子ども

 それから、両腕に幼子おさなごを抱いたひとりの女性がムスタファーに近づき、こう言いました。「私たちに子どもについてお話しください」

 彼は言いました。

「あなた方の子どもは、あなた方のための子どもではありません。

 彼らは、命それ自身を切望している命の息子・娘たちなのです。彼らはあなた方とともにこの世界にやって来るのであり、あなた方からやって来るのではありません。

 彼らはあなた方とともに生活しますが、あなた方の所有物ではありません。

 あなた方は、子どもたちに愛情を注ぐことはできます。ですが、彼らにあなた方の思想を植え付けることはできません。なぜなら彼らは彼ら自身の思想を持っているからです。

 彼らの身体のために家を作ってあげることは、あなた方の能力の及ぶところです。

 ですが彼らの心は、あなた方の家には住んでいません。

 なぜなら彼らの心は、あなた方が訪れることもできず、あなた方が見る夢に現れることもない明日の家に住んでいるからです。

 あなた方は、子どもたちのようになるよう努めることはできます。

 ですがあなた方は、いたずらにも子どもたちをあなた方のようにしようとして、それを果たせないでいます。

 なぜ果たせないかといえば、それは、人生が過去には戻らず、昨日の家に留まることができないからです。

 あなた方は弓で、あなた方の子どもたちは生によってその弓から放たれた活力ある矢です。その矢の射手いては、果てしなく続く道の上に立てられた印を見据えて、矢が速く遠くまで飛んでゆくように、力の限りあなた方という矢を曲げるのです。

 したがって、嬉しさと喜びを得るためにも、その矢の曲げ方は、賢明なるその射手の両手にゆだねなさい。なぜなら射手は、その弓から飛んでゆく矢を愛しているように、その両手に握られた弓をも愛しているのですから」

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