【外出自粛の街で#1】渋谷・原宿 4月12日20時~21時

すでおに

2020年4月12日20時~21時 渋谷・原宿

 ニュース番組で流れていた通り、渋谷の駅前に人影はまばらだった。人っ子一人いないわけではないが、スクランブル交差点の信号が青に変わっても、渡る人は十人いるかいないか。


 センター街で見られるのは、うちの店は開いていますよと誘う居酒屋だか相席屋だかの客引きと数える程度の歩行者、それに黒い大型バッグを背負った配達員がちらほら。人気のない通りに、ビルに設置された大型モニターから外出自粛を呼びかける都知事の動画が流れていた。


 多くの店は閉まっていたが、照明や看板は点灯したままのものも多く、街灯もあるから闇が包んでいるわけではなく、ただそこに人がいない。マクドナルドも閉まっていた。


 ぽつぽつと傘のいらない程度に雨の降る4月の日曜夜8時の渋谷。



 そこから明治通りを原宿まで歩いた。原宿に到着するまですれ違った歩行者は2、3人。がらんとしている。日曜の夜にこの通りを歩くことはたぶん初めてだから比べられないけれど、普段の姿ではないだろう。


 山手線は走っているし、明治通りも交通量は少ないながらもタクシーを中心に行き交っている。日常でも深夜早朝なら人気も減るだろうし、渋谷原宿であっても静かな顔も持っているだろうから、現実味を欠いているというほどではないが、まるで明けないまま夜がずっと続いているようだった。今は32時か33時、深夜8時、深夜9時。そんな感覚に陥った。

 

 原宿にもほとんど人がいなかった。表参道もしんとしている。表参道で感じる孤独は一人でいたせいではなく、地下鉄の駅へ降りる階段も誰も歩いていない。


 普段の日曜夜9時の竹下通りを知らないけれど、そこは自分の知る竹下通りではなかった。古着屋も雑貨屋もクレープ屋も権利関係の危うそうな店もほとんどが閉まっている。いわくつきの客引きもいない。シャッターの降りた店が多く、通りは薄暗くて、繁栄の途絶えた廃墟のようだった。夏場なら肝試しに使えそうなほどに。普段の賑わいとの隔たりが余計にそう感じさせた。


 緊急事態宣言から5日目、初めての日曜の夜。

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