第12話 雪

 翌日、検査を受けに行くために先生の所まで藤咲さんに連れて行ってもらった。


 30分ほどで検査が終わった。結果は、今のところ順調に直ってきているらしく、もうすぐリハビリも始められるらしい。部屋に戻ると、お昼の時間がすぐだった。


 持ってきてくれたご飯を1人で食べる。今日も藤咲さんが部屋に来ると思っていたが、今日はご飯を置いて、さっさと仕事に戻ってしまった。


 藤咲さん本当に忙しかったんだな。1人で食べるのはなんか寂しいな。


 ご飯を食べ終わり、スマホをいじっていると突然藤咲さんが部屋に入ってきた。


 「大翔君。今から外行こう」


 「え、どうしたんですか急に」


 いろいろと突然すぎて何が何だかわからない。


 「昨日君がずっと外見てたから、雪遊びしたいのかなーって思って」


 「いや、別に雪遊びしたかったわけじゃないんですけど」


 「え、そうなの」


 「ていうか、俺まだ外出許可出てないんですけど」


 「だから私と行くんだよ」


 「でも今日の藤咲さんすごい忙しそうじゃないですか。そんなことしていいんですか」


 「そうなんだよ!時間を作るために午後の仕事まで頑張ったんだよ」


 「外に出るためですか」


 「うん。ってことで今から行くよー。早く車いす乗って」


 自分のために仕事を頑張ってくれたと思うと素直にうれしい。さすがに断るわけにはいかないな。


 「ありがとうございます」


 「ん?今なんか言った」


 「何にも言ってないですよ」


 「本当かな~」


 小声で言ったから、何と言ったのかまでは聞き取れなかったようだけど、なにかをつぶやいているのは気が付いたらしいな。この状況からなんとなく俺が言ったことを予想したのか、藤咲さんがニヤニヤしてこっちを見てくるのがすごい恥ずかしい。


 言われた通り車いすに乗り、藤咲さんに外まで押して行ってもらう。なんだかんだ言って久しぶりの外は楽しみだ。


 自動ドアを抜け、病院の庭に出ると、まだ少し雪が降っていた。今まで室内にいたせいかとても寒く感じた。


 病院に来たときは綺麗に芝生が生えそろっていたけど、今は、雪で一面真っ白になってる。前も綺麗だったけど、これはこれですごい良な。


 「わあー。すごい綺麗。窓から見るよりずっときれいだね。来てよかったでしょう」


 「すごい綺麗です。東京でもこんなに雪降るんですね」


 「こんなに降るのは珍しいよ。去年は全然積もらなかったし」


 少しの間、2人とも黙って雪を見つめていると、突然藤咲さんが雪を投げてきた。


 「ねえ大翔君。ちょっと雪合戦しようよ」


 「この状態の俺にそんなことできると思いますか。ほとんどいじめですよ。他の看護師に訴えますよ」


 「高校生ならそれくらいできるでしょ。ほら、ほら」


 そういって軽く雪を投げてくる藤咲さんに抵抗できるはずもなく、何発も雪をくらったが、少しづつ雪をつかんで、反撃することができるようになってきた。


 しばらく雪を投げて遊んでいたが、すぐに2人とも疲れてしまった。


 「さすがはサッカー部。その状態でも反撃してくるか―」


 「藤咲さんが軽めにやってくれたからですよ。でも、久しぶりに運動したから結構疲れました」


 「私も久しぶりに運動したな。やっぱりいくつになっても雪遊びはたのしいですなぁ」


 「藤咲さんはまだ全然若いでしょ。何言ってるんですか」


 「20代なんて一瞬で終わるらしいよ。1年1年が大切なんだよ。君も今のうちに10代楽しんどきな」


 「真面目なこと言ってるみたいですけど藤咲さんが言うとなんかふざけてるように聞こえるんですよね」


 俺もそこまで背が高いわけではないけど、それでも見た感じ15センチ以上小さい藤咲さんは、あんまり年上という感じがしない。


 「それは完全に私のこと馬鹿にしてるなー。私は4歳も君より年上だぞ!大先輩だよ」


 「大先輩って、4歳くらい年上なだけで言われても」


 「君は先輩の敬い方が分からないみたいだね。私が教えてあげよう」


 寒空の下、2人で楽しく話をしていると、体がどんどん冷えてきた。そろそろ藤咲さんも仕事に戻らないといけない時間なので、中に戻ろうとする。


 院内に戻る途中、車いすを押してくれていた藤咲さんの足が突然止まった。


 「急に止まって、どうしたんですか」


 「あのさ、柵の外にいるあの女の人って大翔君の彼女さんじゃない」


 藤咲さんの視線の方向へ大翔も目を向けると、そこには確かに美零さんがいた。


 「偉いねー。毎日彼氏のお見舞いに来るなんて。しかもこんな雪の日に」


 「だから彼女じゃないって言ってますよね」


 「そっかー。まだ付き合ってないのか。なら先輩に任せなさい」


 藤咲さんはスマホを取り出し、少し離れて電話をしているふりをしだした。嫌な予感しかしない。


 「何やってるんですか。藤咲さん!美零さんもう入ってきますよ」


 「いいからいいから。私に任せて」


 とうとう美零さんが中に入ってきた。すると、すぐに気が付いた美零さんはこちらに近づいてきた。


 え、本当に何がしたいの藤咲さんは!?もう美零さんすぐそこまで来てるよ。

全く藤咲さんの考えが分からない。


 「え!?今からですか。え、でも、今患者さんといてすぐには・・・あ!」


 急に変なことを言い出した藤咲さんに驚いていていると、藤咲さんが美零さんを見て突然駆け寄って行った。


 「あの、毎日大翔君のお見舞い来てますよね。私は大翔君の担当の看護師の藤咲といいます」


 「は、はい。天音美零です」


 「さっき、急に先生に呼び出されちゃったんですけど、もしよかったら大翔君を部屋まで連れて行ってもらえますか」


 「わかりました。私でよければいいですよ」


 「ありがとうございます。じゃあ彼氏さんをお願いします」


 「「え!?」」


 そういって藤咲さんはどこかへ走って行った。すれ違いざま、ウインクをしてきたのがすごいむかつく。


 残された2人は何が何だかわからず、ポカンとしてしいた。


 「あ、あの、大翔君。とりあえず中入ろうか。」


 「あの、なんかすいません。何回も言ってるんだけど、あの人全く話を聞かなくて」


 「ううん。いいよ気にしないで。楽しそうな看護師さんだね」


 なにか勘違いをしている藤咲さんに、今度真剣に美零さんとは特別な関係ではないということを叩き込まなければいけないと思った。



【あとがき】

2話連続藤咲さんがメインなんですが、最初は1話で終わらせる気だったのにおもったよりも長くなりました。次回からは大翔と美零がメインになります。

コメント、フォロー待ってます。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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