第54話 答え

 「そう。似てるんだよ。だからね、私は二人の考えてることがなんとなくわかっちゃうんだ」


 「俺と美零さんの考えが」


 俺と美零さんが似てる?そんなことがあるわけない。少し不器用だけど、優しくて真面目で、いつも笑顔の美零さんと俺が似てるわけがない。


 「私の言ってることが分からないっていう顔してるね。でもわかるんだよ。私には」


 「そっか。俺の考えが分かるんだね。ならさ、俺がどうして今まで美零さんを避けてきたのかもわかってるってこと」


 「うん」


 「それなら、どうして優佳さんはここに来ちゃったの」


 俺の考えが分かってるなら、優佳さんにはここに来てほしくなかった。もう二度と会いたくなかった。会ってしまったら、前のことを思い出して、また昔みたいに3人で会って話したいと思ってしまう。


 「大翔君は私と美零に会いたくないと思ってるかもしれないけど、それでも私は大翔君に会いたい。会って話をしたいと思った」


 「どうして優佳さんは、そんなに俺と話をしたいと思ったの」


 「簡単なことだよ。私が大翔君と美零のことが大好きだからだよ。」


 俺と美零さんのことが好き?優佳さんの言っていることの意味が分からない。


 優佳さんが美零さんのことを大切に思っていることはよく知ってる。そして、優佳さんも俺が美零さんにしてきたことを知っている。だから優佳さんは、俺のことを恨むことはあっても、好いているはずがない。


 「・・・もしそれが本当だったとして、それと何の関係があるの」


 「関係?そんなの決まってるでしょ。大好きな二人には喧嘩なんてしてほしくない。ずっと一緒にいてほしい。ただ、それだけだよ」


 「別に、喧嘩をしているわけじゃない。美零さんを避けてるのは、俺が美零さんの近くにいるべきじゃない。そう思ったからだよ」


 「近くに、いるべきじゃない?」


 「そうだよ、美零さんだけじゃない。俺は優佳さんの近くにもいるべきじゃない。二人にとって俺は悪影響でしかない」


 「・・・私たちにとって、悪影響?」


 このまま順調にいけば、二人はこれからどんどん活躍して、今よりもっと有名になっていく。


 そうすれば、二人はこれからますます忙しくなっていくだろう。二人の大切な時間を俺なんかに使わせるわけにもいかないし、もし俺と会っているという情報が出回ってしまったら、二人のモデル人生に大きな傷をつけてしまう。


 俺なんかが二人の近くにいても、なにもいいことがない。


 二人に会えないことは辛い。だけど、俺といることで二人の人生を変えてしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。


 「だから、俺は二人ともう二度と会わないと決めた。そして、これからもその決意は変わらない」


 「なに、それ」


 「だから――」


 「ふざけないで!」


 それまで静かに、優しく話ていた優佳さんが突然大きな声を上げた。普段の優佳さんからは想像できない行動に驚きを隠せなかった。それまではどこか優しさを感じていた視線も一変して、冷ややかなものになっていた。


 「私たちに悪影響だからもう二度と会わない?そうやって、どうして勝手に決めつけちゃうの!?」


 「俺だって、、、俺だって!たくさん考えた!どうすればこのまま一緒にいられるのか、二人の邪魔にならないでいられるのかを。たくさん悩んで、考えた。それでも、どうしもなかった。これしか、方法がなかったんだよ」


 今まで誰にも言えずにいたものが流れ出ていく。だけど、一度口を開いてからは止めることができなかった。


 俺が勝手に決めつけた?優佳さんは何もわかってない。俺が今までどれだけ苦しんできたのかを。


 この決断をしたのも簡単じゃなかった。こんなこと、俺だってしたくなかった。だからたくさん考えた。それでも、何も思いつかなかった。どうしようもなかった。


 「方法がなかった?違う。大翔君は初めから間違ってる」


 「間違い?」


 「大翔君は私と美零にとって自分が邪魔だって言ってたけど、私と美零は大翔君のことを邪魔なんて思ったことはない」


 「そんなこと、ない。今まではそうだったとしても、いつか、絶対に俺は二人の邪魔になる」


 「そうやって何もかも決めつけないでって言ってるの!そんなの、自分勝手すぎるよ」


 最後の方は目を潤ませながら話している優佳さんに、何も言い返すことができずにうつむいていると突然、柔らかく温かい何かが手の甲に触れた。


 自分の手に触れているものを確認すると、そこには、すらっとした綺麗な優佳さんの細い指があった。そして、優佳さんはもう一方の腕を伸ばし、こちらの手を包み込んだ。


 優佳さんの意図が分からず、一瞬頭が真っ白になった。だがすぐに気が付いた。優佳さんの手が震えていることに。そして視線を上に移すと、その瞳から涙を流している優佳さんと目が合った。


 「ゆうか、さん?」


 「大翔君」


 名前を呼ばれると同時に、握られた手に少し力が込められた。いつの間にか、手の震えは止まっていた。


 「ねえ、大翔君。君だって本当はわかってるんでしょ?逃げてるだけだって。でも、そんなことはいつまでも続かないよ。いつか答えを出さないといけない時が絶対に来る」


 「・・・答えは、もう出てるよ」


 今まで目をそらし続けていたことを指摘され、自分の答えを伝えたが、その時、優佳さんの目を見ることができなかった。


 「嘘つき。それならどうして大翔君はそんなに悲しそうな顔をしてるの?」


 そんなはずない。俺の答えは変わらない。そう言いたい。いや、言わなければいけない。だが、気が付いてしまった。これ以上自分の心に嘘をつき続けることはできなくなっていると。


 「俺の答えは、もう」


 「もういいんだよ。大翔君。余計なことなんて考えなくていい。だから、君の本当の気持ちを教えて?」


 優佳さんの優しい言葉と、澄んだ瞳で見つめられ、自分の中で何かが切れた気がした。


 自分の心に嘘をつき続けてきた。でも、本当は気付いていた。こんなこと、誰のためにもならないと。


 「……俺は、二人と一緒にいたい……」


 本当の気持ちを言葉にした途端に、今までため込んできたものが一気にあふれ出し、涙が止まらなくなった。


 「うん。よく言えたね」



【あとがき】

 毎回言っている気がしますが、遅れてしまって本当にすいません。あと2週間ほどしたら大学も夏休みに入るので、投稿頻度も少しは安定すると思います。というよりも、絶対に安定させます!


 話の方では、優佳さんが大活躍しています。いつもは飄々としている優佳さんがお姉さんモード全開で、自分が作っといて何ですが、とてもうれしいです(笑)

 

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

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謎の美人高校生?に大きな借りを作りました ヤマダ @__svyamada__

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