第5話 双子のエルフ②

 結局あの後、目の見えない二人を宿まで連れていくことが不可能だと判断した俺は、ゲルグさんの部下の人に連絡を取って宿まで送ってもらうことにした。


 その後二人のために宿を取ろうかとも思ったが、やはり早いほうがいいと判断して4人で実家に戻ることにしてその足で宿を引き払って馬車を買い、乗り込んだ。


 実家に帰らないと完全回復薬フルポーションがないからだ。


 また、道中に襲われる可能性がないこともなかったが家が特定されるのも嫌だしなによりヴェルが、


「大丈夫です。私はおそらくご主人の100倍は強いので」


 という心強い発言をしてくれたのでそれを信じることにした。

 彼女が強いのか俺が弱すぎるのかわからない発言だったけど。

 いや、両方か・・・。


 まあそんなことは置いといて今俺たち4人は馬車の中にいる。



「あ、あの・・・本当にありがとうございます・・・」


 馬車の中の沈黙を破って妹のほうが口を開く。

 残念惜しい、ちょうど180°逆だ。


「こっちだこっち。見えなくて不便だろうから仕方がないけど」


「ひゃあ! ご、ごめんなさい・・・。では改めまして本当にありがとうございます」


「俺からもお礼を言わせていただきます。不良品の身ではありますが、我慢することには自信があります。どうぞなんなりと。ですので・・・無理を承知でお願いです。どうか妹にふるう分の拳もどうか俺に・・・」


