曖昧トーク

かーぼん

プロローグ  思い出


曖昧な記憶を、鮮明に覚えている。


とても幼く、まだ戦隊モノが好きだったころ、町が見渡せる公園のベンチで僕は泣いていた。迷子になったのか、それとも宝物を失くしたのか、何で泣いていたのかは思い出せない。だけど、少なくとも悲しくて泣いていたことだけは覚えている。

そんな僕のもとに、大人の人が近づいてきて、声をかけてきた。


「          」

不思議と恐怖心はなく、その人の言葉がスッと、自分の中に入ってきた。ただ、何と言ったのか、どんな人だったのか、一番肝心な部分はモヤがかかったようにいつも思い出せない。そしてその人は、頭をくしゃくしゃっと撫でた後、僕に紙パックのジュースを渡して去っていくのだ。


なんてことはない出来事だけど、下手したら、散歩途中だったおじさんの気まぐれかもしれないけれど、それでも僕は、子供ながらに、この世も捨てたもんじゃないなぁだなんて、大それた事を思ったのだ。そして、辛いことがあった時には、その曖昧な記憶に何度か救われもした。


そんな、


曖昧な記憶のお守りを

忘れることのない思い出を


それでも時間が経つにつれ


次第に僕は、思い出すことを忘れてしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

曖昧トーク かーぼん @nigorihonoka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