第5話

 タッパーから掬い取った糞便を舌の上で転がす。

 充分解凍された便は舌に触れるとじわっと融解を始めた。

 臭気が鼻を抜け、苦みと辛さが広がる。

 歯ごたえも申し分なかった。

 まるで今さっき出されたもののようだ。

 喉を落ちて行くのを確かめながら尾藤悠馬は再びスプーンでそれを掬い取り、口へ運んだ。

『………死亡したのは記者の森田和博さん、三八歳。駅から飛び出して来たところをトラックに―――』

 悠馬はテレビの音量を下げ、鳴っている自分のスマホを取り上げた。

「……はい、悠馬です。あ、お疲れ様です。……はい。……はい。いえ、今日は一日家に居ましたけど……えぇ……えぇ……はい。大丈夫です。……明日は十時ですね。はい了解です。はい……はい……」



 糞塊を転がす虫。

 復活と再生の象徴。

 ふんころがし。

 




OWARIおわり

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ふんころがしは忙しい 諸星モヨヨ @Myoyo_Moroboshi339

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