10話 神官、ファレル⑤+おまけ

 神官の役割というのはてっきり回復や援護だと思っていたので、消散という魔法はあまり想像がつかない。

 どんな魔法なのかと思っていたが、それはすぐに理解できるようになった。


「清らかなる神、地の神、地の精霊よ私にお力を与えてください……」


 ファレルが何やら詠唱を始めるとグラウンドドラゴンの体は段々と黄色い光に包まれていく。そしてその光がある程度広がった後はその体が少しづつ白い光の粒に変わり消えていくという魔法だった。

 要するに倒した獲物の除去作業といったところである。

 この魔法はその獲物が完全に消えるまでの数分間はずっと詠唱を唱えていなければならないらしく、こうやって観察している間にもファレルはずっと詠唱を続けていた。


 エルティナとアキネスはもう少し奥まで探索をして魔動機兵がいないかどうかでも探しに行ったのだろうか。

 とはいえ僕の目から離れるような場所へは決して行かなかったし、ファレルの消散の呪文が終わればすぐにでも帰れるようにはしていたのだと思う。


 段々とグラウンドドラゴンから出る光の粒が多くなりはじめ、消散の呪文もそろそろクライマックスという所で、僕は不審な音がすることに気がついた。

 当然、エルティナやアキネスが何かをしている音ではない。彼女らは見張りを続けているのが僕の目にはしっかりと映っていたからである。

 誰かがこちらへ歩いてくる音だろうか?でも、こんな森の中に来る人間なんていうのはよほどのことがなければないであろう。

 それに、今はファレルが詠唱を続けているためその音もかなり気を遣っていないと聞こえる事すら困難かもしれない。


 ともかく、今は頼れるのは自分だけだと自分が身をひそめていた木のかげからそっと音の鳴る方向を確認してみた。

 何かが、いる。それは、普通の人間よりも一回りくらい大きい、ゴーレムのような姿をしている。

 色は銅のような色をして鈍い輝きを太陽から反射し、継ぎ目のないデザイン。

 目の部分にあたる虚空のようにも見える穴はしっかりとファレルを見つめて逃す気配はない。

 僕は恐怖にも興奮にも似た感情を覚え、そして答えを結論付けた。


「あいつは、恐らく魔動機兵なんじゃないか?」


 確証は持てないが、こんなタイミングでこの場所に現れ、なおかつファレルを狙っているあのゴーレムは行きに聞いた魔動機兵なんじゃないかと思わざるをえなかった。


 そして、その瞬間にそのゴーレムはファレルの方へ突撃してくる。


「危ない!!」


 走る音でファレルは異常にようやく気がついた。しかし、ファレルが振り向くころにはすでにそこまで迫っていたのだ。


 僕は、反射的に走り出している。ずっと休憩していたおかげで体力はそこそこ回復していたみたいだ。

 そして、血の気が引いたかのように固まって動かないファレルを突き飛ばし……魔動機兵の攻撃は僕へと向かってくるのだった_____


=====


【おまけ・登場人物紹介】


アキ:異世界エンジョイ系主人公。現在ランクE。

日本で偶然にも銀行強盗の現場に居合わせてしまい、強盗の銃の威嚇射撃のつもりが結果としてアキを転生させてしまった。

全ての魔法、魔術の値が同値になるという稀な存在らしい。

基本的には自分が面白い、と思った事に率直に行動する。それがどう最強になっていくのかは今後分かることになるだろう。


エルティナ:バリバリの武道家タイプで、現在のランクがSSSと最強クラスである。

パーティのリーダーであり、引っ張っていくタイプの心強いリーダー。

感情が表に出やすく、また無邪気な面もあるため他のメンバーから心配されることも。

肌は褐色で髪の色は明るいオレンジ色。服装で特筆すべきは手袋。右手だけ頑丈な革手袋をしている。


ファレル:神官であり、ランクはSランク。なお、聖職はランクに応じて呼び方が変わることも多い。

回復や能力上昇、倒した敵の消散などサポート役。

人の心を読める能力を持ち、それでいて優しいというまさに聖母。

肌はどちらかというと白に近く、髪の色はエメラルドグリーン。自身は背が低いことがコンプレックスなんだとか。


アキネス:物静かな剣士。現在のランクはSSである。

慎重で現実主義。常に鍛錬を忘れない武士道をしっかりと持っている剣士である。

ただ、エルティナにはからかわれがち。剣の腕は確かである。

肌は黒くならない体質らしく白い。髪の色は薄い青色、糸目である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る