第6話 料理人ともう一人

 次に俺がやるべきこと。

 三人と出会い、街の中を散策してやるべきことがいくつか見つかった。


 1、彼らの首輪の破壊方法


 これは単純に一緒に歩く彼らが首輪を付けているのはかわいそうだと思ったからだ。

 そして俺の今後の計画においてこれは必要不可欠だ。


 2.完全回復薬フルポーションの材料を仕入れること


 思いのほかこの数日で使ってしまったためさらに作る必要が出てきてしまった。

 そのためにも再び王都に行かなくてはならない。


 そしてさっき出来たばっかである

 3.料理人の調達


 ・・・俺が悪いのか? 確かに彼らには何不自由ない暮らしをしてほしいと強く願っているから要望には応えるが・・・。俺はこの生活が駄目だと思ったことがなかったから意外だった。



 そんなこんなで再び王都に行くことになったのだが、なんせここからは馬車で3日、往復で1週間も家を空けることになるのはちょっとなと思い何か策はないかとアイナに聞いてみたところ、


「私がエルフの国にいた時に私の相棒だったドラゴンがいるのですが・・・。もしかしたら呼びかけに応じてくれるかもしれません」


 というもんだから一緒に外に出て呼んでもらった。

 彼女が首から下げていた角でできた笛のようなものを吹くのが合図のようで、ピーという甲高い音が森の中に響いた。


「・・・やっぱり無理のようですね。期待させてごめんなさい」

「そうか・・。っておい、あれ違うのか?」

「え、あ! ド、ドラグ!!!」

「グォアアアア!!」


 こんな感じの事があって今俺はドラゴンの上にいる。

 護衛にはもちろんアイナについてもらってそれ以外の二人はお留守番という形だ。


「それにしてもすごいなドラゴンか・・・」

「普通人間は乗せないようですから新鮮かもしれませんね」

「こいつは嫌々ながらもアイナのために乗っけてやるって感じだったけどな。最初抵抗されたし」


 さっき乗ろうとしたとき、吠えて威嚇されたのが若干のトラウマになっている。

 まじで怖かった。


「ふふっ、でも今こうして乗せてくれてるってことはそれなりに信用はしてくれたと思いますよ」

「だといいけど・・。てっ早! もう王都じゃん!!」

「ただどうしましょう・・・さすがにドラグごと王都に降りたら悪目立ちしてしまいますよね」


「いや、それなら大丈夫だ。さっき連絡したから。もうちょい先のあの建物まで行ってくれ。そこで降りる許可をもらっている」

「わかりました。ドラグ、よろしく」

「グォオオ!」


 久しぶりにご主人と会えたのがうれしいようではしゃぎまくってるドラゴンのドラグ。

 信頼関係って大事だなと感じながらゲルグさんが用意してくれた建物の屋上目指して俺らは空を駆けぬけた。


 *****


「場所を提供してくれてありがとうございます」

「いえいえ、まさかドラゴンに乗ってくるとは・・・。それで今日は何をしに?」


「ゲルグさんにはこの紙に書いてあるものを集めて俺に売ってほしいんです。全部完全回復薬の材料ですのでお金はいくらでも出します。あとアイナ、申し訳ないけどいったんドラグとは別れてくれ。多分一日じゃ終わらないから」


「かしこまりました! ドラグありがとうね。また呼んだ時はお願い」

「グォオオ!」


 アイナがそう告げるとドラグはその大きな翼をはためかせて飛び去って行った。


「なるほど、これが完全回復薬の材料なんですね・・・」

「これでもまだ半分ですけど、他のは家にあるので」

「これで半分!? ・・・わかりました、用意出来次第連絡します」


「よろしくお願いします。よし、じゃあ俺らはとりあえず宿探すか」


 こうして再び王都に戻ってきたのであった。


 *******


 王都に来てから4日が経過し、宿でダラダラしていると俺の通話式魔法具がやかましくなった。


「はい、フィセルです」

「フィセル様ですか? あなたの注文通りのものが入りました」

「・・・わかりました今から向かいます」


 そういって通話を切る。


「ゲルグという人からですか?」

「いや、違う。もう一つのほうだ。アイナには嫌な場所かもしれないけど・・・」

「いえ、ご主人を守るためなら全然大丈夫です。任せてください」

「じゃあこれを」


 そういってアイナに深いフードのついた衣服を渡す。

 これは周りの人たちがエルフを護衛にする時に着させる服だ。


「よっと、はい、大丈夫です!」

「よし、行こう」


 こうして俺は3度目のエルフ競売へと向かった。



 *****


 もう覚えてしまった道を通ってエルフ競売へと向かう。

 アイナは途中に従者を待機させる場所があるからそこにおいて俺だけ中に入りまた札をもらう。

 なんかなれてきてしまっている自分が怖いがそれでも中へと進んでいく。

 いつものような熱気と歓声に包まれながらもステージがよく見えるところへと進んでいき、競売に混ざっていく。


 どんどんエルフが売られていく中で俺は目当てのエルフが来るまで待っていた。

 待っているはずだった。


「じゃあ次のエルフです! このエルフは諜報技術に優れておりエルフの国でも重宝されていたようでこの国で奴隷になった後も人間のもとについてそれはもういろんなことをしてきました。ですがつい先日潜伏中に仲間に裏切られて潜伏先の者にバレて凌辱の限りを尽くされたのち呪いまでかけられてしまったかわいそうなエルフです。その呪いはどんなものかは知らされておりませんが彼女を苦しめているのは確かです。それに様々な病気ももらっているみたいですしね。それでは行きましょう、お楽しみの競売の時間です。500万から!」


「1000万」


「はい1000万ってえええ! ま、またあなたですか・・・。その、あなたは・・・」

「大丈夫だ、ちゃんとそっちも」


「・・・ほかに、他にいらっしゃいませんか!? それでは70番様の落札です」


 完全に無意識だったが、おれはまた苦しんでいるエルフを見て衝動的に札を上げてしまった。

 そんな俺をステージ上の彼女はにらみつけるような、そんな目で見つめていた。




 ******


 そのあと、舌を切られてしまった壮年の料理人の男性を1500万で雇ってから行きに使った建物の屋上へと向かった。

 俺の後ろには無表情の男女のエルフ、そしてアイナがいる。


「アイナ、ドラグに4人乗るかな?」

「行けると思いますよ! 多少スピードは落ちるでしょうけど。それよりゲルグさんに頼んでいたものは集まりましたか?」

「うん。さっき会った時に全部買い取って王都で買ったたくさんの食材と一緒に送ってもらったから大丈夫。・・・家に着くのは3日後だろうけど」

「そうですか。ではいきますね」


 こうして俺ら4人はドラグの背に乗って家へと向かった。

 この間も舌を切られているから喋れない男性はまだしも、呪いにかけられている女性は一言もしゃべらなかった。

 それにどっちにも共通して言えることだが俺の事を心の底から憎んでいるような、そんな目でずっと見られている。


 首輪がなかったら今すぐにでも殺してやると言いたげな目。

 俺の事を、世界を、人間を、神を恨んでいるような、そんな目だ。


 人間ごときが同情するな偽善者が。と目で俺に訴えかけてくる。



「・・・これは大変だなぁ」


 そう呟いた俺の小言は風にのって飛んで行った。

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