤点』を取ったと聞いた事はない。
「でも、今日は担任の先生に呼ばれて遅れていたのよね?」
「そっ、それは……テスト中ちょっと寝てしまって……」
「それは聞き捨てならないな」
「でも、それだけで呼び出しはされないと思うけれど?」
黒井の指摘はもっともだ。
「どうなんだ?」
「うっ、えと……じっ、実は」
上木が言うには、どうやらテスト中に寝ていたのは一度だけではなく、全てのテストを解けるだけ解き、後の残り時間をずっと寝ていたようだ。
一度だけなら、まだ注意を受けるだけで済んだ。しかし、それが毎回となればさすがに担任の耳にも入れざる負えなかったのだろう。
「はぁ、上木。いくらなんでもそれはどうかと思うが」
「ちゃっ、ちゃんと反省しているッスよ? いくらテストを解き終わったからといって寝たのはさすがに良くないって」
「そうね。いつも確実に百点満点をとっているの人なら……文句も出ないでしょうけど」
黒井の言葉に、上木は「それは……無理ッス」とさらにへこんだ。
「ともかく、後は明日の朝に全校生徒と教師の分の書類を印刷すればいいのか」
「そうね。でも、それに関しては私の方から恋ちゃんに言っておくわ」
「え」
「!!」
通常、こういった生徒会の仕事に関する事は副会長の俺から伝える。それに、上手くいけば『恋の機嫌を直す事』も出来る可能性がある。
「くっ、黒井先輩が言うんすか?」
「ええ、市ノ瀬君に頼むとまた変ないざこざが起きそうだから」
「うっ」
しかし、俺の場合。
残念ながら黒井の言うとおりの結果になりかねない……いや、ほとんどその『結果』で終わってしまうだろう。
だからこそ、黒井は申し出てくれたのだろう。
だが、それで「はい、そうですか」と引き下がる気にもならない……ならないのだが。
「いっ、いや。さすがにそんな子供じみた様な事は……って、なんでお前はそんな笑顔なんだ」
「あら? そう?」
「いや、本当にいい笑顔ッスよ」
「そうかしら? ウフフ」
見た目と話し方はかわいらしい少女そのものだが、その話している内容はなかなか鋭くまたその発言の後に見せる目の笑っていない『黒い笑顔』はなかなかの迫力……と、一部の人には定評がある。
「……分かった」
「折れるんすか?」
「仕方ないだろ……否定出来る気がしないのだから」
この笑顔の前では、ガラスのハートを持つ俺では太刀打ち出来ない。つまり、降参するしかないのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………」
「? どうかしたんすか、先輩。確かに、普通は副会長から伝えるモノッスけど、さすがに黒井先輩の言っている事も理解出来るとは思うんすけど……」
「ん? いや。そうじゃなくてだな……」
「??」
何か不審な視線を感じた俺は、少し生徒会室の外の方に視線を向けたが……すぐに書類へと視線を戻した。
「……まぁ、いい。とにかく恋には黒井の方から伝えておいてくれ」
「ええ、もちろん。了解したわ。それじゃあ、そろそろいい時間だしお開きという事でいいかしら?」
「ああ」
「そうッスね」
生徒会室の壁にかかっている時計は、朝礼の十五分前を指している。
「鍵は俺が締めて先生に渡しておく」
「よろしくね」
「ああ、それと上木」
「はい? なんすか?」
俺は生徒会室から出て行こうとする上木を呼び止めた。
「それじゃあ、私は先に行くから」
黒井はそう言うと、振り向きもせずその場を後にし、俺と上木は少しだけ話をし、今日の朝の生徒会活動は終わった――。
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