《西暦21517年 猛3》その一



 旧医療センターに潜入した猛は、そこで二手にわかれることにした。


「ここは第一セクションか。オシリスのいるメインコンピュータールームが近いな。真島は北沢をつれて、オシリスのところへ行ってくれ。とにかく内部の詳しい構造が知りたい。見取り図のデータをダウンロードできないか交渉してくれ。おれたちは発着場へ先行する。その後のことは、また相談だ」


 連絡は各自の持つ脳波操作型端末でいける。この端末のネットワークは地球回線だから、センター内でも問題なく使える。


 ところが、そのように話しているところに、オシリスからがあった。


『東堂。申しわけないが、今、こっちのコンピューターは奪還中だ。まだ使えない。見取り図ならオーガスが持っている。彼から貰ってくれ』


 それだけ言ってコンタクトは切れた。どうやら、オシリスは手が離せないらしい。


「そうか。オーガスとは地球のネットワークで連絡がとれるんだな。真島、ちょっと待ってくれ」


 猛は腕時計型の端末に恐る恐る念じてみた。


 猛は生まれつき念写のできるエスパーで、そのせいか、やたらに電化製品を壊してしまう。以前はコンピューターなんて身につけていられなかったが、今は特注の静電気保護シートでコーティングされた端末を持たされている。これなら壊す心配はない。


 ただし、この端末の通信機能は無線のようなものなので、あまりに対象から遠くなると不通になる。また、地球から遠ざかりすぎてもいけない。旧医療センター内ならば可能なはずだ。


「オーガス。聞こえるか? おれだ。猛だよ」


 返答はすぐにあった。


「こちら、オーガス。猛さん、これが通じるってことは、センター内ですか?」

「ああ。事情はおおざっぱにオシリスから聞いた。おまえの現状は?」

「現在、中西さん、森田さんの護衛中です。二人は一部はぐれたコロポックルを探しに行くところです」


 さらに、脱出のため発着場に研究員が集まっていることなども聞いた。

 そののち、こちらの状況を伝え、見取り図のデータを送ってもらう。


「春蘭と薫の動向には、そっちも注意しといてくれ。とにかく、早まったことをする前に捕まえたい。とくに春蘭は何をしでかすかわからないからな。おれたちは二人を探すことを優先するが、テロリストを見つけたときは射殺しておく」

「了解しました。部下にも伝達しておきます」


 交信を切ったあと、猛は作戦をねりなおす。


「薫と春蘭は現在、別々になっているらしい。やっぱり予定どおり、おれたちも二手にわかれよう。おれは薫を探す。おまえたちは真島を班長にして、春蘭を探してくれ。春蘭はテロリストに捕まっているらしい。くれぐれも気をつけろよ」


 池野が心配げに反論する。

「猛さん一人じゃ、もしものことがあったとき、どげすうかね? わがついていきます。いいでしょう?」


 不二村のコマンダーにも、いちおう上下の序列はある。が、そこは長年、村と御子を守るという仲間意識の上に成り立った関係だ。総大将の猛の命令でも、それがあまりに無謀なときには、けっこうみんな平気で自己主張してくる。


「わも、そのほうがいいと思う。猛さんは機械が苦手だけん。池野がおったほうが安心だわ」


 安藤まで言うので、猛は折れた。


「わかったよ。時間が惜しいしな。そのかわり、用心しろよ」

「ラジャー」


 第一セクションを素通りして、第二セクション、第四セクションの境まで来たところで、猛は真島たちとわかれる。


「無線機があるのは発着場付近のパイロットひかえ室だ。そこで春蘭はテロリストに捕まったらしい。真島たちは発着場のある第四セクションへ行ってくれ。おれと池野は第二セクションを探す」


 そう言って別行動をとった。

 第二セクションなら、さきほど交信したオーガスがどこかにいるはずだ。

 しかし、第二セクションは研究棟なので、小部屋を一つ一つ調べるには手間がかかった。オーガスとも、テロリストとも、薫とも出会わない。

 ときおり、オシリスのテレパシーや、端末を介してオーガスから連絡が入るだけだ。


『テロリストは輸送機で侵入したもよう。なかに女が一人残っている。そばにいる戦闘員は女を確保するように。仲間の動向を聞きだせ』


「こちらオーガス隊、中野。たったいま、テロリストの女を確保しました。オシリスCのエンパシーにより身元が判明。エリザベス・ゴールド、十七歳。監獄星から脱走した囚人です。仲間は同じく監獄星の囚人。新垣修士、本条誠、トム・ウィッチバーグ、コリン・ジョンソン、ノーラ・ピアニー。現在、エリザベスとは別行動中。彼らの目的はセンター内で開発中の秘密兵器とのこと」


 猛と池野は首をかしげる。


「猛さん、秘密兵器なんか開発しちょうますか?」

「いや、そんなものはない。たぶん、コロポックルのことだな。ここでの研究を何かの兵器開発と、ヤツら勘違いしたんだ。くそッ。新垣、本条、ウィッチバーグ……どいつもこいつも覚えのあるヤツらばっかりだよ。脱走したのはオリジナルの記憶を持たない連中らしいが、油断はならない。エリザベス・ゴールドなんかEランクのエンパシストだ。春蘭と接触させないようにしないと、ヤバイぞ。エンパシーで記憶がよみがえるかもしれない」

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