 え、と思いヴェルの方を見る。

 馬を操縦するヴェルは仕方がないですと言わんばかりの顔をしている。


「大丈夫、俺は君たちにひどいことをする気はない」


「じゃあなんで俺らみたいな欠陥品を・・・?」


「それはご主人様の家に着いたら分かることです」


「も、もう一人いたのか・・・。まて、この感じ。君もエルフか?」


「・・・首輪で魔法が制限されている中でよくそこまでわかりますね・・。単純にすごいと思います」


「そうだよ、俺らはすごかったんだ・・・。あの日までは・・・」

「兄さん・・・」


 ここで魔法薬について話す気にはなれなかった。

 単純にゲルグさんの言う通り、いつ襲われるか、誰が敵か、どこに潜んでいるかわからなくて怖かったからだ。


 こうして暗い雰囲気のまま3日が経過しついに我が家に到着したのであった。


 *****


 家に着くや否や俺は自分の机に向かって鍵を開け二つの瓶を取り出す。


 かつて中級回復薬セミポーションやらで稼いだ金のおかげで我が家はそこそこでかい。

 といっても林の中に土地を買ってでかい家を建てたから周りに近隣住民はおらずド田舎の木々に囲まれてぽつんと一軒だけ家がある感じだ。

 集中するためにも、そして盗難にもおびえなくて済むためにもこちらのほうが都合がよかった。


「ここがご主人様の家・・・?」

「いいよ入って。君たち二人は気を付けて。そこ段差あるから」


 目の見えない二人を介助しながらなんとか部屋に上がり込む。

 するとリビングの扉を開けた瞬間一匹の猫が俺めがけて飛び込んできた。

 あぁ、まじで可愛いいいいい。


「ね、猫!?」

 ヴェルが驚いた様子で俺が手に抱えている我が愛しの『たま』に近づく。

 恐る恐るたまに手を伸ばそうとしたがたまにそっぽ向かれてしまい手を引っ込めてしまった。


「どうだかわいいだろう。たまも君と同じように回復薬で治してあげたらなついてくれたんだ」


 たまの存在は俺に癒しを与えてくれるしそのおかげで回復薬ができたといっても過言ではない。

 俺が家にうかつに青玉を置けない理由にもなっているが。


「いやいやそれどころじゃない、ヴェルはこの二人を見てて」

「かしこまりました」


 そしてたまに夢中になっていた俺はリビングで呆然と立ち尽くす二人を忘れていた。

 すぐに二階の部屋へと戻って机の引き出しから二つの瓶を取り出す。どっちも完全回復薬だ。


 そして後ろのクローゼットからは紐を。

 これはこの前のヴェルの時で懲りたからである。


 俺は紐と瓶をもって一階におり、目のあたりを包帯でぐるぐる巻きにされている二人の前に立つ。

 二人とももう何もわからず兄妹で抱き合うしかないと言った感じだ。


「いまから君たちの目を治す。痛いけど我慢してくれ」


「え・・・? どどういうこと?」


「困惑するのも無理はない。それに目も見えてないのなら怪しさ満点だしな。でも俺を信じてくれ」


「信じるも何も俺たちは逆らう権利がありません。お好きなようにしてください」


「わかりました。やってください」


 妹の方が兄をぎゅっと強くつかむ。

 この二人全然信じてないな・・・。

 でも無理はない、だって俺が逆の立場ならそんな急に目を治すなんて言われても「何言ってんだこいつ?」って思うだろうし。


「じゃあまずこれで・・・ヴェル、妹の方は任せた」


「ちょっ、え? な、なにを」


「ちょっとおとなしくしていてください。辛いのは一瞬ですので」


「きゃあ! な、何するんですか!?」


「こうするんだ」


 紐で二人の腕と足をを縛ったのち目に巻き付けられている包帯に手を伸ばして、巻き取る。


「・・・これはひどい」


 包帯の下にあったのは。両目を横一文字で切られてしまっている傷跡だった。

 まず目以外の傷のところは薄めた完全回復薬を塗ってあげる。

 その傷はどんどん治っていき、やがて気にならないほどになった。


「問題は眼そのものだな。痛いけど我慢しろよ」


 そういって親指と人差し指で兄の目を開いて一滴、目薬のように垂らす。

 暴れる前に急いでもう一滴、逆の目に。


「な、がぁあああああああああああああああああああ!!!」


「に、兄さん!? 兄さんにいったい何を!?」


「次は君だ」


「きゃぁああ! いやぁああああああ!!!」


 こうして妹の方にも同じことを繰り返す。

 そしてそこからは俺とヴェルで暴れる彼らを抑えることに徹する。


 大体5分くらい経過しただろうか、次第に抵抗は小さくなっていき、やがて眠りに落ちる。

 騎士というだけあっておそらく紐で縛ってなければ俺が殺されていたに違いない。

 あいも変わらず俺の体はボロボロだ。


「お疲れ様です、フィセル様」

「ありがとうヴェル。彼らを寝室に運ぶから手伝ってくれ」

「かしこまりました」


 こうして2回目の回復薬による治療が終わったのであった。



 *******


 どんがらがっしゃーーん!!


 そんな盛大な音とともに今日は朝を迎えた。

 間違っても俺が掛けた目覚まし時計の音ではない。


 何があったのかとおもい一階へと降りていき、昨日彼らを寝かせた寝室へと入る。

 そこには驚いて飛び起きたであろう、二人の美男美女が顔を青ざめてこちらを見ていた。


「お目覚めかな? 気分はどう?」


「あ、あなたは一体・・・。どうして私たちの目が見えているの?」


「俺特製の回復薬を君たちに使ったからね。ちゃんと見えているようでよかった」


「回復薬・・・? そんなもので俺らの目が・・・。ほ、本当にありがとうございます。双子でそろって買っていただいただけじゃなくまさか目まで・・・」


「ありがとう・・・ございます・・・」


「そんなに泣いたら治りたての目に染みちゃうよ? よし、全員そろったし今後の話でもしようか」


「よく私がご主人様の後ろにいることが分かりましたね」


「なんとなくかな。なんか君の感じになれてきた気がするよ」


 こうして目が見えるようになった双子が俺のもとへと加わった。


 *****


「俺の名前はフィセル。君たちを雇った張本人だ。君たちには使ったからわかると思うけど俺はある程度の怪我、病気だったら完全に治せる完全回復薬を開発した者で、そのおかげで金はまぁびっくりするほどある。だから君たちをその・・・、手中に入れて治したってところだ。そんなわけで多分俺はこれから命を狙われやすくなる。そこで君たちには俺の騎士になってほしいんだ」


「俺の名前はバンです。この横にいるアイナの兄でエルフの国が崩壊する前は騎士団に所属していました。・・・この目をつぶされてから死ぬことも許されずただ生きてきましたがあなたのおかげで再び光を見ることができました。あなたのためならこのバン、矛にも盾にもなります。あなたのために、この命を捧げます」


「私の名前はアイナです。兄さんと一緒にエルフの国の騎士団に所属していました。私も同じくあなたのためにこの身を投げ打つことを誓います。たとえ誰が敵であったとしてもです。あと・・・一つ能力があって私たち双子は互いの視覚と聴覚を共有することができます。なのでご自由にお使いください」


「ありがとうバン、アイナ。これからよろしく。俺の後ろにいるのは・・・」


「ヴェルといいます。お二方と同じようにご主人様に命を救われた身です。ですが二人と違って騎士団等に勤めた経験はありませんが、その分奴隷として勤めていた期間は長く身の回りの事はこなせますのでよろしくお願いします」


「よし、じゃあ朝ご飯にしようか! みんなお腹ペコペコでしょ」


 自己紹介も終わり朝食にしようとした時だった。


「その、申し上げにくいのですがご主人様、今までご飯はどうされてたのですか? 一応今朝一通り屋敷の中を見て回ったのですが・・・」


「え? あったと思うんだけど」


「確かにありましたね。干し肉と水が大量に」

「うん、それ」

「今まではこれで生活を?」

「え? ま、まあ」


 そう告げると三人の顔が固まる。

 なんか変なこと言ったか俺?


「・・ご主人様、恐らく我ら以外に料理人を雇ったほうがいいと思います。その・・・今後のためにも」


「え? そんなまずい!?」

「確かに干し肉だけじゃきついな・・・」

「そうですね・・・」


「えっ、え?」


 こうして俺が次やるべきことはすぐに決まったのであった。

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