落語 運命

紫 李鳥

落語 運命

 


 えー、秋風亭流暢しゅうふうていりゅうちょうと申します。


 一席、お付き合いを願いますが。


 ここで、いつもの小話を一つ。


 おう、このイチゴはハウスもんだな?


 イエす!


 えー、即興だったもんで、ま、ご勘弁を願いまして。


 本日は、『落語 三日坊主』に登場した金太の話なんですがね。


 どれ、ちっとは反省してっかな?




「おーい、へたくそども。独楽こまぶっつけて、イテテテって、膝っ小僧さすってねぇで、しりとりやろうぜ」


「いいよ」

「いいぜ」

「やろう、やろう」


「じゃ、まず、おいらからいくぜ。おめぇらの顔にちなんで、ゴリラ」


「ラ……ラ……ラ」


「なんだよ、ラの付くのなんかいっぺぇあんじゃんかよ」


「……ラ……ラッキョ」


「なんだよ、ラッキョって」


「食うやつだよ」


「それを言うなら、ラッキョウだろ? ウが付くんだよ。ったく、そんなことも知らねぇのかよ。次、ウ」


「ウ……ウ……」


「ウの付くのなんて山ほどあんじゃねぇかよ」


「ウ……、ウメシュウ」


「なんだよ、ウメシュウって」


「飲むやつだよ」


「ばーか。ウメシュだろ? なんでもウを付けりゃいいってもんじゃねぇんだよ。次、ウメシュのユ」


「ユ……ユ……」


「ユの付くのなんか腐るほどあんじゃねぇかよ」


「ユ……ユ……、ユタンポン」


「なんだよ、ユタンポンて」


「あったけぇやつ」


「おめぇが言いてぇのは、ユタンポだろ? ンが付いたら、おしまいじゃねぇか。ったく、ものを知らねぇな。次はおいらか。ポね? ポジティブにでもしとくか」


「なんだよ、その、ポジなんとかって」


「ポジティブだよ。前向きとか積極的って意味だ」


「金太のはむずかしすぎるよ」

「むずかしすぎる」

「そうだ、そうだ」


「おめぇらが言葉を知らなさすぎんだよ、ったく。じゃ、簡単なので、ポリス」


「スか? ……」


「スなんか、そのへんにいっぺぇ飛んでんじゃんか」


「……スズメ」


「はい、次、メ」


「……メか?」


「メなんて、目の前にあんじゃん」


「……メダマ」


「はい、次、マ」


「マか……」


「マなんて、そのへんにいっぺぇ立ってんじゃんか」


「あっ、マツ」


「ったく。なんで、おいらがヒントをやんなきゃいけねぇんだよ。ツだな? ツクシ」


「……シか?」


「もう答え言ってんじゃん」


「ん? シか? ……シカ」


「はい、次、カ」


「カか? ……」


「カカに一つ加えたらできんじゃんよ」


「ん? カカ……カカシ」


「はい、次、シ」


「シか?」


「シカはさっき言ったかんな。それに一つ加えたらできんじゃんよ」


「シカ……シカ……シカイ」


「イな? イナリ。はい、次、リ」


「リか? ……リカ」


「飲み込みが早いじゃんか。次、カ」


「カか? ……」


「同じ答えはだめだかんな」


「カカ、カカ……カカト」


「みんな、だいぶ、コツをつかんできたじゃんか。しりとりはスピーディーじゃねぇと面白くねぇからな。次、ト」


「トか? ……トカ……トカイ」


「みんな、要領をつかんできたじゃんよ。イね? イネじゃ、おめぇらと同じレベルだしな。それじゃつまんねぇから、イソップにでもしとくか。イソップのプ」


「プね? プか? ……プ、プ、プ」


「ったく。この際だから、はっきり言わせてもらうよ。おっ母にきつく言われてっから、罵詈雑言ばりぞうごんは控えるが、おめぇらのボキャブラリーの貧困さにはがっかりするぜ。おめぇらとしりとりしてもちっとも面白くねぇや。おめぇらには所詮しょせん、かくれんぼとか鬼ごっこがお似合いだよ。ばーか」


「ゥェーン」

「ゥエーン」

「ウエーン」


「すぐ泣きやがんの。ばーか」




「金太。おめぇ、近所の子を三人まとめていじめたな」


 赤ん坊をおんぶした母ちゃんが、豆腐を切りながら、金太を叱りつけた。


「いじめてなんかいないさ。ボキャブラリーが貧困だから、ののしったまでだい」


「何が、ボキャブラリーだい。ボケブラリひとり旅みたいな顔して。仲良くしないと、近所に嫌われて、大工の父ちゃんの収入が減る可能性があるんだよ。慎重に頼むよ」


「……わかったよ。収入が減るのは困るからな」


 名前が金太だけに、お金系には敏感みてぇだ。


 これで、ちっとはおとなしくなるだろうと思いきや。




「おーい、へたくそども。竹馬から落っこちて、イテテテって、ケツさすってねぇで、なぞなぞやろうぜ」


「ヤだね。金太のはむずかしくって、チンプンカンプンだもん」


 パカッパカッ(竹馬の音)


「おめぇらのレベルに合わすっから危惧すんなって」


「……なんだよ、キグって」


「心配すんなって意味だよ」


「ホントだな?」


「ああ」


「じゃ、やるか」

「なら、やっか」

「やろ、やろ」


「じゃ、いくぜ。まず、簡単なのから。【みんなから笑われる、耳の白いネコのしっぽは何色だ?】」


「?」

「……?」

「…………?」


「ったく。こんな簡単なのもわかんねぇのかよ。白だろ?」


「なんで?」

「なんでだよ」

「どうして?」


「尾も白い(おもしろい)じゃねぇか」


「あっ、そうか」

「……ぁぁ、なるほど」

「? ……」


「誰か、問題作れんのはいねぇのか?」


「……ぃ」

「……ぅ」

「……ょ」


「無理だろうな。じゃ、またおいらだ。いくぜ。【ベートーベンの職業はなーんだ?】」


「? ……なんだよ、その、ベントーベンて」


「弁当べんじゃねぇよ、ベートーベンだよ。ドイツの作曲家じゃねぇか」


「じゃ、職業は作曲家じゃねぇか」


「ばーか。そんな当たり前の答えじゃ、なぞなぞになんねぇだろ? 誰かわかんねぇのかよ」


「……ゃ」

「……ぉ」

「……ゃ」


「ったく、大工だろ?」


「なんで?」

「なんでだよ」

「どうして?」


「ベートーベンといや、第九(だいく)じゃねぇか」


「?」

「……?」

「…………?」


「あ~あ~あ。もう、ヤだ。張り合いがねぇったらありゃしねぇ。一人としておいらの感性についてこれる奴がいねぇんだもんなぁ。クゥゥ……。これがおいらの運命だ。ジャジャジャジャーン!」





■■■■幕■■■■

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