《西暦21517年 猛2》



「猛さん。もう、かーくんにほんとのこと教えてあげたら、どげですか? 見ちょって、かわいそうだがね」


 安藤に言われて、猛は肩をすくめた。

 自分でも、今回のイタズラはやりすぎかなと思う。薫のピュアな反応が可愛くて、つい、からかってしまうのだが。そろそろ真実を教えてやるべきだろうか。


 ほんとは、おまえは薫の記憶を持つクローンなんだよ——と。

 おまえのオリジナルは月で死んで、ここはその二万年後の世界なんだと。


 薫はなんと言うだろうか?

 生き返らせてくれて、ありがとうと?

 それとも、なんで死んだまま、そっとしといてくれなかったの——と?


 最初はただのイタズラだった。だが、今では責められるのが怖いのかもしれない。命の重みは人それぞれ違うのだから。


 薫に会いたいと願ったのは、自分や蘭のワガママだ。言いわけのしようがない。


(ごめんな。薫。兄ちゃん、意外と弱虫だ)


 世界を統一した勇者も、たった一人の弟に嫌われることが怖い。


 でも、このときに言っておくべきだった。躊躇したために、これがとんでもない事件に発展していくとは、このとき猛は思ってもみなかった。

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