第26話
葵に制服を貸してもらえることになった俺は、目の前にあった不安要素が払拭されて再び落ち着いた生活になった。
しかし、クラスの中ではまだ借りる相手として声をかける候補すら見つからないという人も多い。
それに加えてテスト返却も間近に控えていて、人によってはテストがやっと終わったのに憂鬱になることが多いという人もいるに違いない。
そんな中、休み時間に古山と吉澤がある話をしている。
「何かさ……。最近メッセージアプリの友達登録してメッセージ送ってくる人が増えたんだけど」
「由奈にそういうことが起こることは予想していなかったわけではないのですけど、私にも正直なところ顔すら分からない同学年の男子から友達登録されるのですが……」
二人が話していた内容としては、今連絡を取る手段として最も用いられるメッセージアプリ内での話。
誰とでも気軽に友達登録して連絡を取る事が出来るが、それ故の悩みを二人は抱えているようだ。
「何か女の子経由とかで紹介してもらった~とか言われるとその女の子のこともあって無視出来ないんだよね……」
「そうなんですか? 私ならはっきり未読無視しますけどね。それで何かあってその女の子から話があればはっきり自分はその人と話する気がないことを伝えます」
「莉乃は強すぎるんだよねぇ……」
「由奈が弱いというか、気を遣いすぎなんですよ。正直なところ、女の子の紹介じゃなくて直接来ても無視すら出来ないじゃないですか」
「……最近はちょっと割り切れるようになったよ?」
「そうなんですか?」
「あんまり関わりなくて何話したら分からない人とかには一日未読無視とか……?」
「たった一日……」
正直なところ、聞いているとなかなかこちらはこちらで傷付きそうな内容である。
声をかける男子としてもそれなりに勇気をもって声をかけているのだろうが、どうあしらうかなどこうリアルな心理を聞いてしまうと当事者でなくてもなかなか心に来るものがある。
かといって、古山や吉澤の言い分も痛いほど分かる。
モテる身として、大してよく分からない相手がいきなり話しかけてきてそのまま話をするのはなかなか疲れるのは容易に想像できる。
そう考えると、未読無視はされると辛いがする側としては必要な選択肢であるようにも感じる。
「桑野くん。多分話聞こえていると思うけど、どうしたらいいと思う?」
「なぜ俺に見識を求める……?」
女子から特別な意味で必要とされたことが一度もないこの俺に、こんな繊細な問題についてどんな提言をしろと言うのだろう。
「由奈、桑野くんが辛そうな顔してますよ。無意識にいじめるのやめてあげてくださいね」
「え?? 心配しなくても、桑野くんには未読無視とか絶対にしないよ??」
「いや、多分そういうことではないかと……」
モテる男子なら、いろんな女子からメッセージをもらうこととかあるのだろうか。
あるのだとしたら、一度くらいは返事が面倒だなぁとか感じてみたいものだ。
そんなことを思っていると、再び二人での会話に戻る古山と吉澤。
こいつらって、毎回微妙に俺を巻き込んで心に傷を付けるか面倒事にしれっと巻き込んで俺を放り出すよな。
「まだ普通の話ならいいんだけど、なんかすぐに恋愛の話とかに持っていこうするんだよね……」
「宿泊学習近いですからねぇ。それを期に攻めたい人もいるということでしょう」
「まぁそれについては分かってるつもりだけどさ。そんなイベントに合わせてくっつくことをみんな狙うものなのかな」
「雰囲気重視ってことでしょう。実際に中学の修学旅行の時に成立したカップルも多かったですし」
「うーむ、分からんな……」
古山が首をかしげながら唸っている。
確かに体育祭の時、古山に告白してきた相手もそんな盛り上がった雰囲気の勢いで来たのだろうが、古山にとって何も効果がなかった。
「桑野くんは、男子の中で女子の誰かに告白するとかいう話聞いたりしてないの?」
「うーん、聞いてないな。というか、人脈の狭い俺に聞くのが間違ってると思う」
「男子だけのグループトークとかが存在するらしいのですが、そこで話題なったりとかはしないのですか?」
「えっと……」
吉澤の鋭い一言にグッとつまってしまった。
確か最近のグループトークでそんなことを話していたような気がするが、イケイケメンバーが勝手に盛り上がっているだけだとトークを開いてすらいない。
その上、グループトークの通知を完全にオフにしてしまっているのですっかり忘れていた。
「……また確認してみるわ」
「見てなかったんですね……」
「面倒に感じていたし、どうせ中身がないトークしかしてないと思ってました」
「なるほど……。まぁ気乗りしないトークを開かないのは私も同じなので気持ちは分かります」
確かに考えてみれば、イケイケ派なら古山や吉澤に宿泊学習の時に告白すると大胆に発言するやつもいるかもしれない。
単純に自分に自信を持っているという理由以外にも、自分が告白するから邪魔するなという圧にもなりそうだ。考えすぎかもしれないが。
もし、そうならさっさとこの二人に伝えてどう対応するか考える時間を作ってあげられるので調べる価値はありそうだ。
「桑野くんも未読無視とかするんだ!」
「なんか言い方が悪いな……。何か返事を必要とするグループトークとか個人トークは割りと真面目にちゃんと返すぞ。まぁ、ちょっと面倒で返事をかなり遅らせることもあるけど」
というか、モテるわけでもないし陽キャでどんな人とも気軽に話せるようなタイプでもないので、個人トークは話す人が割と限定されてきて無視することなど無いというだけなのだが。
ただ、大して仲良くもない人と何かのきっかけで話が続いたりすると、話を切ろうにも切れない時がある。
そういうときは面倒になって返信を後回しにした結果、忘れていて遅れることがある。
「でしょうね。だって私が散々桑野くんの心の傷口抉る内容を話してても、返信早いですもん」
「そうなんだ。私の時も、特に内容の無い話を振ってもすぐに返信来る」
「……」
この二人とは確かによくトークをする。
だが、今の話の通り最近のトークを思い返すとまともな内容を話した記憶が無い。
テストが終わるまではそこそこ落ち着きのある会話もあったが、今は見る影もない。
「でも、こうして気楽にお話し出来る人ってなかなかいないから助かってるよ」
「そうですね。お話し出来る人はいても、やっぱり多少なりとも気を遣う必要がありますからね」
「……そうかい」
素直にそう言われるとそれもそれで落ち着かないが、二人がありのままで話してくれていることに関しては悪い気はしない。
それに何だかんだ言いながらこの二人とのトークを楽しんでいる自分がいる。
色んな相手に話しかけられる中で、変わらずに相手をしてくれる二人にありがたいとも感じた。
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