折々の死季

22時55分

春秋、師走の雪と散りにけり。。。



 師走。それは四季の果て、かの将軍達がせめぎ合う年の暮れ。『寒と暖』それぞれが次なる年の覇権を奪い合う、戦ノ刻。。。



わたくしの名は、春将軍!

 麗かなる陽の下に、生命いのちの華を咲かす者」


「妾は、夏将軍じゃ。

 この暑き美貌に、皆蕩けるがよい」


「我が名は、秋将軍!

 この身に眠る静かな凍気が、この世の総てを紅く染める」


「吾、冬将軍。。。世界、総テヲ、白ク。。。」




 ************




(ワーーーーーーーー)



 怒号響き渡る、緋蒼入り乱れし合戦の地。


 春夏。麗かに苛烈なる姉妹が率いるは、南方を統べし温暖派の緋軍。




『報告!敵の反攻穏やかく、前線は此方が優位に北上しております』


「愉快愉快♪寒冷派の青瓢箪どもが、雪で足元でも滑ったかえ?

 姉上や、悠長に立春など待つ事も無し。一気苛酷に押し上げましょうぞ♪」


「お待ちなさい、夏将軍。

 あまり暑くなってはいけません。

 それに、この手応えの無さ。。。何か違和感寒気を感じます。


『全軍停滞!前線を維持しつつ、南下の準備もお願いします』」



「フン、此処まで北上しておきながら、南下とな?ぬるいわ姉上!

 左様な弱腰じゃから、『ポカポカ陽気』などと馬鹿にされるのじゃ。


 穏やかなるは、その陽気だけにしやれ!!!


『全軍、前線を更に押し上げよ!熱を上げ、雪を溶かし。一気苛酷に、敵本陣を真夏日としてくれるわ!!!!!!!』」



「し、しかし。。。」


「何ぞ?貴様、よもや妾の命は聴けぬ。とでも申すかえ?」


「い、いえ!決してその様な!」


「夏将軍!それくらいに、」




(ビューーーーーーーー)


 突如緋軍の陣営へと吹き付けた一陣の北風は、春将軍の違和感を現実のモノとする。




『急報!!!敵、伏兵出現。我が方は吹き付ける猛吹雪に手足が冷え、徐々に前線を押し下げられております!』


「なんと!!!!!?して、敵の数は?」


「そ、それが。。。」


「なんじゃ、早う申せ!」


「敵は。。。一人、にございます」


「貴様ぁ!!!妾をおちょくっておるのかぁ!!!!!!!」


「夏将軍!!!鎮まりなさい!。。。。。冬将軍。なのですね?」



「はっ。未だ確証はありませんが、恐らく。。。」



『分かりました。全軍に緩やかな南下の指示を、


「姉上!よもや、みすみす」


 心配は無用です夏将軍。私自ら、打って出ます!』




 最前線。吹き荒れる猛吹雪の中に在り、緋き温暖派の兵を蹂躙するは北方を統べし寒冷派、蒼軍の総大将が片翼。冬将軍。




「邪魔。邪魔。。。世界ヲ、白ク、冷タク、白ク。。。冷タク。。。」




 冬将軍の圧倒的冷気が行く道は世界を閉ざし、総てを白一色へと塗り潰す。。。




「お久しぶりですね、冬将軍。皐月の頃、立夏の陣以来。約半年ぶりですか?」


「敵、冷ヤス。。。暑イ、嫌イ。。。」


「問答は無用、ということですか。。。仕方ありませんね」


「姉上や、愚かにも敵はソヤツ冬将軍ただ一人。妾も手を貸そうぞ♪」


「いいえ夏将軍。この戦は冬と春が雌雄を決する師走の陣、余計な手出しは無用です!

 。。。では冬将軍、いざ尋常に参ります!!!」


「チッ!。。。温い事を」





 勢い凄まじき冬将軍の優位かと思われた一騎討ちは、終わってみれば終始春将軍の圧倒であった。春の嵐、冬将軍の勢いを逆手に取ったその策たるや、見事の一言に尽きる。




「降り注ぐ小春の光、サンシャイン小春インフェルノ日和!」



「グオォォォォォォォォォォォォォォ!」



「此処までの様ですね、冬将軍。

 この冬は私達緋軍の勝利、とさせて頂きます」


「無様♪寒冷なる弟のなんと無様な事か♪

 姉上。このまま冬将軍そやつの息根、止めてしまいなされ♪」


「いいえ夏将軍、それは止めておきましょう」


「姉上?何を言うておるのじゃ。。。?まさかとは思うが、ここまで追い詰めてなお。。。敵に情けでも掛ける腹積もりか!!!!!!!!」


「これでも私は温暖派の一翼。好機とあれば、そうします。。。でもね夏将軍?あまり目先のに熱を上げ過ぎると、簡単に足元を冷やされますよ?」




 陣営の勝利小春の日和に湧き立っていた緋軍。しかしその足元へ、静かな凍気が流れ込んでいた事に気付いたのは、春将軍ただ一人だけである。




「な!?これは。。。末端冷え性!?

