第3話

 俺は秋田葉太。ようた。この名前が嫌いだ。ようたってだいたい太陽の陽を使う人が多い。だから勝手にコンプレックスを感じていた。誰も俺に興味はないと思ったけど彼女は違った。この名前の由来を聞いた。


「母さんがいうには葉っぱのようにしなやかにのびやかに、枯れても散っても、また何度でも伸びるようにって」


「素敵なお母さんだね」


「そんなことないよ。枯れて散ったらさすがに終わりだと思うけどなあ」


「土になって、また次の芽が出る養分になるよ」


「気の長い話だな」



 俺は彼女と長く付き合うだろうと勝手に思っていた。綺麗な長い黒髪を風がもてあそぶ。彼女は新しく好きな人ができたと言った。



「だって葉くん、私のことそんなに好きじゃなかったでしょ?」


「そんなことない」


「わたしよりいい人がいるから」



 彼女とはそうしてわかれた。まもなく受け持ったクラスにはよく似た顔の春川桜子がいた。桜子には姉の夕美がいる。夕美を受け持った際に、先生の彼女と顔似てるかもと話には聞いていた。会って驚いた。性格は真逆なのに姿が本当にそっくりだった。長い黒髪や、目元や口元なんかも…って変な意味はないけど。決定的に違うのが、声がでかくてとにかくよく笑うことだ。別人の春川の笑顔なのに少し複雑。彼女ももしかしたら友人や気の許せる誰かとは、こんな風に俺の知らない顔で笑っていたのかもしれない。


 春川には驚かされてばかりだ。まだ部活の申請書が届かない。聞いた話だと文化部のほとんどに興味があるようだ。まあ友だちの七海りんはかえって早すぎて驚いたが。そして今、公園でうつむいている。街灯は明るく、そのすぐしたのブランコ。見違えでなければあれは春川だ。こんな時間、何かあったに違いない。走り寄ろうとしたところで、春川が顔をあげた。

 いつかブランコで泣いていた彼女によく似ていた。その時俺は逃げた。声もかけず何も聞けなかった。どうしたのと隣のブランコにでも腰かければよかった、と昔の自分を思い返す。そのうち目の前の春川とブランコはぐんぐんと加速する。楽しそうだ。でも何かあったのかもしれない。俺は春川に声をかけた。



 ○○○○



「うるさくて悪かったな!!」



 俺はどうすればよかったんだ?




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