《西暦21517年 蘭5》



「じゃあ、蘭。絶対に、絶対に、ここから動くなよ? ボートから降りるんじゃないぞ」


 くどいほど念を押して、猛たちは旧医療センターへ潜入していった。

 蘭はただ一人で置いてきぼりだ。

 退屈きわまりない。しばし、無線やコンピューターでコロニー内部と連絡をつけようとするが、あいかわらず不通だ。やることがないまま、無意味に時間がすぎていく。


(いつまで、こうしてなきゃいけないんだろう? いっそ僕も入っていきたいところなんだけど)


 その点は、さすが猛だ。蘭の性格を熟知している。予備の宇宙服は持ち去られてしまった。ボートからコロニーの窓へ飛び移るには、どうしても宇宙服が必要だ。いかに蘭が御子で不死身でも、宇宙服なしで真空の宇宙に出ていくことはできない。あるいはそれでも命は助かるかもしれない。が、全身の水分が沸騰して、蒸発し、骨も肉も野球のボールのようにグシャグシャに押しつぶされるほどの痛みには耐えられそうにない。


 蘭がなすすべなく宇宙船のなかをウロウロしていたときだ。前ぶれもなく、コロニーのゲートがひらいた。ボートが二、三艘、飛びだしていく。それらはまっすぐ、となりの海鳴りコロニーをめざしていく。


(テロリスト? いや、オシリスがそんなヘマをやるわけない。職員が逃げだしたのか)


 そんなことより、チャンスだ。今ならゲートがひらかれている。蘭はためらいなく、コンピューターに命じた。


「目的地。旧医療センターコロニー。大至急」


 ボートはオート操縦のままだ。蘭の声に反応し、すみやかにゲートへ向かっていく。

 ゲートは閉じかけていた。そのすきまをぬって、蘭を乗せたボートは旧医療センターのゲートをくぐる。


(猛さんはボートを降りるなとは言ったけど、センターへ入るなとは言わなかった。だから、約束はやぶってない)


 もちろん、おとなしくボートで待っている気はサラサラないが……。

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