怪しいぞ! 貴様、よもや桃太郎ではあるまいな?

ちびまるフォイ

ボス! しっかり取り締まっておきやした!

「待て待て! そこの者! 待てぃ!」


「はあ、私でしょうか」


「そうだお前だ。今鬼ヶ島では検問をやっている。

 勝手に鬼ヶ島に入ることはできない」


「検問?」


「今、ボス鬼は人間に化けて里へのスパイしにいっている。

 ボス鬼が鬼ヶ島を留守にしているのを狙って

 変な輩が攻め入るとも限らんから検問しているのだ」


鬼はじろりと男を見た。


「お前は桃太郎か?」


「いいえ違います」


「本当だな」

「本当です」


「では、なぜ腰に刀を差している?」


鬼は男の腰にある二本の刀を指差した。

男は急にあわあわと焦り始める。


「こ、これは……こういうファッションです」


「そんなわけあるかーー!!」


鬼たちは鬼ヶ島に入ろうとした船を沈めた。

鬼ヶ島の検問は物語で最も厳しいとされている。


しばらくして、また別の男が鬼ヶ島へ船を近づけてきた。


「待たれぃ! 貴様、いったい何者だ!!」


「へぇ、ただの観光客です」


「鬼ヶ島はそういう場所ではない。貴様怪しいな。

 今は検問中だ。刀は持っていないか?」


「刀? そんなのあるわけないでしょう」


「……ふむ、危険物の持ち込みはないようだな」


男は完全なる丸腰。

念の為ボディーチェックもしたが武器のたぐいはなかった。


「それじゃ、問題ないなら鬼ヶ島へ入らせてもらいますね」


「待て待て待て!!! 船にいる動物はなんだ!

 イヌ、猿、キジの3匹がいるじゃないか!!」


「これは……」


「答えろ! よもや、そのお供をけしかけて鬼を成敗するつもりじゃなかろうな!?」


「これは……献上品です」


「献じょ……ええっ!?」


「鬼ヶ島の鬼は動物の肉が好きと聞きましたので、

 きびだんごでまるまる太らせたいい動物を連れてまいりました。

 きっと気にいるかと思います」


「お、おう……」


キジはともかく、イヌと猿はどうなのか。

とはいえ鬼ヶ島にいる鬼も食生活はまちまち。

中にはごちそうと思っている鬼がいるかもしれない。


「鬼さん? もう通ってもいいですか?

 早くこの動物がやせ衰えないうちにお届けしたいんですが」


「……う、うーーん」


「じゃあ通りしますね」


「ま、待て!! 貴様、ちゃんと通行手形はあるんだろうな!?」


「あ、すみません、通行手形ですか。それは忘れました。

 ですがちゃんと中の鬼には予約していますし大丈夫ですよ」


鬼はにやりと笑った。


「ばかめ。通行手形なぞない。おい! こいつをひっとらえろーー!!」


ギリギリのところで鬼ヶ島への侵入を防ぐことができた。

この厳しさが鬼ヶ島の平穏を守り続けている。


3隻目の船がやってくるのが見えると鬼はふたたび気を引き締めた。


「待て!! 今、鬼ヶ島では検問をしている。

 危険物は持っていないだろうな」


「当然だろう」


「念のため、ボディーチェックをする」


鬼は念入りなボディーチェックをしたが何も怪しいものはなかった。


「ようし。危険物は持っていないようだな」


「ああ」


「とかいって、実はお供を連れているとかじゃないだろうな!!」


鬼は船に隠せそうな場所を洗いざらい調べ尽くした。

しかし、お供らしきものはどこにも隠れていなかった。


「お供もないようだな」


「その通り。武器も、お供も私は持っていない」


「……なにか怪しいな」


ここまでスムーズにことが運びすぎることに鬼は違和感を感じた。


「お前、"通行手形"はもちろん持っているんだろうな」


「通行手形? そんなもの聞いたことがないぞ」


「……チッ」


鬼ヶ島の内情も深く理解しているようだ。

かまをかけてみたが効果はなかった。

それでも違和感は拭いきれない。


「もういいだろ。通らせてもらうぞ」


「待て。貴様は武器もなく、お供もいなく、まして積荷もない。そうだろ?」


「ああそうだ。危険物もないし、この船には私だけだし、他に何も積んでいない」


「そうか……」


鬼はすうと息をすって鬼ヶ島中に聞こえるような声で叫んだ。



「それじゃ鬼ヶ島に何しにきたんだ! この怪しい奴めーーーー!!!」



こうしてボス鬼の船は沈められた。

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