9話 神官、ファレル④

 迫ってくるグラウンドドラゴンに対して先に動いたのはアキネスの方だった。

 先端に突起の付いたモーニングスターのような尻尾を使って攻撃されそうになったが、次の瞬間には胴と尻尾は綺麗に切断されていた。

 居合というやつなのだろうが、正直あまりに早すぎて目で追えない。ていうか、ゆうに直径一メートルはありそうな生物の尻尾を容易く斬ってしまうというのはとてもではないが人間業ではない。


 尻尾を斬られたグラウンドドラゴンは「ぐぁぉぉぉぉぉ!!」というような感じで低く、重い雄叫びをあげる。

 そしてなりふり構わず今度はエルティナの方へと突っ込んでくる。

 彼女は、重力を感じさせないほどの軽い動きで跳躍し、華麗に攻撃をかわす。

 かと思えば、その勢いで近くにあった木に足を付けて今度はグラウンドドラゴンの方へ木を蹴った。

 非常に美しく、素早い動きで跳んで、そしてエルティナの拳がもろにグラウンドドラゴンの脇腹に入りこむ。


「すごいな……」


 思わず声が出てしまうほどの動きだった。もはやエルティナの動きは格闘家のものではない。狩人のそれであった。

 エルティナは重力を掴むかのように危なげなく着地をして、すぐにグラウンドドラゴンの方へと向かった。


 どうやらまだグラウンドドラゴンは生きているらしい。

 とはいっても、さっきの拳の一撃で吹っ飛ばされて倒れてはいるので動けないような気がしなくもないが、確かにとんでもなく頑丈な敵である。

 いや、いくらSSSランクとはいえ拳だけで自身の十倍ほどの大きさの敵を飛ばすってやっぱり強すぎるでしょ。

 いけないいけない、完全に見入ってしまったが彼らの動きをもとに自分のスキルを磨かなければならない……いや、難易度高いってレベルじゃないぞ!?


 それからはもう消化試合のようなもので、エルティナがあと数発も拳を喰らわせたらグラウンドドラゴンはびくとも動かなくなった。


「そういえば、ファレルさんはあの二人に保護呪文をかけたりとかはしたんですか?」


 先ほどから僕と同じようにエルティナとアキネスが戦っているのを見ていただけだったファレルに話しかけてみると、彼女は言った。


「いいえ。保護呪文をかけていたのは私とアキさんの周りだけですよ。エルティナさんたちは素の状態で戦ってましたから」


 まさかのバフなしであそこまで戦っていたのか。

 化け物みたいな強さにもはや笑いがこみあげてくるほどだった。


「私はここからが本番です。あのグラウンドドラゴンはしなければいけないので」


 彼女はグラウンドドラゴンの方に手を掲げて言った。

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