 おのれーーーー、秋将軍!貴様の仕業か!!!!!」


「いやはや、我が逆転の一手をも見破られるとは。。。今年は完敗です。春将軍殿」


「お久しゅうございます、秋将軍殿。

 今年は偶々此方に運が味方しただけ、もしあのまま誘い込まれていたとすれば、結果は逆のものへとなっていた事でしょう」


「ハハハ、ご謙遜を。

 此方も我が弟が、もうしばし辛抱強ければと言いたい所ですが。

 所詮は敗者の弁。一騎討ちにすら破れた我が方は、完敗以外にありませんよ」




 僅かに流れる沈黙の後、春、秋の両将軍は見つめ合う互いの視線を斬る様に踵を返す。




「蒼軍撤退です」


「緋軍も一度引きます。秋将軍殿、私達は緩やかに北上します故。御ゆるりと。。。」


「御好意、ありがたく。それでは春将軍殿。また、立夏の頃に。。。」




 例年であれば戦は終わり、暖冬となった今年はゆっくりと温暖前線が北上していく手筈である。そう。。。例年、ならば。




「フフフ、ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ♪ハハハハハハハハハハハハハハハハハ。。。」


「夏将軍?どうしッ、カハッ!。。。何、故。。。。。。?」




 突如、笑い声を上げた夏将軍の狂刃が春将軍を貫き、




「春殿!!!!!!ウッ!!!ガハッ。。。弟、ょ。。。なに、を。。。」




 その光景に叫びを上げた秋将軍もまた、弟であるはずの冬将軍の一太刀に斬り捨てられる。




「フフフフフ、姉上?

 温い温いと思うておったが、よもや敵に恋焦がれておったとはの?アー愉快愉快、ハハハハハハハ。。。


 笑い過ぎて片腹痛いわ、この裏切り者めが!!!!!!!ハァ、ハァ、ハァ。。。


 して、冬将軍よ。貴様の方は、一体どの様な腹積もりかや?」



「フン、決まっているでしょう?

 ワタシも小賢しく両陣営が、本気で潰し合わぬ様にチマチマと策を弄していた賢兄を消す機会を伺っていたまで。

 ですが、あの油断も隙もない我が兄が。。。まさかこんな、ククク、クククククク。。。おや?兄上、どうされたのですか?そんなに驚いた様なお顔をなさって?


 まさか、兄上様程に賢いお方の弟が。あの様な片言のバーサーカー狂人であると、本気で信じていたわけではありませんよね?♪」



「フン、喰えぬ男め。。。」

「そちらこそ。。。」




 兄と姉、互いの抑止を斬り捨てた二人を隔てるモノなど当に無く。




「妾は夏将軍。摂氏50度の美貌を以って、この世の総てをかす者!」


「我コソハ冬将軍。世界ヲ白ク塗リ潰シ、コノ世二終焉ヲモタラス者!」




 寒と暖、両軍何方か最後の一兵卒までを皆殺すまで、もはや戦は終わりはしない。。。




「秋。。。様。。」

「春、殿。。。」




 四季折々。共に手をとり、共に歩む事を夢見た二人の穏やかな季節は、激しさと目まぐるしさを増した師走の寒暖の嵐に散った。。。

 赤く染まった雪の下、漸く結ばれた二人の顔は安らかに。夏と冬、この世の覇権をいずれの季節が握るかは、誰も知らない。





「ウールウルウル。。。ウールウルウル」


「ちょっとウーちゃん?あんまりウルウルしないでくれる?湿気が鬱陶しい」


「だってだって、サーちゃん!あの二人が可哀想過ぎて。。。ウールウルウル、ウールウルウル」


「フン、くだらない。。。どっち付かずの中途半端にぬるい季節してるから、ああなるのよ。この世界はね、穏やかな過ごしやすい季節から死んで行くのよ!バッカみたい」


「サーちゃんは、ちょっとドライ過ぎない?ウールウルウル、ウールウルウル」



「うるさいわね!どうでも良いでしょ、そんな事!!!大体アンタの方こそウエット過ぎなのよ!まったく。。。


 それより、そろそろ準備なさい?♪

 寒暖どっちも良い感じに潰し合ったら、皆纏めて呑み込むわよ?


 そして世界に知らしめてあげるの!


 この世の季節を支配するのは私達、雨季ウルル乾季サララだってことをね♪」





 そう、誰も知らない。。。




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